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国際シンポジウム「グローバル化と地域統合〜空間経済学の視点から」
【基調講演】ポール・クルーグマン教授(2)

 クルーグマン氏

●産業集積には歴史も関与

 クルーグマン さらに2つ命題があります。これはホームマーケットの影響はどういうものなのか、という点です。幾つかの研究でわかってきたのは、国の輸出には、国内市場の大きさが影響している。これがホームマーケット効果で、一国は自国市場からの需要の多い製品を多く生産し、輸出する傾向がある、というものです。これには、規模の経済(例えば、大きい規模になるほど平均生産コストが下がる効果)が大きくかかわっています。

 最後の4つ目の命題が、最も面白いかもしれません。実証事例は少しそろってないところもあります。この理論から出てきた一番興味深い論点、命題というのは、小さなイベントや一時的な出来事、これが非常に大きく恒久的な影響を及ぼすことがあるということです。そして、幾つかの結果に結びつく。これを専門用語で複数均衡と読んでいます。例えば、産業、工業地帯がどういうところにできるのか、大きな都市がどこにできるのか、また、高所得の地域がどういうところに出てくるのかといったこと。これらのきっかけになっているのは、歴史上の小さな出来事であったりします。それが自己強化というプロセスを通じて、大きな意味を持ってくる。市場が様々なものを引きつけてどんどん大きくなってくる。その結果、特定の場所に集中が起こることにつながっているわけです。

 例えばシリコンバレーの場合、最初に何人かの企業家がスタンフォード大学と一緒に事業を立ち上げたことが、将来に非常に大きな影響を及ぼした。同じようなことがいろいろな産業で言えます。

 第二次世界大戦とその後の影響に関する研究からは、相反する結果が出ています。まず日本への影響を見た研究では、戦時中の戦災被害、これはその後の都市形成にあまり影響を及ぼしていない。ある都市が戦時中に受けた被害の程度は、その後の都市の規模、15年後、20年後の規模にほとんど影響を与えていない。完全に復興をしている。これは自己強化、増幅ということがそんなに大きくないということを示唆するようです。

 一方、米国では、西海岸に軍事産業が増強されました。多くの人は、戦争が終われば、軍事支出は縮小されて、西部地域の産業は低下するだろうと予測しました。ところが実際は、そうではなかった。結局、一時的な出来事がほぼ恒久的に影響を及ぼしたわけです。なぜ、相反する結果が出てきているのかわかりませんが、どちらも非常に重要な研究だと思います。まだまだ証拠集めの段階だと思います。

●域内化する貿易

 地域統合のほうに話を戻したいと思います。

 まず、距離は意味をなさなくなってきているのかどうかということです。実際、今住んでいる世の中は、距離が意味をなさない世の中なのか、世界なのか。これは地域統合について考えるときに非常に重要です。距離に意味がなければ、地域というものを語る意味がなくなります。自由貿易協定(FTA)をカナダとスリランカの間でやってもいいではないか。カナダと米国、日本と韓国といった隣同士でやらなくてもいいのではないか。もちろん距離が全くそこまで意味がなくなると考える必要はないと思います。ただ、どこまでこの距離という要因が消えつつあるのかということは関心があります。

※クリックすると、拡大します

 現在の世界では、貿易は、域内化しています。過去と比べて域内化が進んできています。

 イギリスの輸出先を1910年と比較的最近の96年を比較してみます。この2つの時点の間には、2つの大きなグローバル化の波があったと言えると思います。

 1つ目の波、これは19世紀の終わりから20世紀の初頭にかけて起こりました。蒸気機関や電報という技術が出てきて、世界経済がより単一化したわけです。ただ、その後、大戦などが2回起こり、また保護主義があり、かなり後退しました。特に2つの大戦間の後退は大きく、戦争の前のレベルまで戻ったのは、1970年代になってからです。その後、新しいレベルのグローバル化が始まったわけです。

 イギリスの輸出について、ヨーロッパ、近隣諸国向け、アジア向け、その他地域向けに分けて考えます。データを見ないで予測すると、輸送費が高かったことを考えるなら、昔は貿易を近いところでやっただろうと思うのではないでしょうか。

 ところが、予想とは逆の結果が出ています。第一次大戦の前の1910年には、イギリスが貿易相手国としていた所は遠い諸国でした。ヨーロッパとのやりとりが非常に少なく、35%しかなかった。96年は、ヨーロッパとの交易が60%を占めています。アジアとの交易は、1910年には24%、96年では、11%です。

