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国際シンポジウム「グローバル化と地域統合〜空間経済学の視点から」
【基調講演】藤田昌久所長(1)

 藤田昌久氏

 藤田 藤田でございます。いつもは私の話は、大体予定時間の倍ぐらいになるのですが、今日は自分でコントロールしなければいけないと非常に引き締めております。

 私が目的とするのは、空間経済学の視点から東アジアのダイナミズムの理解を試みることです。それで、第2セッションの「東アジア地域統合の展望と課題」に予備的な考察を行ってみようと思います。

 皆さんのお手元にはコピーがたくさんありますけれども、全部飛ばさせていただきます。まず空間経済学の視点から東アジアの地域統合について考えてみたい。

●現実の説明には「規模の経済」

 空間経済学の基本的な考えといいますか、仮定は、最初の基調講演でポール・クルーグマン教授がまとめてくれました。要するに、距離や輸送コスト、ロケーションは、この地球上における経済活動の分布に、その変化に大きな影響を及ぼす。普通の人は、何を今さら言っているのかと思われるかもしれませんが、経済学では、教科書を見ても、距離や輸送コスト、ロケーションは、ほとんど入っていません。これは入れると随分面倒くさくなるということがあります。

 しかし、これらをそのまま普通の経済の教科書に書いてあることに入れたから、格別新しいことが出てくるわけではありません。新しいことが、要するに現実に近いことが出てくるには、いわゆる「規模の経済」が非常に重要です。

 卑近な例で説明させていただくと、例えば我々がジェトロ・アジ研でシンポジウムを開く時、最初に問題になるのは、どこで開くか、という点です。お金の制約もあるし、ポール・クルーグマン教授とか、参加者は皆、忙しい。1カ所でしかシンポジウムはできないとなると、常識的に考えて、一番潜在的な需要者、お客さんが多いところ、東京ということになります。

 同じように、ほとんどの大きな学会や、ビジネス・コンファレンスは、80%から90%ぐらいは東京で開かれているわけです。東京圏のGDPは日本の大体、25%から30%、人口で日本の4分の1ですね。人口やGDPに比較して催しの90%近くが東京で行われるのは、不釣り合いです。規模の経済が働いて、活動が集中するということです。マーケットに比較して不釣り合いに集積して、ますます東京が大きくなる原因がここにあります。

 最近は、知的創造、情報産業におけるホームマーケット効果が効いて、知的産業がますます東京に集まります。これは一つの例ですが、あらゆる産業の集積がこういうことで起こってきます。では、どうして東京かということになると、歴史がかかわってきます。

 それから、最後は、空間経済学では、こういう一般的な原則はどの空間スケールでも成り立つのではないか。一極集中になることは、ほかの国でも、また世界的レベルでもある程度、共通に成り立つのではないかと考えます。

 我々が注意しなければならないのは、輸送費は非常に複雑な性格を持っており、例えば通信技術の発達と、物を運ぶ技術の発達とでは必ずしも同じ影響を及ぼすものではありません。

 そういう理論は良いとして、では、現実はどうなっているのか。ベナブルズ教授はEUにフォーカスを当て、私は東アジアに焦点を当てて、空間経済学の理論と実際がどういう関係にあるのか。また、それからどのように理解できるかということをお話しようと思います。

●浮かび上がる三つの地域

 東アジアに行く前に、少し鳥瞰的に世界全体を見てみたいと思います。NASA(米航空宇宙局)が夜の地球を写真に撮りました。夜は国境線が見えませんので、これは昼でもなかなか見えないかもしれませんが、夜はもっと。地球上でどこに活動が主に集まっているか、活動が集まると、光輝くわけで、これを写真に撮った。

 一番輝いているのは、北アメリカのカナダの南からメキシコの北になります。もう一つは、EU(欧州連合)を中心としたヨーロッパ。それから日本からずっと海外沿いに行ったジャカルタのあたり、これが非常に大きな固まりになっている。輝いているところを丸で囲むと、「夢は夜開く」という歌がありましたけれども、「地域は夜輝く」ということになる。

 一つだけ、注意してほしいのは、大体北アメリカ地域、NAFTA(北米自由貿易協定)のメインの領域、それから我々が議論している東アジア、この空間的なサイズは、ほぼ同じだということです。ニューヨークからシアトルまでの飛行時間と、日本からシンガポールとほぼ同じと。EUは少し小さい。これはまた後で関係してきますけれども。

 要するに、今の輸送技術、それから情報の技術を前提にすると、従来の国というよりも、これぐらいの領域が自然な一つの経済領域だということが言えると思います。

※クリックすると、拡大します

 歴史的にこの3地域を見てみましょう。

 1970年からの3つの地域のGDPを見ると、70年では、東アジアは、日本を含めても非常に小さい。これが2000年になると、3つの地域は、おおざっぱに言って、GDPで同じ大きさになります。東アジアは、中国を含めて、非常に急速に成長してきたわけで、最近はもっと大きくなっているかもしれません。

●結合強める東アジア

 東アジアのGDPが全体として大きくなったからと言って、地域統合が進んだとは必ずしも言えない。問題は、東アジア内の結合が自然な比例的な伸びよりも強くなっているかどうか。域内貿易シェアが全体の貿易に比べてどのくらいを占めるか、ということが、その点を測る一つの尺度になります。

