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朝日新聞シンポジウム「転機の教育」 |
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尾池和夫氏 |
●10年おきに変わる企業の声
尾池 敷居は高いんですかね。今、いろんな話が含まれておりましたけれども、例えば、私はNTTの方にお目にかかるのが一番多いのは北京の大学に行った時であります。向こうへ行くと、今、携帯電話のシンポジウムをやっていますとか、NTTだけじゃないんですけども、日本の企業からこれだけの寄附をいただいて建物ができていますとか、いろんな話を北京で聞くんですね。なかなか日本には冷たいなと思うわけであります。
さっきの1つシンボルとして今のお話の中のことに触れさせていただきますと、スイスのIMDのお話が出てきました。これは、インターナショナル・インスティテュート・フォア・マネジメント・ディベロップメントという組織がありまして、各国の大学がどのように評価をされているかという資料、指標を出しています。ただ、どういう仕組みでその指標をつくっているかという仕掛けがあって、清水さんも「大学ランキング」のお仕事をなさっているわけですけど、いろんなランキングの仕方があるわけですね。
IMDのやり方の特徴は、日本の場合、「日本の大学を日本の企業の経営者たちはどういうふうにご覧になっていますか」というアンケートを日本の社長さんたちに送るわけです。その答えを集計して結果を出すんですね。そうすると、47国の間の47位が日本だったんですよ。いかに日本の社長さんたちが、日本の大学をボロクソに言っているかということが、その数字に出てくるわけです。
アメリカは非常に評価が高い。アメリカの企業主たちは、アメリカの大学をいかに大事に思っているかということが1位としてあらわれてくるわけであります。寄附のお金、企業のお金が外国に流れていったり、いろんな仕組みのもとになっている。IMDの指標というのはそういうふうに見なきゃいけないんですね。
まさにそれが(日本も)以前は非常に高かったんです。1970年代は、私のところの学生は、もう遊んで、さっき言いましたように、字も書けない、レポートもちゃんと書けない。そんな学生をやっぱり何とかしなきゃいけないと思うんだけれども、とりあえず単位を集めて卒論させますと、企業の方はそこへわざわざ迎えにこられて「どんなに成績悪くても勉強してなくてもいいですから、とにかくください。後は何とかしますから」と言って、70年代は就職難を全然感じなかったんですね。
それが、ある時代の特徴だったと思いますが、だんだんそうではなくなった。「すぐ使いものになる学生を育ててください」というふうにだんだん変わってきた。最近またとみに変わってきたなと思うのは「即戦力」という声がちょっと小さくなってきまして「やっぱり日本で基礎研究をちゃんとやってください」という声が聞こえるようになってきまして、非常に嬉しいんですけれども。そういう10年ぐらいおきに企業の声は変わってくるんですね。
その考え方のあらわれそのものが、外国のあるどっかのある指標のつくり方をしているところにはちゃんとあらわれてくると、こういう仕組みだと思うんですね。
だから、物事は何でもそうなんですが、仕組みをよく理解して、その数字を見るというのが評価の一番のポイントであろうと思うんです。そこのところを皆さんはよく学習をしながら聞いていただきたいなと思います。
それで、もう1つは、お金の流れ方の問題で、税制の問題があります。日本では例えば、遺産を大学にポンと寄附しても税金がちゃんと取られるわけで、アメリカは違うんですね。寄附しようとする人が、国に納める税金を払うか、あるいは、大学に寄附するか、どっちにしても同じで損得がない。だから、自分の好みで、自分の名前を残してくれる、冠をつけて残してくれるんだったら、そっちへ寄附しようとかという思想があるわけですね。
日本はそれができないわけです。大学に寄附するのはいいんだけれども、税金はちゃんと取りますよというような仕組みです。そこのところを改正しなければ、幾ら大学がもっと自力で金集めろと言われたって、集まらないんですね。大学が自立するのは結構ですから、そういう税制もちゃんと変えていただきたいと私は思っているわけです。
