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【シンポジウム】

市民とメディアのいま――新聞週間を前に

2002年9月23日、東京・築地 浜離宮朝日小ホール




 個人情報保護法案や人権擁護法案に代表される“メディア規制”の動きが強まるなかで、取材や報道のあり方、社会のなかでのマスメディアの位置付けが、改めて問われている。民主主義社会で真に役立つ取材報道とは、どのようなものだろうか。市民一人ひとりと新聞のつながりを見つめ、深めていくためには、何が必要だろうか。これらを話し合うシンポジウム「市民とメディアのいま――新聞週間を前に」(朝日新聞社主催)が9月23日、東京・築地の浜離宮朝日小ホールで開かれ、約400人が参加した。ノンフィクション作家の柳田邦男さんをはじめ、マスメディアに深く関わるパネリストたちが、マスメディア――特に新聞の課題と役割について、会場からの質問を交え、活発な論議を展開した。(敬称略、順不同)

◇基調講演者
柳田邦男(やなぎだ・くにお)さん
 ノンフィクション作家。NHK記者として、広島、東京で勤務したのち、74年にフリーに。「マッハの恐怖」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。毎日新聞「開かれた新聞」委員会委員。著書に「言葉の力、生きる力」(新潮社)、「緊急発言いのちへI、II」(講談社)、「この国の失敗の本質」(講談社文庫)、「犠牲(サクリファイス)わが息子・脳死の11日」(文春文庫)など。生と死をみつめて、執筆、講演を続けている。66歳。
◇パネリスト
河野義行(こうの・よしゆき)さん
 今年7月から長野県公安委員。1994年6月27日に起きた松本サリン事件の通報者で、自らも被害を受け、家族と共に入院した。翌日、長野県警が容疑者不詳のまま河野さん宅を家宅捜索。「容疑者視報道」の被害も受けた。翌年、朝日新聞をはじめ各メディアは河野さんに謝罪した。現在も意識が戻らない妻をマッサージなどでいたわる毎日が続く。容疑者の権利擁護や報道被害についての講演も行い、権力による規制ではなく自主的な報道評議会の設立を訴えている。著書に「『疑惑』は晴れようとも」(文春文庫)、「妻よ!わが愛と希望と闘いの日々」(潮出版社)など。52歳。
中沢けい(なかざわ・けい)さん
 作家。自宅で全国紙4紙をとっている、熱心な新聞読者。1998年10月〜2000年9月の2年間、朝日新聞紙面審議会の委員を務め、5人の委員で2カ月に1回、計12回、選挙や事件の報じ方、「くらし」面などについて討議した。99年夏の審議会では、雇用流動化やリスク負担に関する記事などを例に、価値観の変わる時代に新聞はだれの立場に立って何をどう描こうとするのか、と問題提起した。高校在学中に書いた小説「海を感じる時」で群像新人文学賞を受賞。著書に「楽隊のうさぎ」(新潮社)など。月刊誌「すばる」(集英社)で「教育と感傷」を連載中。42歳。
林香里(はやし・かおり)さん
ジャーナリズム研究者。東京大学社会情報研究所助手を経て、昨夏からドイツ在住。デュッセルドルフ大学講師。元ロイター通信記者。近著「マスメディアの周縁、ジャーナリズムの核心」(新曜社)で、日本の新聞の家庭面、アメリカのパブリック・ジャーナリズム運動、フェミニズムやエコロジーなど新しい社会運動から生まれたドイツの全国紙「タッツ」を分析。市民とのつながりからジャーナリズムを問い直した。健全なジャーナリズムのための自主規制組織として半世紀近い歴史を持つドイツプレス評議会についても研究。39歳。
(コーディネーターは、高成田享=たかなりた・とおる。朝日新聞論説委員<米州、国際経済、メディア・情報を担当>。前アメリカ総局長。54歳。サブ・コーディネーターは、津山昭英=つやま・しょうえい。朝日新聞東京本社編集局長補佐。日本新聞協会編集委員会「集団的過熱取材対策小委員会」幹事。55歳)

 司会 それでは、ただいまより朝日新聞社主催のシンポジウム「市民とメディアのいま―新聞週間を前に」を始めさせていただきます。私、本日、司会と報告を担当いたします朝日新聞編集委員の河原理子(かわはら・みちこ)と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、最初に、主催者を代表しまして、朝日新聞社専務取締役の君和田正夫(きみわだ・まさお)がごあいさつ申し上げます。

