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シンポジウム「超少子化と向き合う―問われる生き方・施策」
【討論前半】(2)「冒頭発言」松谷明彦氏―1

 松谷明彦氏

●2030年の日本経済は、今より15%縮小

 松谷 政策研究大学院大学の松谷でございます。

 私からは、今後の少子高齢化と人口減少のもとで、日本経済や地域経済、さらには、財政や年金がどうなるかということについてお話ししたいと思います。

 経済や財政、年金といったものは、個人の生活あるいは企業経営にとっての基盤となるものでありますから、これからの少子高齢化問題についての議論における前提条件ないしは基本的な枠組みといった位置づけとして、私のお話をお聞きいただきたいと思います。

 なお、最初にお断りしておきますが、きょうお示しする経済、財政、年金についての予測は、すべて私自身の推計によるものであります。

 ところで、先ほど阿藤さんから、人口につきまして、今後、50年、100年と、極めて長期的な人口の動きについてのお話がありましたけれども、経済、財政、年金という面から見ますと、この人口の高齢化あるいは人口の減少については、そのレベルではなくて、進展の速度が問題になります。

 つまり、人口が前年に比べてどれぐらい高齢化したのか、あるいは、どのぐらい人口が減少したのかということが、経済の成長率、あるいは財政や年金の収支に決定的な影響を与えるというわけです。

 そして、この速度という点では、人口の高齢化や人口減少が急速に進む、つまり、それらの速度が非常に急速であるというのは、実はここ30年ぐらいの間なんですね。

 従って、ここでは、めどとして、2030年までの経済や財政、年金についての展望をお話ししたいと思います。

 まず、今後の日本経済ですけれども、これからの急速な高齢化によって、働く人の数が短期間で大幅に減少します。女性の就業率が上昇傾向にありますけれども、そうした上昇傾向が続くということを前提としても、これから30年後、2030年の労働人口、正確には労働力人口といいますけれども、労働人口は2000年より約2割減少すると見込まれます。

※クリックすると、拡大します

 従って、日本経済は大きく縮小せざるを得ないということになります。この図で申しますと、ブルーのAのライン、このような形になると予測されます。率で申しますと、2030年は2000年に比べて約15%の縮小、日本経済自体が15%縮小するというわけでありです。

 これに対して、それでは、外国人労働者を活用してはどうかという意見も聞かれますけれども、外国人労働者の活用といいましても、当然限度があります。現在、先進国で最も外国人労働者比率が高いのはドイツですけれども、仮にドイツ並みに日本も外国人労働力を活用したとしても、その場合、国民所得は赤いBのラインぐらいにしかなりません。あまり差がないことがおわかりいただけるかと思いますが、まさにそれだけ今後の日本の労働力人口の減少が、急速かつ大幅なものであって、外国人労働力をもってしても、なかなかそれをカバーし切れないということがおわかりいただけると思います。

 従って、今後の日本経済については、これまでの右肩上がりというものから、完全に右肩下がりに転換してしまうということは避けられないと言えるわけですし、そうしたものとして、今後、経済の運営を考えていかなければならないということであろうと思います。

●働く人1人当たり賃金は拡大、余暇も増える

 経済の規模は縮小しますけれども、しかし、決して心配する必要はないわけでありまして、人口が少なければ、経済規模が小さい、これは世界各国について言える話ですが、従って、人口が減るわけですから、経済の縮小は当然であろうと思います。

 重要なのは、人口1人当たりの国民所得、生活の豊かさの指標でもありますところの人口1人当たりの国民所得でありまして、これは計算いたしますと(図)、このブルーのラインのように、少し山なりにはなっておりますけれども、2000年と2030年で、ほとんど水準は変わりません。日本の現在の1人当たりの国民所得は世界最高水準にありまして、為替レート、物価の関係もありますけれども、数字で比較しますと、ドイツやフランスを5割以上上回っている。極めて高い水準にあるわけであります。

