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孫正義社長の“側近”が語る「ターゲットはドコモ」
携帯&固定電話に突入するソフトバンクの戦略

 いまソフトバンクは通信業界の台風の目のような存在になっている。特に目立つのが、電話を中心とした動きだ。昨年は固定電話で日本テレコムを買収、格安の「おとくライン」サービスを開始したほか、携帯電話にも参入を表明、電波帯の許認可をめぐって総務省を提訴するなど強気の手段に出た。果たして同社は通信業界で何をしようとしているのか。孫正義社長とともにヤフーBBを立ち上げ、現在はソフトバンクBBの常務として、固定通信および携帯電話事業を中心にビジネスを統括する宮川潤一氏に真意を聞いた。(文・西田宗千佳、写真・中村 宏)



インタビューに答える宮川潤一ソフトバンクBB常務。孫正義ソフトバンク社長とともにヤフーBBを立ち上げて以来、同社通信分野のキーマンとして動いてきた。

■ ■ ■ ■ ■

パート1 携帯電話編
「ライバルはドコモ。これから戦争をする」


 2004年12月6日、ソフトバンクBBは記者会見を開き、携帯電話事業への参入を目的に800MHz帯での無線局免許を申請、総務省に受理されたと発表した。同社は以前から携帯電話ビジネス参入を強く希望しており、一見当然に見えるニュースだが、業界内では驚きをもって迎えられた。理由は「受理された」からだ。

 無線局免許は、希望する事業者が総務省に申請、その後審査を行い、認められた場合に交付される。今回の場合も総務省は「今後の審査の後、免許の交付を決める」とコメントしているが、事情はそう単純ではない。

 宮川常務は「従来、免許申請が受理されて免許が交付されなかったことはほとんどない。要は申請の前には決まってしまっているということ」と話し、こう付け加える。「ただ、今回もそうだとは限らないですけれど」


「我々は徹底的に戦う」
総務省相手に訴訟も辞さず


 ソフトバンクは、携帯電話事業への参入に向け、総務省を相手に激しいつばぜり合いを演じている。争点となっているのが、問題の「800MHz帯」だ。

 800MHz帯は、現在NTTドコモとauが利用している帯域で、ビルの谷間や屋内でも電波が届きやすい。基地局の設置数を減らせるため、どの事業者もこの周波数帯が欲しい。

 800MHz帯をより効率的に運用するため、2012年をめどに再編成の準備が進んでいる。ソフトバンクが問題視するのは、再編後、帯域をどう割り当てるのかのルールが不明瞭だという点だ。

 04年8月6日、総務省は「800MHz帯におけるIMT-2000周波数の割当方針案についての意見募集」という文書を公開した。「パブリックコメントの募集」とも呼ばれる文書で、総務省の方針を示したうえで反論・修正案を募集するものだ。その中に「再編後の800MHz帯も、現在利用している事業者に割り当てる」との文言があった。すなわちドコモとauに割り当てるという案だった。

 これにソフトバンクは怒った。

 電波法6条7項では、携帯電話の電波に関する免許申請は、電波帯域ごとに総務大臣が公示する。1.7GHzや2GHzなどは、この公示の対象になっているが、800MHz帯は対象になっていない。「これまで公示しなかったので、今回も慣例として行わない」と総務省は説明する。

 宮川常務によると、800MHz帯の割り当てについて総務省に説明を求めた際、次のような打診を受けたという。

「さまざまな事情から800MHz帯は難しい。ところで1.7GHz帯に興味はないか」

 ここで引いてくれれば別帯域を与えるという示唆だと宮川常務は受け取った。これを聞いて、同社の孫正義社長は「裏口から入れというのか」と激怒したという。これについて総務省は「公平な割り当てを心がけており、事前交渉や前例により、特定の事業者に有利な計らいをしたことはない」と反論している。

 いずれにしても、このままでは自分たちの届かないところで割り当てが決められてしまう……ソフトバンクは危機感を抱き、実力行使に出る。10月13日、総務省を相手取り、周波数割当方針案の差し止めなどを求める行政訴訟を東京地裁に起こしたのだ。裁判の場で総務省から「方針はビジョンに過ぎず、法的拘束力を持たない」「800MHz帯への免許申請は可能」という言質を得た。これを受けて同社は訴えを取り下げ、12月6日に免許を申請する。

