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朝日新聞シンポジウム「転機の教育」
締めの言葉:「日本の高等教育をよくするために」(1)

 清水 きょうのシンポジウムの時間も残り少ないですが、最後に、日本の高等教育をよくするために一体、何が必要なのか。これだけは言いたいということを皆さんにおっしゃっていただきたいと思います。

 基調講演をしていただいた寺崎先生にも、これまでの討論を聞いて、何かまたおっしゃりたいことがきっと生まれたんじゃなかろうかと思って、壇上に上がっていただきました。

 寺崎先生から順にお話をいただきますけど、大星さんは先ほどから腕を撫しておられますので、最後に締めくくりで。

 大星 いや、1つ最初に言わせてもらいたいんですよ。

 清水 じゃあ、最初にお願いします。

●政治と企業がサポートする体制づくりを
写真

大星公二氏

 大星 要するに、今までの議論の中で、学長さんたちが大変苦しんでおられる。国立大学に限らず、私立も含めて、大学教育でやっぱり一番問題なのは、金なんですよ。いかにして安定的な財政基盤を確立するかということが非常に大きな問題なんですよね。

 先ほどから、今回の改革で競争的な資金という話がやたらに出てくる。それはいいんですよ。効率化し、大学がもっと社会との関わりを持つ。

 ただ、そこで失ってはならないものがあると私は思うんですよね。それは何かというと、大学の歴史――ヨーロッパですと何百年という歴史ですけども――長い大学の歴史を振り返ってみると、やはり長期的に見て、世界といいますか、社会の発展に、技術的にもイノベーションとか、あるいは、文化的にも、場合によっては、アートだとか人間を豊かにするという面で一番中核的に働いていたのは大学なんですよ。

 それが、何か金がねえとか、競争的などうのこうのっていって、大学まで学長さんが金のことで飛び回るというようなことは可笑しい。これは変えなきゃいかんと思うんですね。

 本質的に競争的なことは必要なんだけども、大学の自治、学問の自由が長期的発展の源であり、知識、文化、技術の創造の源であり、この根っこのところが矮小化していったら、国家百年の計を照らして、日本は非常に大きなものを失ってしまう。やがて国家は、10年、20年で衰退して、日本は二流国家になりますよ。

 やはり、アカデミック・フリーダムが持つ知的所産が、長い目で見ていかに社会の発展に寄与してきたか。この話というのは、何か観念的なようなので、具体的に私の体験したことを1つ申し上げます。

 平成8年、1996年の時点で携帯電話がものすごく売れていた。その時に僕は5年先、10年先にドコモは危なくなると予測したのです。今はちょっと怪しい状態になっていますけどもね。なぜならば、携帯電話というのは、言うなれば水道の蛇口のようなものです。蛇口が全部ついたら、売り物はない。だから、蛇口の中を流れているトラフィックに付加価値をつけなきゃいけない。

 では、どんな付加価値をつけるかといった時に、それは知識、情報、エンターテインメント、例えば音楽のようなものだ。そのためには、電話屋からコンピュータ屋に変えようじゃないか。端末を簡単なパソコンにして、インターネットと接続して、これで何と3年間で3000万という前代未聞の需要をつくり出した。それで、ドコモの現在の売り上げのうちの2兆円か3兆円を支えるようになった。

 私がこの時、平成8年の時点で「今のままじゃダメだ」と、モバイル・コンピューティングという新しいコンセプトをつくり出し、iモードへと発展してったのです。はっきり言って、私があの時言わなければ……。今、世界で日本は、ことモバイルについては最先端を行っているんですよ。あの携帯電話で何もかもできる、そこまで行ったんですね。

 それじゃ、それは大星さん、あなたが自分で考えたのかといったら、実はそうじゃないんですよ。今から30年前に、いろんな本を読んでいましたら、アメリカのダニエル・ベルという人が既に言っていたんですね。「今、アメリカは工業社会で、テレビだの洗濯機だのクーラーだの車だのバカバカ売れて非常に経済は発展している。だけど、これが全部行き渡ったら、どうなるのだろうか」というポストインダストリアル・ソサエティという問題を提起した。

 それに、マッハループという人が「物の豊かさから心の豊かさに移っていくだろう。従って、それは知識だとか情報である」ということで、ナレッジ・インダストリー(知識産業)というコンセプトを打ち出した。

 また、個人レベルでは、アブラハム・マズローというアメリカの心理学者が「低所得の間は、衣食住で精いっぱいだ。だけど、だんだん豊かになったら、所得が倍になったからって、1日3回食べている食事を6回も食べない。だから、エンゲル係数はどんどん下がっていく。それはどこに向かっていくのかというと、精神の豊かさに向かっていく」という。やはり大学を中心とする先生方の、アカデミック・フリーダムな知的所産というものを私が受けついで、それを具体化したのです。

 それで、日本は世界で最先端のモバイル・コンピューティングになったので、もし大学が、非常にこういったようなものから追われて矮小になって、インテリジェンスのベースというものが崩れるようになったら、こんなことができなくなる。

 では、安定的資金をどう得るか。1つは、先ほど来言っておりますように、欧米先進国の公的大学、私立大学も含めて、公的資金の供給というのはGDPの1%ですが、日本は0.5%なんですよ。