 その水準で横ばいですから、従って、30年後においても、世界でも有数の豊かな国民であるということにかわりはないわけです。

 加えて、それは働かない人も含めた場合の話でありまして、労働者だけについて見ますと、こちらのほうは、現在よりも所得水準は上昇します。今後、技術進歩がありますから、そうした技術進歩によって、生産性が向上し、かつ、それに見合った賃金が支払われるとすれば、時間当たりの賃金は、この一番上の図の赤いラインのように上昇していきます。

 こうした時間当たり賃金の増加をどう使うかということですが、より豊かな生活のために、この時間当たり賃金の増加を、労働時間の短縮に回すということが考えられるわけでありますが、経済学的には、余暇時間というのは労働時間以外、睡眠時間も含めて全部余暇時間ということになるわけですが、非現実的ですので、それらの時間、8時間を除きまして、16時間から労働時間を引いて週の余暇時間を出してございますけれども、現在の労働時間の短縮傾向が続くとした場合には、週の余暇時間は、2000年が76時間でありましたが、2030年には83時間と、1割近く増加するわけです。

 そうした労働時間の短縮の場合でも、労働時間当たりの賃金の上昇によって、1人当たりの賃金はちょうどこの真ん中のライン、ピンクのラインのように、基本的には2000年よりも上昇いたします。9%以上の増加です。

 従いまして、日本経済自体は縮小いたしますけれども、個人一人一人をとってみれば、決して今より貧しくなることはないし、働く人については、今よりも豊かになるというわけですから、少子高齢社会というのは、経済の面から見ても、決して暗い未来ではないと言えると思います。

●地方の所得上がり、都市部との所得格差が縮小

 それでは、地域経済がどうなるかということをお話ししたいと思います。

 少子高齢化という中では、一般的に大都市はまだいいけれども、地方は大変だという意見が聞かれます。しかし、私はそれは逆だと思います。

 先ほど言いましたように、経済にとって重要なのは、高齢化の速度です。そして、高齢化の速度ということになりますと、地方より大都市のほうがはるかに早いわけです。なぜかといいますと、現在、大都市には20代、30代の人が非常に多くて、いわばそういう人たちに大きく偏った人口構造になりますけれども、これから20年後、30年後にその人たちが高齢者になる時に大量の高齢者になりまして、その結果、高齢化率が大幅に上昇する。

 従って、大都市のほうが高齢化率の上昇速度が早いということになるわけですが、重要なのは、その過程で、労働力もまた高齢化するわけであります。これは、想像していただけるとわかると思いますけれども、若い労働者と高齢の労働者を比べますと、作業という点では、能率はかなり違うと思います。

 従いまして、大都市の労働者が、今後大きく高齢化するということは、今後における大都市の生産能力が大幅に低下するということを意味するわけです。

 そうなりますと、産業や企業は、そうしたところにいることを嫌って、より若い労働力構造にある地方に分散していくということが考えられるわけでありまして、そうした観点を加えまして、私のモデルによりまして、2000年と比較した2030年における各地域の1人当たりの県民所得の増減率を予測したのが、この図でございます。

 図からごらんいただけますように、先ほど日本全体では1人当たり所得水準がほぼ横ばいだと申し上げましたけれども、1人当たりの県民所得を各地域別に見ますと、図のように、東京とか愛知、三重、岐阜県を足して中京圏――東京圏は東京、千葉、神奈川、埼玉でございますが――そうした東京あるいは名古屋を中心としたところ、それから、阪神圏――これは大阪府と兵庫県でありますけれども――こういった3大都市圏およびその近郊の地域では、軒並みかなり大幅にマイナスになります。

 一方、逆に地方では、かなりの地域で所得水準が大きく上昇していることが見てとれると思います。

 そういうわけで、少子高齢化というのは、一般に言われているのと違って、地域間の所得格差を縮小するという方向に働くというわけでありまして、いわば、今後は日本中のどこでも豊かな生活が築けるだけの基盤ができるというわけですから、少子高齢社会というのは、いわば国民みんなを豊かにする社会だと言うこともできると思います。


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