法人化された国立大学も安西先生のところの私立大学も、国公私立大学に金をもっと回して、基礎研究をしっかりやって、教育をして、国際競争力を持つ。こういう時代にこれからはなってくると思っています。その辺が大分違うんじゃないかなという気がします。
●複数の企業・大学による研究開発を
それから、敷居の話ですけど、実は私は産官学連携、非常に大事だと思っておりまして、いろいろ考えています。自分の大学の歴史を見ると、108年の歴史を持っていますが、その間ずっと産学連携やっているんですよね。
一番最初は何かというと、京都大学が1897年に生まれるんですけど、その前の年から、三高の先生がレントゲンの発明したX線装置の開発を島津製作所と一生懸命やっていて、日本ですぐ島津製作所がX線装置を売り出すわけですね。それは京都大学の生まれた年からもう産学連携やっておるわけですね。それで、1901年に第1回のノーベル賞をレントゲンがもらうわけですが、100年後に島津製作所からノーベル賞受賞者が生まれるのは、そういう歴史があるからだと私は思っているわけです。
それから、例えば第1号の学生のベンチャービジネスと言われている堀場製作所です。今では「世界の堀場」になっていますけれども、それは、堀場さんがうちの大学の4回生の時に始めたビジネスでありまして、戦後すぐ、ベンチャーの第1号というのが京都大学から出ている。ずっと産学の連携だ、ベンチャービジネスだと今言われているのは、ちゃんとやってきている。
私自身も、振り返ってみますと、随分、産業界に貢献したなと思っている。企業と一緒に特許を出したこともありますが、そういうのをずっとやってきていて、それが目にあんまり見えてこない。やっぱりさっきの広報の話だと思うんです。見えてなかったのだろうと思います。
今、我々が考えているのはどういうことかというと、そういう個人のおつき合いの産学連携ではなくて、もちろん、それは大事なんですけれども、それ以上に、大学がお世話をすることによって「包括的アライアンス」と呼んでいるんですが、複数の企業と複数の大学とが1つのテーマを設定して、それを開発して成功に導いていく。これは大学が中心になってお世話しないと、なかなか企業同士の共同研究というのは難しいと思うので、今それに力を入れています。もう既に特許を取って「曲がディスプレイがもうすぐできそうですよ」なんて発表をこの前にしましたけれども、そういうことをこれからどんどんやっていく。
だから、NTTさんはどこの敷居をご覧になっているかわからないけど、もっとどんどん来ていただく。北京でお目にかかるんじゃなくて、京都へ来ていただきたい。こういうふうな企業の大学に対する見方というのも、やっぱり一遍ちょっと考えていただいたほうがいいかなと、今のお話聞いて思いました。
清水 大星さん、どうぞ。
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大星公二氏 |
大星 私は、NTTのことだとか京都のことだとか言っているんじゃないんですよ。全体のことを言っているんですよ。
ご案内のとおり、京都というのは全国で最もベンチャーが早くでき、最も独創的な会社が一番できている。これは京都が特別そういった地域ですから、もう京都については全く問題ないんですよ。ただ、全国がそうなっているとは、とんでもない話なんですよ。
それから、IMDの話ですが、ちょっと解説いたしますと、私はIMDに関して大学批判をしているんじゃない。IMDの解説について言うと、こう言っているんですよ。IMDでは、日本の国際競争力といった時に、大学のレベルは高いと言っているんですよ。なぜならば、企業の研究所が特許をとっているのは世界でトップクラスなんですね。それから、京都大学をはじめ、大学が国際的ないろんな研究雑誌、専門雑誌に発表しているオリジナルなレポートのレベルは非常に高いと言っているんです。
ところが、なぜ国際競争力が低いと見ているかというと、それが企業に取り入れられて、具体的なシーズが具体的に新しい市場をつくり出すというところにいってないんじゃないかと。これは、実は、IMDは日本の経営者を批判しているんですよ。
日本の経営者というのは、これだけいいシーズがあるのに、それを生かしてない。要するに、それを生かすためには、ある程度、ハイリスクなんですね、リスクを負うというアントレプレナーシップの欠如と言っているんですよ。だから、日本における経営者のアントレプレナーシップの欠如は、まさに49カ国中49番目と言っているんですよ。