 EUは80年以降、域内貿易が60パーセントで推移しており、40年に及ぶ統合の歴史がありますから、3地域の中で一番高い。注目していただきたいのは、東アジア(インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、香港、韓国、シンガポール、台湾、中国の9カ国・地域)は日本を除いても、10何%から2倍ぐらいにこの20年で上昇している点です。要するに結合が強くなっている。また、この東アジアに日本も含めてみると、大体NAFTAと同じぐらいになっている。

 ですから、輸送費が低くなったから直ちに産業の立地がグローバルに分散して世界中で均一になるかと言えば、むしろ地域内での結びつきが強くなっているということです。

 それから、EUの域内貿易は最近下がってきています。なぜか、と言えば、EUの主要な15カ国は、北米地域ないしは東アジアに比べてずっと小さいわけで、どんどん外に経済活動の連携を伸ばして、自然な単位、大きさに近づいている、ということだと思います。

●経済成長が生む産業集積

 これまでは、マクロに見たわけですが、次はミクロに見てみます。ミクロで見て言えることは、経済成長、経済活動の集積の過程では、地域間格差、所得格差も少なくとも最初の急速な成長のうちは、非常に大きくなるということです。

 最近、中国が急速に成長していますが、中国もご存知のように中国全体が一様に成長しているわけではありません。いわゆる3つの核、北京、天津が1つの核、上海が2つ目、それから香港と広東の核、これが核となっている。重要なのは、経済成長からは、様々な形の多様な集積が生まれる。例えば北京は政府、金融、学問の活動の集積が圧倒的に大きい。上海と香港には、違った活動が集積しています。

 今度、タイのバンコクを見ると、自動車産業がものすごく集積しています。30年ぐらい経ってこれだけ集積したわけです。自動車には普通2組の活動が要る。いわゆる組み立てるセットメーカー、それに対して、部品などのサプライヤーです。セットメーカーとしては、トヨタ、スズキ、日産、ホンダ、いすゞ、日野、マツダ、三菱、GM、BMWがある。サプライヤーは、日系企業だけで1,300社集まっています。30年かけてセットメーカーとサプライヤーの累積的集積効果でここまで大きくなってきている。ASEANでもいろんな違った大きな集積が出てきています。マレーシアでは電子産業です。

 どうしてこういう大きな集積ができるのか。バンコクの自動車産業のうち、例えばトヨタを見ると、ピックアップトラックが主流です。ピックアップトラックはタイでは米国以上に愛好家が多いわけです。需要が多いところで集中的につくる。そこから世界中に輸出するという体制です。これは典型的なホームマーケット効果です。これができるのは、ある程度、貿易自由化が進んで、関税も下がり、非関税障壁も低くなってきていることがある。広い意味で輸送コストが低くなっている。輸送コストが下がって、初めて特定産業の累積が起こるということです。集積は差別化をしなければならないので、インドネシアでは自動車でもミニバンが主流です。

 バンコク、ジャカルタに自動車産業が、マレーシアには、電子、特に消費者向けのエレクトロニクスが集積しているのも、貿易自由化を通じてグローバルに輸出もしやすくなったこと、要するに、広い意味での輸送費が安くなったということがあります。

 東アジアに戻ると、東京からジャカルタに至るまで、その間にソウル、北京、上海、香港、ハノイ、ホーチミンシティ、バンコク、クアラルンプール、シンガポールと巨大な都市に産業集積が起こり、そこを中心にして成長が続いている。

 東アジアは、海を挟んでいますから、空間的な物理的な領域は同じでも、輸送費という面から見れば、米国よりも安いわけで、一つの地域として深い統合が進むことが、当然予想されます。

 今は東アジア、特に中国が急速に成長していますが、長い歴史から見ると、特別に新しい現象ではありません。産業革命がイギリスで起こって、英国が世界の核、コアになりましたが、やがて、ドイツと米国が伸びた。一つの核ができると、「資源の大規模な動員」によって、周辺地域の中から「フロンティア経済」なるものが現れ、発展していく。そして技術革新も内生的にできるような形で本当に核になっていく。そういう形で東アジアでも、1950年代に日本がコアになった。日本をコアとして、今度はアジアNIES(新興工業経済地域)がフロンティア経済になり、今、新しく中国が出て、多核化が進んできている。

 1980年、世界全体における日本の輸出シェアは6ポイントで、20年たっても、ほとんど同じです。それに対して中国は0.9%から6%まで急速に成長している。アジアNIESも3.2%から6.1%に伸びている。ASEAN、これはシンガポールを除いたものですが、2.8%から4.7%になった。

 中国の輸出を見ると、多国籍企業が輸出全体の50%近くを担っている。日本、NIES、米国は、いろんな中間財、部品、素材、機械、資本財を中国に輸出し、世界の工場である中国で組み立てて、一部は中国で販売しますが、大部分は米国や日本、米国、NIESに売る。経済関係は、非常に連携している。世界の経済結合というのはものすごく深くなっていると言えます。


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