 法廷闘争に持ち込み、総務省の方針を変えさせる……強引に見える手法だが、宮川常務は「あくまでも、公のものである電波の割り当てルールがアンフェアであることを示すのが真意」と説明する。

「今回の戦いで恩恵を得るのは我々ではなく、20年後のベンチャー企業かもしれない」と宮川常務は言う。「それでもいいから、まずあり方を変えようと思った。我々はこういうことにはしつこい。徹底的にやる」


「安さ」以外の対策示唆
「携帯電話のビジネスモデルを変える」


 とはいえ、800MHz帯が難しいことは理解している。周波数帯の再編は関係者が時間をかけて議論してきた経緯があり、ソフトバンクの主張には他の事業者からの反発も強い。

「事業は当面1.7GHzでということになるだろう」と宮川常務。800MHz帯を主軸と位置づけつつも、1.7GHzをそれまでの「バイパス」(孫社長)として使う考えだ。

 実際、1.7GHz帯は06年にも新規割り当てが始まるため、すぐにビジネスを開始できる現実的な帯域だ。同じ時期に、携帯電話会社を乗り換えても電話番号が変わらない「番号ポータビリティー」が導入されることもあり、参入タイミングとしてこれ以上の時はない。イー・アクセスなど、他の事業者も同時期の参入をもくろむ。違うのは参入規模だ。

「我々が狙うのはドコモ。ドコモと同列で戦えないのなら興味はない。ツーカーと同規模の事業者がもう1つ現れても、産業構造は変えられない。僕らはこれから戦争をするんです」(宮川常務)

 イー・アクセスなどは、新規参入者2社に、上り・下りそれぞれ10MHzづつを割り当てるという案を示している。帯域の広さは、サービスに収容可能なユーザー数につながる。10MHzでは数百万人規模でとどまり、ドコモの5000万ユーザーにはとうてい届かない。最低でも1000万〜2000万ユーザー収容可能な20MHz分が欲しい、というのが、ソフトバンク側の狙いだ。

 どうやって巨人・ドコモと戦うのか? 一般には料金の安さ、と思われているが、宮川常務は「新規参入させていただくのだから、安くするのは『義務』。それだけではない」と笑う。

「仮に料金を半額にしたとしても、それで取れるユーザーは市場全体の10〜20%、1600万人に過ぎない。僕らのゴールはそんなところにはない」

 具体的な戦術はまだ明かせないというが、「国内の携帯電話のビジネスモデルを破壊し、新しいものを創造するところまでやる」と語る。「ADSLの立ち上げも大変だったが、あの時とは比較にならない覚悟で臨んでいます」

■ ■ ■ ■ ■
パート2 固定電話事業編
テレコム+直収型で激安に


 携帯電話と並んで業界を驚かせたのが日本テレコムの買収だ。6月の発表当初は「メリットがわからない」などと評判が悪かった。だが8月30日に、低価格電話サービス「おとくライン」が発表されると、評価は変わった。12カ月間、あらかじめ登録した3つの番号への通話が無料、特定の時間帯の通話料金が9割引、これ以外にも破格の安価なサービスを売り物にしている。

 この安さは、「直収型」と呼ばれるビジネスモデルで可能になった。従来の電話ビジネスは、NTT地域会社が使う電話設備に他の電話事業者が相互接続することで成り立っている。通話料金を安く設定したくても、NTTに支払う接続料金が足かせとなり、利益率が上がらない。

 ところが直収型では、家から電話局舎までの回線を日本テレコムが安く借り受け、NTTに依存する部分を極限まで減らすことで、価格を下げたにもかかわらず、これまでより高い利益が確保できるようになっている。ソフトバンクはヤフーBBで行っているIP電話サービス「BBフォン」で、電話料金に革命を起こした。BBフォンが安い理由も、NTTに依存しないコスト構造にあったのだが、おとくラインにもそのアイデアが生きている。