ということで、IMDの話は、先生を、大学をどうのこうのと言っているんじゃなくて、実は我々が、我々のことで考えなきゃいかんと。その時に、我々は勝手に、京都大学は違うかもしれないけど、ドコモは違いますよ。ドコモは5兆円企業だから、大学は敷居が高いなんて思っていませんよ。ちょっと声をかければすぐ来るんですよ。
ただ、一般の日本の会社の人たちというのは、産業界は、やはり大学はちょっと、特に国立大学なんかは、ちょっと近寄りがたいという雰囲気が何となくあるんじゃないですか。
だから、もっとそんなことはないよということで、大学の先生のほうからも、ちょっとキャンパスから出ていって「何かうまい話はねえか」というぐらいの、そういうコミュニケーションというか、リレーションというか、アライアンスといいますか、交流といいますか、それでシナジー効果を出す必要があるんじゃないかと申し上げたい。
清水 この点については、私立大学はどうやってこられたんですかね。
●「象牙の塔」感覚の技術系、リスク回避の産業界
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安西祐一郎氏 |
安西 私立大学一般のことを一口ではまとめにくいのですが、慶応義塾の場合は、外に財団法人で慶応工学会という組織を設けました。もう40年を越える歴史があります。だから産学連携の受け皿には長い歴史があって、現在も非常に活発に産学連携をやっております。
ただ、日本の大学全体の問題ですけれども、私は産学連携の今の日本の状況はかなり問題の根が深いと思います。すぐにアメリカと比較する人が多いですが、アメリカの仕組みと日本の仕組みの質的な差が非常に大きいために、なかなか表面では比較できにくいなと思います。
1つは、アメリカのいわゆる主要大学は、大体先生が給与を9カ月分ぐらいしかもらわないこともできる。その場合、3カ月分は自分で稼ぐことができるわけです。
それから、給与、人事のシステムが違って、日本の場合は私学も含めて、今のところ、まだまだ横並びなのでありますけれども、アメリカは、隣にいる先生の給与が自分と非常に違う、そういうことがあるわけですね。毎年、給与の査定というのが、アメリカの主要大学でしたら当然あるわけです。
そういう仕組みの中で、例えば、アメリカの場合には、大学の人がスピンアウトして、ベンチャーをつくるということも幾つか当然ある。
ところが、日本の場合、日本の大学の先生が完全にスピンアウトして外に企業をつくって大学を出ていくというケースは、それほどありません。それぐらい、大学は居心地がいいというのでしょうか、そういう仕組みになっているわけであります。
大学院の学生のことを考えてみましても、多くの方は日本のいわゆるトップレベルの大学と、MITとかスタンフォードとかハーバードとか、そういうところと比較をされますけれども、アメリカの場合には、大学院生という時には普通はPh.Dの学生を言うわけです。日本の場合は、技術系の場合、多くはマスターの学生を含んで言っています。そこからして違うわけで、マスコミの方もぜひそのあたりは十分考えていただければと思うのですけれども、日本の場合には、技術系の博士課程が修士課程に比べて弱すぎるという状況があります。
また、理工系と言いますけれども、いわゆる純粋理系、自然科学系と技術系は完全にマインドが違うわけで、目的も違うわけです。日本の技術系の分野が――これは偏見かもしれませんけれども――長い間の象牙の塔の感覚でもって、できれば自然科学風に研究をやるというのでしょうか、そういう面がずっと続いてきたために、産業界で10年後にどこがシーズになっていくのかという見方をする技術系の学者が少なくなっているということがあるのでは。自然科学、例えば、物理学のように研究をやりたい、そういう感覚が無意識に技術系の学者の間にあるのではないかという気がいたします。
それから、アントレプレナーシップがなかなか経営者側にないとおっしゃっておられましたけれども、産業界を拝見しても、5年後、10年後にどういうシーズが出てきそうかということを大学の人と真剣に議論をして、大学と一緒に研究開発をやろうかという議論まではいくのですけれども、でも、やはり明日どうするのということが、どうしても企業側から出てきて、とてもとても大学とは一緒にはやっていられませんということがあるのではないかなと思います。