 君和田 ご紹介いただきました君和田です。皆さま、ようこそおいでいただきました。このシンポジウムには、定員の3倍のご応募がありまして、3分の2の方々は残念ながらおいでいただくことができませんでした。北海道から九州まで、それから高校生という若い方々も入っていらっしゃいます。本当にありがとうございました。

 メディアは今、幾つかの大きな流れの中にあると言ってよろしいかと思います。1つは、やはりデジタル化に伴う多メディア時代という流れです。さまざまな情報がインターネットなどを通じて瞬時に世界中を走りめぐる世界だろうと思います。したがいまして、ある情報があっと言う間にマーケットに影響を及ぼし、政策に影響を及ぼし、そして、私たち国民生活にも影響を及ぼす、こういう状況が生まれようとしております。

 また、今まで情報というのは、一人ひとりはむしろ受け手であったわけですけれども、今は個人一人ひとりが、情報を得るだけでなくて、同じように発信することができるようになりました。この大きな流れの一つの特徴は、情報量が飛躍的に増えつつあるということです。情報量の増加に伴いまして、マスメディアのありようについて、市民の皆さま、国民の皆さまから、歓迎する声と同時に厳しい視線を浴びるようになりました。これも一つの大きな流れであろうと思っております。

 本日、パネリストとしておいでいただいております河野さんのように、ご自分で報道被害を体験された方を含めまして、報道のありよう、報道の内容の問題、取材の仕方の問題、さまざまな問題が現在私たちに突きつけられていると思っております。人権擁護と言いながら人権を擁護していないではないか、国民が本当に知りたい情報を伝えていないのではないか、こういった根源的な問いも長い間、私たちに問いかけられてきたテーマですが、ここ何年間か急速にそうした問いかけが、量的にも増えましたし、内容的にも非常に鋭いものになってきていると考えております。

 新聞に限らずマスメディアというものは本来、国民の側に立って報道するという役割を担ってきたはずなんですけれども、報道することによって国民を被害者にしてしまう、つまり、国民を敵に回すという局面がしばしば現れるようになったと受けとめております。そうした中で、政府によるメディア規制というものが恐らく浮上してきたと考えることができるわけです。これもまた大きな流れの一つであろうと思っております。私たちは、言論の自由が侵されるときには、毅然として闘うつもりでおります。けれども、やはりメディアそのもののありようにもう一つ突っ込んだ議論、突っ込んだ考えをしていかないと、国民の皆さまの共感を得られないということもまた事実であります。

 このシンポジウムに先立ち、メディアについて朝日新聞は全国世論調査を行いました。85%の方々が、新聞が、マスメディアが社会に貢献しているという評価を与えてくれている一方で、60%の方々が不満をお持ちでいらっしゃるということがわかりました。また、新聞についての期待をお尋ねしますと、ニュースの解説という項目が33%、約3分の1の方々がニュースの解説を期待しておりまして、次いで独自の調査報道、これもまた26%という数字が出ております。

 本日は、そうしたマスメディアの大きな状況の中で、これから私たちはどのような方向を目指したらいいのか、目指すべきかということを中心に、基調講演は柳田邦男さんにお願いいたしました。そして、続くパネル討論には、先ほど申し上げましたサリン事件の被害者であり、また、報道被害者でもあられる河野義行さん、それから、作家の中沢けいさん、それから、メディア研究者でいらっしゃる林香里さんの皆さまにおいでいただいて、討論をしていただきたいと思っております。

 こうした基調講演、討論を通じまして、皆さまが、メディアはこれからいかにあるべきか、あるいは、どの方向を進んだらいいのか、これだけ情報があふれた社会の中で、どのように情報を選んだらよいのかといった問題につきまして、ヒントあるいは解答を得てお帰りいただけましたら、私たち主催者の本当の喜びとするものであります。同時に、私たち報道する側といたしまして、こうした基調講演、討論を通じまして、新聞が、読者の皆さまあるいは市民の皆さまと、いい意味の緊張関係を維持しつつ進んでいくにはどうしたらよいかということを考えるチャンスにしたいと考えております。

 きょうは、長い時間になりますけれども、皆さま、どうぞ最後までごゆっくりお聞きいただきたいと思います。なお、きょうのシンポジウムの内容は、後日、新聞で報道させていただきますと同時に、インターネットのアサヒコムで載録させていただく予定でございますので、どうぞお読みいただけたらありがたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)





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