「おとくラインの発想は、BBフォンへのクレームから生まれた」と宮川常務は話す。

 通常の環境では音質の良いBBフォンも、電話局舎からの距離が極端に遠い場所や、古い保安器がつけられた建物では、通信速度が極端に遅くなり、音質が悪くなる。そういったクレームを受け、「局舎VoIP」というシステムの開発に2年半前から取り組んでいた。家から電話局舎まではアナログのまま伝送し、局舎内でIP電話化することで、距離による劣化をなくして、BBフォンの利用範囲を広げようという狙いだった。

 このサービスを始めるため、総務省やNTT地域会社と03年末から交渉を続けてきたが、そこで思いもよらぬ問題が発生した。総務省から「このシステムはIP電話として運用してはならない。通常の固定電話としての用件を整えるまでサービスを開始してはならない」と言われたのだ。IP電話は安価な代わり110番や119番への接続を保証する必要がなく、素早いサービス開始が可能だった。総務省は局舎VoIPはシステムの特徴が固定電話と変わらないと判断したのである。

 日本テレコムの買収を持ちかけられたのが、ちょうどそのときだ。固定電話と同等の品質が求められるなら、日本テレコムのインフラを直収型のモデルに変更し、局舎VoIPの代わりにするというアイデアが浮かんだ。これが「おとくライン」誕生の真相である。

 局舎VoIPはIP電話だが、おとくラインはアナログの従来型固定電話だ。IP電話にすることで安くなるという従来の主張と矛盾するように見えるが、「計算してみると、現在ではIP電話化のメリットはそれほどない」と宮川常務は言う。

 以前はNTTに依存せずに電話事業を運営するのが難しく、回線利用効率も悪かった。この問題を解消するには、IP電話の導入が一番の近道だった。しかし現在は、NTTの回線を安く借り受けて、NTTのサービスに依存せず電話事業を行う仕組みが確立され、回線利用効率も上がった。IP電話とアナログ電話の違いは、アナログ電話向けの交換機のコストだけだ。「いま交換機を買う会社なんていないので、かなり安く買いたたける」(宮川常務)のが現状だ。

 もちろん、いつまでもアナログでいるとは思っていない。すでにバックボーンには、同社が開発したIP回線とアナログ回線を同居させられる機器がとりつけられており、多くのユーザーを一気にIPの世界へ引き込む準備が進んでいる。

 さらに、光ファイバーの時代を考えると、おとくラインの重要度はさらに増す。現在は高速インターネットとしてのみ使われているが、1本の光ファイバーに通信や電話など様々なサービスを重ね、「電話回線の置き換え」として使うのだ。その際には、IP電話でありながら通常固定電話として使えるサービスが提供される。


押しの強さと裏腹の脇の甘さ
ソフトバンクの今後の課題


 大胆な施策を続けるソフトバンクだが、一方で、同社に対する反応は好ましいものばかりではない。顧客情報の漏洩や強引な顧客獲得手法、そして顧客とのコミュニケーション手法も、「通信会社として信頼できない」と評価する人を産む要因となっている。9月には、ヤフーBBと日本テレコムの顧客に、携帯電話の電波割り当て行政に関する意見文書を一方的に電子メールで送信し、「押しつけがましい」と批判を浴びた。

「急進的なところがあり、好ましく思われていない方がいることは理解している」と宮川常務はいう。

「それはやはり、我々がキャリアー(通信事業者)として形になっていない、ということなのだろう。当初50人で始めた会社が、急激に拡大してここまできた。みなさんがキャリアーに求める姿とは違ったことは否定できない。現在、そしてこれから、そういった形へと変わっていくことになるだろう」

 ただ、「じゃあ今までのキャリアー像をなぞるのがいいのか? という問題はある。インターネットを奉じる会社だから、メールやウエブで積極的にコミュニケーションをとることは結構なことのはずだ」とも反論する。

 今のソフトバンクが万全、とは彼らも考えていない。もちろん筆者もそうは思わない。彼らに変わる意志があるのだから、我々から声を上げて「良い姿」に持っていくことも、これからは必要とされているのかも知れない。

(ASAHIパソコン2005年2月1日号News、News&Viewsから)



(2005年1月20日)





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