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連続シンポジウム「転機の教育」第3回 「大学改革 ― 危機を抜け出せるか」

【冒頭発言】 川本八郎氏



 川本 八郎氏

 山岸 それでは、川本先生、どうぞ。

 川本 なかなか難しいテーマでありまして。と言いますか、今日、大学を取り巻く国内、国際的状況の中で、我々全体が日本の大学の危機的状況をどう脱皮し脱出していくかということなんですけれども、私は改革とか革新とか創造という場合に、大体日本の大学は間違ってなかった、文句を言われる筋合いはないというぐあいに、語弊があるかもしれませんけど、確信をしている大学があるとすれば、その大学はあまり進まないだろうと。

 言いかえますと、大学というものが社会、歴史の中でどういう社会的、歴史的使命を持っているか。その使命から自分たちの大学を問い直してみて、そして、欠陥がある、反省すべき点がある、改善すべきことがあるという具合に、自らの痛みを自覚する大学が、改革をしていくことができる。こういう具合に、私は思うんです。

 ささやかですけども、私の学園もいろいろな改革をやってきました。私はその改革を進めてきている1人ですけれど、いろいろやらせていただいて、つくづく感ずる点がありますのを、きょうここで簡単に私の感想を述べさせてもらいたいと思います。

●社会的倫理性が後退している

 それは、皆さんと私があまり変わらないと思っておられることは、この間、新聞に日本の代表的大学の教授が、しかもその大学の責任者が、補助金の不正行為を行っていると。半年前に、同僚が補助金の不正使用を行ったことについて、その人が謝っておるんです。そういうことをなくさないといかんと。舌の根も乾かないうちに、今度、その人がやっとるんです。

 これで大学を信用しますか? 大学が尊敬されますか? 真理を追求し、真実に接近しようという学問を営む場所の、その当事者が、そういうことをやっていて、日本の国民が信用してくれますか?

 日本という社会の中で、正義を貫いて、正義が貫かれる日本の社会をつくろうというのに、検事たるものが暴力団と癒着をして、これで一体、正義を貫くという国民の願望と元気が出ますか?

 爆弾を送られて、さもそれが当たり前のごときことを言って、そのことをまじめに謙虚に見解も示さない政治家がおって、それで一体国民はなるほどと思いますか?

 私は率直に言って、残念ですけれど、日本の状況というのは、あまり褒められたことが多くない。そこで、私なんかが感じますのは、政界を見てもその他を見ても、新聞で残念なことがいっぱい出てきてますけれども、そのほとんどが大学卒業生であります。そうじゃございませんか?

 大学卒業生ほど、社会に重要な役割を占めるところに位置するんです。しかし、社会の重要なところに位置している人たちが、尊敬されないことを行っておるんです。このことを、大学は自らに問わないとだめだと。

 今どこでその議論が展開されてますか? 私はやっぱり、そういうことを本格的に議論して欲しい、また、しなければだめだと、大学は。こう率直に思います。

 言い換えますと、社会的倫理性の後退なんです。希薄性なんです。国際的倫理観の喪失なんです、我が日本は。これを倫理と言うと、家庭教育や初等中等教育のことのように言うかもしれませんけれども、日本の高等教育機関でそのことを日本中挙げて議論をすべきときだと、私は思います。(拍手)

 私は、立命館の法学部で学ばさせてもらったんですけれども、皆さんも一緒だと思いますが、憲法の条文については、いろいろ意見があると思います。私もあります。しかし、少なくとも日本国憲法の前文に書かれているここを、私、これから読みますから、反対の方は日本の国民には誰一人いないと思う。それは、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と言っているんです。

 まさに、国際的観点で、日本の国民がこれから社会をつくっていく、国際社会をつくろう、どういう位置を占めようかということを、憲法の前文は言っとるんです。

 この観点から照らして、私ども大学人は、本当にそういう具合に大学のありようと運営と改革を議論しているのか。

 そういう意味では、私はもう一度ここで高等教育機関として、社会的倫理性の問題を議論しなければだめだ、これが、危機脱出の重要な一つの課題だと思っております。

 「じゃあ、川本。おまえ、どうして脱出するのか、具体的に言ってみろ」と言われますと、そう簡単じゃございません。私自身はそんな具体的な回答を持っておりませんけれども、こういう課題を少なくとも私どもが共通の認識にするということが、大事なのではないか。これが第1点でございます。