5年、10年というのは、ちょうど中間的な難しいところなわけですね。夢みたいなことは言っていられない。一方で、明日の糧をどうするというレベルでもない。その中間的なスパンのシーズを、大学側とどういうふうに詰めて、それを多少のリスク、あるいは、大きなリスクをもって研究開発をやっていくということが、なかなか日本の企業の場合には、まだできにくいのではないかという気がいたします。
これは今までの不況ということも関与していると思いますし、尾池先生が言われたように、10年ぐらいのスパンで何となく景気の波に合わせて「大学は基礎研究をやっていればいいですよ」と言われた時代もあるし、「いや、もっとちゃんと産業界に役に立ってください」と言われる時期もある。そういうスパンがあるわけでありますけど、そういうことを超えて、やはり大学側、特に技術系の分野の人たちは、これからの社会に本当に役に立つシーズを十分にとらえた研究をやっていかなければいけませんし、産業側もそういう5年後、10年後を創る、リスクを持った研究開発を、特に日本の大学と一緒にやっていただき、何か成功例をぜひつくっていっていただければと思っております。
清水 どうぞ。
●ドコモと慶応、中期的なプロジェクトを実践
大星 たまたま今、慶応の塾長さんからそういうお話がありましたので、はっきり申し上げます。私どもドコモと慶応の湘南藤沢キャンパスとでは、中期的な視点で私どもの方からかなりのお金を出して、目標をお互いに議論しながら共通化して、それに向かって取り組んでいるといういい事例が出ています。
それから、もう1つ。先ほど尾池先生の言われた言葉をちょっと思い出したのですが、しきりに先生は「北京でおまえのところの連中と会うんだけども、東京では会わない」と、大分根に持っているらしく、先ほど昼飯の時も言われたので、ちょっと説明します。 やっぱり中国の人たちというのは、ものすごくチャレンジングなんですよ。私のところに北京大学とか清華大学出た連中がベンチャーやっているって私のところに売り込みに来て、私も一部それを応援しているとか何かということもありますしね。
それから、私は京都大学には行っていませんけども、東京のいろんな大学で授業を持ったり、あるいは、講演なんかをしていますよね。それから、私はハーバードだとかケンブリッジやウォーリック(英国)でもやっております。中国の清華大学でもやっています。
日本の大学と中国の清華大学とで、私が授業したり講義した後の対応が全く違う。日本の大学で質問ないかといったら、ほとんどないですよ。聞いているんだか聞いてないんだか、わからないですよ。たまに質問があるかと思ったら、頭が白い社会人だったですもんね。
ところが、中国の清華大学でやった時に、夜の6時から始まって、私の話は大体1時間ぐらいで、その後、これは質問というよりディベートですね。夜の11時までになったんですよ。
だから、中国のあの若い学生さんたちは、戦後間もなくの我々がそうであったごとく「我々は戦争に勝ったのに、戦争に負けた日本がアメリカに次ぐ世界で第2の経済大国になっている。技術の最先端を行っているじゃないか。どうしてなのか」ということを必死になって私から聞き出そうとするんですね。それも、質問じゃなくて、何か言うと「いや、こうじゃないか」というインタラクティブなディベートがされる。
そういうことが、日本の学生さんには見られない。豊かなんですかね、何となく聞いているんだか聞いてないんだか、全く無表情で、あれだったら、先生、我々、北京行っちゃうのよ。(笑)
安西 NTTドコモと慶応は大変いい関係にありまして、本当にありがたいなと思っておりますし、今、大星さんの言われた通り、一緒に中期的なプロジェクトをやらせていただいております。
また、今、大星さんが言われた慶応の湘南藤沢キャンパスには、やはりかなり活発な学生がおりますから、ぜひ大星先生に講義をしていただければと思います。
清水 この話は、どんどん展開したいところなんですけども、残り十数分で2つ目の質問をやらなくちゃいけないので、移ります。
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