 ですから、議員内閣制で小泉さんも一生懸命やっておられて、あっちこっちに顔も立てなきゃならない、ちょっとばらまきをやらなきゃならないということも分からないこともないが、大胆に絞り込んで教育の方へ残りの0.5%を絞り出すということは可能なはずなのですね。  英国のブレアが首相になった時に「あなたは首相になって何を一番やるか」と尋ねられ、ブレアはすかさず教育だと言ったんです。第1に教育、2番目も教育、3番目も教育だと言ったんです。これから英国が世界の平和と反映のために、持てる力を最大限に発揮し、世界のリーダーシップをとって世界や人類の発展に寄与していこうとするならば教育以外にはない。そういう明確な国家ビジョンを示したんですね。

 それを具体化するためにどうしたかというと、2004年の2月にブレアは、当時イラク問題で大変評判悪くて大変だったんですけども、議会のかなりの反対を受けながら押し通したのは何かというと、大学で学生は授業料を払わなくていいと言ったんですよ。学生は在学中授業料を払わなくていい、君たちは、大学を卒業した後、払いなさいと。しかも、職について一定の所得になるまでは払わなくてもいいと。所得が一定を超えたら、そこからは所得に応じて金を返してくれというふうにやったんですね。

 僕は、ここにブレアのノブレス・オブリージュの精神というものが脈々としている。実にこれは本当の政治家のあるべき姿というのを感動的に現している。こういったようなものを日本の政治家に持ってもらわなきゃいかんと僕は思いましたね。

 もう1つは、産業界ですよ。産業界は大変なリストラで、どんどん黒字になってきている。無借金経営の会社がどんどん出てきている。それで、リストラやってそれだけの利益を出したら、ちょっと教育のほうに向けてくれないかというんですね。

 会社は、特に大企業は、今や社会の公器ですよ。社会の公器たる企業というものが今見直されている時に、コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティー(CSR)ということが言われているんです。そういうことで社会貢献というのは非常に大きくクローズアップしてきているんですね。

 実は、企業利益の1%を社会貢献に回す「1%クラブ」もあります。社会貢献の1%の半分の0.5%はヒモつきでなく、自由に使ってくれというふうに企業は教育に国立、公立、特に私立に金を出すべきだと私は思いますね。

 それぐらいのやはり経営者というものは、短期的な目先の利益だけに追われず、国家百年の計に対して、社会が教育によってレベルアップして豊かになれば、結局、企業にとっても返ってくるわけですよね。

 ということで、私はやはりヒモつきでないアカデミック・フリーダムを確保するようなサポート・バット・ノット・コントロールで、自由に使ってくれと。それで大学の自治と自由、自由な研究というものを確保するような、サポートする。政治も、企業も、社会全体としてこれをバックアップするという体制こそ早急につくるべきだ。これをぜひ申し上げたいし、これから我々はNPOとかそういうものを通じながらこれを実現していきたいと思っております。

 清水 ありがとうございます。具体的な提言つきでお話をいただきました。

 米澤先生、お願いします。

●「厳しさ」と「お金」が必要
グラフ

表1

グラフ

表2
※クリックすると、拡大します

 米澤 ありがとうございます。本当に大星さんのおっしゃるとおりだと思うので手短に、一言で言うと、教育をよくする必要があって、いい教育をつくるためには、「厳しさ」と「お金」が必要だと思います。

 お配りしたものを簡単に言いますと、「Chart2・5」(*表1)というやつは、大学・短大の卒業率をあらわしています。日本は世界一卒業しやすい国だということをただ書いてあるグラフなんですけども、これがOECDのグラフとして載っています。

 そして、日本は今かなり大学に入りやすい国でもあるわけです。つまり、大学に入りやすくて出やすい国というのが今の日本の大学の姿であることについて、日本人として、もっと真剣に考えるべきだと思います。

 その次のもう1つの図(*表2)は、日本は確かに私的負担が大きくて、高等教育の大衆化を70年代に実現した時には、私立大学が安価で大量の──大量のとかって失礼ですけども――教育機会の提供に貢献したと思うんですね。そこで、日本人の多くは安心していたと思います。ただ、これを見ていただきたいのは、私的負担と公的負担の両方を合わせた――下のグラフが大学で上のグラフが初中等の――GDP当たりの教育費を示していますが、そのいずれも日本はOECD諸国の平均以下だという現実です。

 これでは、もう日本は教育大国とはとても言えない、それも、私的な負担を入れても言えないという状況にあるのだと思います。

 たった1年前に、我々はロースクールを日本として立ち上げたわけですけども、その時に、ロースクールをかなりよい教育にしようと努力をして、私立の多くは赤字で悩むだろうというような話がありました。多分、国際的水準にあわせて大学教育を行っていけば、相当にお金がかかるわけで、その意味では、我々はどこかで大学教育の手を抜いているのだと言わざるを得ないのかなと思います。

 そういう意味で、ぜひ大星さんにご尽力をいただいて、いろんなところからお金が出てくればいいなと思います。

 清水 どうもありがとうございました。

 安西先生、どうぞお願いします。


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