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国際シンポジウム「グローバル化と地域統合〜空間経済学の視点から」
【基調講演】ポール・クルーグマン教授(1)

 クルーグマン氏

 クルーグマン ご紹介ありがとうございます。アジア経済研究所、ジェトロの皆様、朝日新聞社の皆様、今回のシンポジウムを主催していただき、ありがとうございます。

 私のほうから、空間経済学の概念的な枠組み、ベナブルズ先生、藤田先生、私の3人で今まで研究してきた概念の枠組みについて一部ご紹介したいと思います。東アジア経済、地域統合にかかわる課題についても触れたいと思います。ですから、私の話は、アジアとはかかわりのないさまざまな証左について、概念的な側面にまず前半で触れ、後半では、アジアでの現在の地域統合の発展に触れていきたいと思います。

●空間経済学〜4つの命題〜

 最初に、空間経済学、経済地理学のアプローチについてご紹介させていただきたいと思います。今回このシンポジウムの切り口、空間経済学についてお話をしたいわけですが、まず単純に国家というものを唯一の単位とする考え方から脱却しなければなりません。複数国家を包括する地域、また地域内における都市という細かいレベルで包括的に考えていかなければならないわけです。一方で、世界経済は、民族国家の集合体だけではとらえることができません。国家によっては、米国のように非常に大きな国もあります。東海岸から西海岸までの距離は、EU(欧州連合)の東西の距離を上回っています。

 また、国によっては他国と地理的に密接な関わりを持っている経済もあります。例えばカナダの経済は米国と密に統合化しています。国際貿易は単なる民族国家によって営まれているのではないという考え方に、この学説は立脚しています。

 空間経済学を考える場合、4つの命題をまず示しておきたいと思います。

 まず、輸送コスト。つまり距離をまたいでビジネスを営んでいくために発生する費用を考えます。1万マイル間で発生するコストは、100マイル間で発生するコストよりも高いわけで、距離が経済活動に与える影響は依然として大きいと言えます。

 それから、配布されている私の論文で論じている2点目、これは細かくは申し上げませんが、やはりホームマーケット(自国市場)の重要性です。このホームマーケット効果理論(一国は、自国市場で需要の大きい製品をより多く生産し、海外に輸出する傾向があるという理論)について、私たちは最近の研究で検証してきました。ただ、今日の議論にはあまり関係していませんが、これも妥当な理論であるということをつけ加えておきたいと思います。

 3つ目の命題は、経済活動の集積によってさらなる集積が進行していく、自己強化型プロセスが存在する、ということです。これは都市開発にとって重要であり、可能性としては国際貿易にも重要なかかわりを持っています。

 第4の命題、というよりも疑問といったほうが良いと思いますが、世界地図に出ている国家間の境界線、つまり国境線はどこまで重要性を維持していくのか、という点です。私たちは、当初、非常に極端な学説、つまり単にロケーションと空間だけが物を言うのであって、国境線は全く関係ないという極端な理論から出発してみました。しかし、これは正しくはないという検証結果になりました。公式に定められた国境線は、やはり重要性を持っていると申し上げておきたいと思います。

※クリックすると、拡大します

●貿易には距離が影響

 現在の世界で、通信技術が発展し、輸送手段が便利になった中で、距離が持つ意味について少し考えてみたいと思います。

 米国とEU加盟国の貿易を見てみましょう。EU加盟各国のGDP(国内総生産)が、EU全体のGDPに占める割合を見ると、ドイツは約25%を占めています。一番経済規模が大きな国です。

 今度は、米国の対EU貿易の国別割合を見ると、ドイツが全体の約24%占めています。どんな国との貿易も、経済規模に比例しているという理論があります。国際経済学の重力モデルとして知られています。異なる2つの物体の間に働く引力と同じように、他の貿易条件が同じだという前提であれば、2カ国のGDPを掛け合わせた規模に貿易の規模は比例するという理論です。確かに米国とEUの関係ではこの理論が反映されています。

 このような分析の有用性は、それから逸脱した例外を特定する際に示されます。つまり、この基本的な傾向に即さない国では、どういうことが起きているのか。例えば、経済規模が小さなアイルランド、オランダ、ベルギーの3カ国は、米国との貿易の割合が高い。アイルランドの場合は、米国の多国籍企業がアイルランドに投資をし、特別な貿易関係を維持してきたという経緯があります。