●競争原理を導入

 第2点は、これはもう古今東西を問わず、私のところの大学の改革もさせていただいて、私の経験ですけれど、物事を発展し、良くしようとしましたら、いかなる分野であれ、競争の原理を導入しなければだめだというのは、私の信念であります。

 競争なく、すばらしいことができるのは、神であり、仏であり、釈迦であります、キリストであります、と私は思います。我々はやはり物事を改善するには、競争の原理というもの――ただ、競争の原理というときに、相手をないがしろにしろ、相手をつぶそうというのは、競争じゃないんです。自分も高め、相手も高めるというのが競争なんです。そういう競争の原理を大学の改革運営の原理として持たなければだめだ。

 競争の原理を入れますと、どういうことが起こるかといいますと、私の経験ですけれど、その競争の原理が入ることによって、自らの大学の教学、管理運営、財政の政策を樹立しなければならなくなります。政策の樹立を要請します、競争の原理は。

 2つめ、競争の原理を入れることによって、自らの組織の責任を明確にしなければならないという方向を導き出します。

 3番目、競争原理を導入することになって、少なくともその大学は、学生を原点に、学生を大切に――大切ということは甘やかすことじゃないですよ――学生というものの原点において、物事を検討しようという原則を導いてくれます。

 4番目、大競争原理の導入によって、その政策の視点がより高く、より深くなってまいります。言いかえますと、セクショナリズムの発想じゃなくて、もっと全国民的、全世界的な発想で、政策の樹立へという具合に導いてくれます。

 最後に、競争の原理を導入することによって、日本のいわば学歴社会、日本の中における官尊民卑の思想、私は私学人ですから、嫌というほどそのことを身にしみて日々感じます。これはだめです。そういう意味で、序列主義、官尊民卑というものの考え方を、いわば是正していくことを、競争原理は助けてくれます。

 もっと挙げることがたくさんあると思いますけれど、そういう意味で、大学の管理運営、学問・研究の自由、アカデミック・フリーダムというものを尊重しながら、しかも財政的には、国家が大胆な援助を前提としながらも、私はこういう原理というものを、あらゆる分野に導入することが大切であると、これが第2番目の課題であります。

●母校が消えないために

 第3番目は、それでいっても、今、清成先生がおっしゃっていただきましたし、生駒先生もおっしゃいましたけれども、日本の大学は過剰な状況であることは変わりない。言い換えますと、なくなっていき、つぶれていき、傾いていく大学が出てくるんです。

 じゃあ、これ、どうするんですか。いたし方ないんだ、18歳人口は少ない、18年前からわかってるんだと。今になってばたばた言うから、おまえ、悪いんだと。何騒いでるんだと。数が多ければ、消えていくのも必然ではないか。何をやかましいんだというぐあいに、思われる方もおられるし、そう思っている方もおられるかもしれませんけれども、私も半ばそう思っている。

 しかし、私の持論は――こんなことを言いましたら川本は浪花節だと怒られるかもしれませんけど、あなた方、もし東京都のど真ん中じゃなくて、地方のところで自分の村が、世のため人のために水力発電所になって、ダムになって、自分の村が、自分のお父さんやお母さんやおじいちゃんやおばあちゃんの墓もなくなっていく。社会的、歴史的には賛成だけれど、理性的には、感情的には、我がふるさとが消えることは、いたたまれない気持ちです。そう思いませんか。

 卒業生にとって大学がなくなるということは、そういうことです。卒業生にとって、自分の母校が消えるんです。どんなに悲しく寂しい思いを抱いてその卒業生は存在することになるのか。

 私はだから、いかなる大学であれ、大学の学長、理事長、教職員は、その思いを本気になって考え、何よりもそのことを認識すれば、そういう自分の母校を、社会的、歴史的に役立つ大学として発展、充実させるということができると思う。言い換えると、その大学と、その大学の卒業生と学生のために、教職員は自らの命を捧げるぐらいに努力しなかったら、今、だめなときであるというぐあいに、率直に言って思います。

 そういう思いを持つことによって、私は知恵が出てくる。あるいは、共同連帯の手を差し伸べることができる。そして、1つでできなければ、2つでいこう。2でだめなら3つが協力しようというぐあいに、日本の大学をいわば助け合いながら進めていく。

 今大事なのは、言い換えますと、個別の大学が、私が言ったように全力を挙げて努力することと相まって、共同と連帯の方向性と仕組みをつくることが、強く求められていると思います。

 感想ですけれど、これで……。(拍手)

 山岸 ありがとうございました。





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