〈のぞゑのぶひささん(ひと)〉
受賞作となった初の長編漫画は大西巨人さんの同名小説が原作だ。重厚感たっぷりの名著とがっぷり四つに組み、描き始めて10年目の一昨年に完成させた。
漫画家になったのは40歳を過ぎてから。それまでは、「10は下らない」という職業を転々とした末に、大阪でスパゲティ屋を経営していた。もうからず、ぜんそくも発症。店員が読んでいた漫画雑誌の「大賞100万円」の広告を目にし、「おれでもできるやん」と考え、店をたたんで上京した。
自称「器用貧乏」で腰は軽い。以前、グラフィックデザイナーをしていたという経験だけをたよりに、漫画誌への投稿を続けていた。「なにか戦争モノを」と考えていた矢先に、旧知の企画者から原作小説を薦められた。軍隊内でのヒエラルキーや差別を活写する濃厚な作品世界に一気に引き寄せられた。
漫画化は3、4年で終わるだろうと高をくくっていたら、小説のセリフをそのまま生かすことの難しさに何度も直面。栃木県那須町の別荘地に自らの手で建てた家で暮らしながらも定期収入は無く、「嫁さんの親の遺産」で食いつないだ。
ペンを握り、原作に近づこうと、画面にびっしりと黒い線を描き込む日々。完成後も「どこも出版してくれないのでは」という不安にとりつかれ、「仕事を変えたろうか」と悩みもした。
最後の第6巻が1月に出版され、再び、戦争を描く新作に取り組み始めた。
(文・秋山亮太)
|