 これはどういうことなのでしょうか。1910年、1950年ぐらいまででも構わないと思いますが、当時は輸送・通信コストが大きかったため、貿易は、生産コストに大きな差がある場合や、自国では生産できないものを輸入する形で発生した。イギリスは、例えば熱帯諸国の物産品、綿とかコーヒーとか紅茶とか、そういうものを購入していました。逆に、第三世界では工業品を生産できませんでした。非常に大きな生産格差があったことが長距離貿易につながっていったように思います。

 ところが、1996年になると状況は変わりました。工業製品を途上国が提供できるようになりました。農産品は少なくなりました。通信費や輸送費が1910年当時に比べて、ずっと下がったことで、新しい形の貿易が短距離、長距離の双方に出てきたと考えられます。輸送コストや通信コストが低下すると、遠隔地での生産管理が容易になり、複数の国をまたいで生産することができるようになった。過去40年の間に、熱帯地方という立地からくる比較優位(他国より生産するのに優れている点)から農産品の輸出が高かった途上国の役割が、低賃金に基づく工業製品の生産へと変化しました。一方で、近隣諸国からは、工業品の中でも、差別化されたものを輸入することが増えてきた、と考えられるわけです。

●重みを増す中国

 話をアジアに戻したいと思います。まず皆さん、経済危機を乗り越えた後、今のアジアがどういう状況にあるのか、ご関心があると思います。アジアの新興工業経済地域、いわゆるNIESの国々は、GDPの成長率が危機の時期に大きく落ち込んでいます。アジア危機後、だんだんと回復してきています。しかし、NIESの諸国の成長率は、危機前のような成長率までには回復していないようです。大体3〜4%程度の成長です。以前は7%ぐらいの成長率でした。私は「The Myth of Asia’s Miracle」(アジアの奇跡という神話)という論文を書きました。アジアの成長はスローダウンするだろう、大きくカタストロフィー的な崩壊をするのではないという話をしました。アジアでは短期的な崩壊に近いようなものがありました。全体的にはやはりスローダウンになるかもしれません。もちろんこういった状況は、崩壊を期待した人からするとがっかりかもしれませんが。

 アジア域内の貿易が世界全体の中で何%を占めているのかを見ると、大体90年が9%、2003年は13%ぐらいになります。かなり増えています。

 アジアの域内貿易は、03年には50%です。域内貿易が大きくなっている印象を与えている原因は、中国にあります。中国は大きく伸びてきています。

 83年には、世界全体の経済規模(GDP)に占める中国経済の割合は2%強でした。一方、世界の総輸入に対して、中国による輸入が占める比重は1%前後でした。03年の数字を見ると、中国のGDP比が4%前後であるのに対し、輸入シェアは6%に迫っています。

 日本からの輸出をみると、中国の市場が非常に重要になってきています。83年に総輸出の4%を占めるに過ぎなかった中国市場は03年には15%を超えています。 しかし、中国の経済発展によって、日本が特別に強い影響を受けたわけではありません。中国から見ると、昔から日本からの輸入が世界の他地域からの輸入に比べて多かった。

 もちろん個々の企業のレベルでは大きな変化はあるかもしれません。中国が非常に重要な要因になったことは、日本だけに特別大きな影響があるのではなく、世界経済と、東アジア諸国にとっても、言えることだと思います。日本から中国への輸出は5倍に伸びていますが、世界の中国への輸出も5倍に伸びています。

 もう一つ、アジア全体の話をしますと、私自身は、貿易交渉については専門ではありません。特に政治的な側面は分かっているつもりもありません。しかし、一般的に言えるのは、地域貿易協定は、確固たる貿易関係がある場合に、非常に大きな意味をなすということです。例えば米国、カナダ、メキシコの場合、NAFTAは、基本的にしっかりした貿易関係があったことで、意味を持ちました。

 アジアは今、ほぼ域内貿易が貿易の半分を占めます。これはかなり強力な貿易関係です。ヨーロッパほど強力ではないため、地域貿易協定への動機はヨーロッパほど強くないかもしれません。ただ、ヨーロッパの場合は、非常にコンパクトな小さい地域に国々が集まっているという特殊要因があります。後ほど藤田先生からも話があると思いますが、NAFTAとヨーロッパの場合には、共通点があると思います。積極的な通商交渉を重ねており、米国では、南北アメリカの自由貿易協定という話もあります。

 東アジア経済圏は、今後どうなるのか。中国が状況を変える非常に大きな要因になっている。中国経済が順調に発展することは、距離の重要性を説く空間経済学の観点からも、日本にとって大きな意味を持っていると言えます。


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