 あとの2カ国は、私たちの議論にかかわりを持っています。オランダとベルギー両国がその経済規模に比して、米国との貿易規模が大きい理由は、地理的な理由です。オランダ、これはロッテルダムというヨーロッパで最も重要な港がある国です。つまり、多くのヨーロッパに輸入する製品はロッテルダムに入港します。また、ベルギーもアントワープ港があり、規模は小さいながら、やはりヨーロッパの入り口になっています。従って、ヨーロッパ各国の米国との貿易は、経済の規模にも依存していますが、貿易の地理学的な要素によって多少修正を加えていかなければいけないわけです。

 今度は、米国が二つの隣国、つまりカナダとメキシコとの間で行っている貿易を見てみましょう。米国は対ヨーロッパ諸国よりもはるかにカナダ、メキシコとの貿易量が多い。カナダとの貿易量は、EUすべての諸国を合計した貿易量よりもわずかに多い。カナダは、EUのGDPの約8%、経済規模としては大体スペインと同じくらいですが、対ドイツ貿易量の4倍、対スペインの12倍になっている。NAFTA(北米自由貿易協定)があるからではないか、と思われるかもしれませんが、実はNAFTAを結んでいるからだけではありません。NAFTAが締結される以前から米国とカナダ、メキシコとの貿易は非常に盛んでした。むしろ、貿易が盛んだったからこそNAFTAを締結する意味があったと言えます。従来、非常に強力な貿易関係があったから、地域自由貿易協定であるNAFTAを締結するのが必然的だったと言えるわけです。

 つまり、ここで重要なことは、距離が大きく物を言う、地理的な近接性が大きく物を言うことです。多くの研究がこの分野で行われてきました。2国間の距離が1%増えることで、その2国間の貿易は0.7%から1%の範囲で減少すると言われています。

●国境線が持つ意味合い

 距離が物を言うということに関して、またもう一つの要因の重要性について、お話したいと思います。

 カナダのブリティッシュコロンビア州、カナダの一番西部に位置する、バンクーバーが位置している州ですが、この州が行う州際交易を見てみます。カナダ国内のほかの州との交易量をそれぞれ交易相手のGDPの割合として示してみると、ブリティッシュコロンビア州に隣接するアルバータ州の場合は約5%分で、かなり高い割合になっています。

 ワシントン州、これはカナダ国内ではありません。ブリティッシュコロンビア州の南に隣接するアメリカの州ですが、この場合は約2.6%分になっています。ここで2つの重要なポイントが浮上します。

 つまり、距離が大きな影響を及ぼす。シアトルはワシントン州の州都です。それからバンクーバーがブリティッシュコロンビア州の州都です。シアトルとバングーバーの距離は100マイルぐらいで、こちらの交易ほうが、バンクーバーと3,000マイル離れているニューヨークよりもずっと多い。これは、距離が長くなれば交易量は減っていくことを裏づけています。 もう一つ重要なことは、やはり国境線です。ブリティシュコロンビア州から同じ距離では、カナダ国内州との交易量のほうが、米国内の州より多いわけです。国境線もやはり大きな影響を及ぼしていることが示唆されます。

 これを最初に発見した研究者にとっては、意図しなかった結果でした。比較をしてみると、カナダとアメリカの国境線は、約2000マイル距離をさらに加算するのと同じ効果を交易量にもたらしています。これは当初予想していませんでした。私が研究を始めた当初、前提としていた理論には矛盾しています。

 というのも、この国境線は、現在の世界ではほとんど意味がない、全く影響を及ぼさないと思っていました。カナダもアメリカも英語を話します。そして、非常に平和な状態にあり、国境線と言っても、通過する際にパスポートを提示する必要もありません。運転免許証を見せれば、簡単に通過することができます。それでも、このデータは、国境線は依然として意味合いを持っていることを示しました。

 とはいえ、ブリティッシュコロンビア州から離れたケベック州やオンタリオ州との交易量よりも、ワシントン州の交易量のほうが多い。国境線は貿易に影響するものの、距離ほど大きな影響ではない、ということです。


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