発達障害の原因ははっきりしませんが、脳機能の障害と考えられ、想像する力やコミュニケーションなどの発達に支障がある人がいます。ひとつの状態をさすのではなく、自閉症やアスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などの総称です。
「発達障害でノーベル賞を取った人がいる。自信を持って」。4月末、殺人未遂罪で懲役9年の判決を受けた発達障害の男性(25)の控訴を棄却した東京高裁の裁判長が、男性をこう諭して話題になりました。
ノーベル賞受賞者のアルバート・アインシュタインをはじめ、レオナルド・ダビンチやトーマス・エジソン……。伝えられるエピソードなどから、歴史上の人物で発達障害を抱えていたのではと、名前が挙がる人は大勢います。
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本当のことはわかりません。ただ、実際に発達障害と診断された人の中にも、人とうまく付き合えないなど不得手な面がある一方、特定の分野では抜きんでた能力を発揮する人がいるようです。
都立小児総合医療センターの市川宏伸顧問はその理由を次のように解説します。
「発達障害の人は発達の仕方が一般の人とは異なり、考え方も異なります。だから、得意分野の能力をうまくいかせれば、いい仕事ができるのかもしれません」
国の発達障害情報センターによると、軽い人も含めると自閉症は約100人に1人いるそうです。文部科学省の調査では、特別な配慮が必要な発達障害と思われる小中学生が6%以上いたといいます。
発達障害という言葉が使われ始めたのは1961年、当時のケネディ米大統領が作った「精神遅滞に関する会議」においてでした。大統領の妹は知的障害者でした。
ただ、「発達障害」の定義はひとつではありません。「どういう立場で、どんな視点から使っているのかにより、意味が変わってきます」と、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の加我牧子所長は指摘します。
現在、主に二つの診断基準が使われています。世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)と、米精神医学会の診断基準(DSM)です。精神科医はDSM、小児科医はICDを使う人が多いという傾向があります。厚生労働省は原則的にICDを、文部科学省は原則的にDSMを使っています。
東京大医学系研究科こころの発達医学分野の金生(かのう)由紀子准教授は「診断名にこだわるより、子どもが幼いうちに、発達障害があることに早く気づき、その子の個性に合った対応、支援をする方が大切です。成長の過程で自己否定的になるなどして、社会に不適応になるのを防ぐためです」と助言しています。
2005年、発達障害者支援法が施行されました。知的障害のない発達障害者を対象にしています。周囲が障害を理解して能力を伸ばしていけるよう、年齢、成長段階に応じた支援、環境の整備を目的としています。都道府県に相談窓口の設置を求め、自治体の健診事業などを通して早期発見するよう求めています。
都立小児総合医療センターの市川さんは「実際の取り組みは自治体により格差が大きい。早期発見した後の対応が重要です。幼児のデイケアサービスなどももっと充実させていく必要があります」と指摘しています。
| 名称 | 特徴 |
| 自閉症 | (1)対人関係の障害(2)コミュニケーションの障害(3)パターン化した興味や活動、という三つの特徴を持つ障害。知的発達に遅れのある人もいる |
| アスペルガー症候群 | 自閉症の特徴のうち、コミュニケーションの目立った障害がないとされる。知的障害はほとんどない |
| 学習障害 | 全般的な知的発達に遅れはないが、読む、書く、話す、聞く、計算するなど、特定の技能に困難がある |
| 注意欠陥多動性障害(ADHD) | 子どもの年齢や発達レベルに見合わない多動性や衝動性、注意を持続することができないのが特徴 |
| 知的障害 | 全般的な知的レベルの発達に必要な認知や言語などの技能の発達に障害がある状態 |
(「知的障害」の定義は世界保健機関〈WHO〉による。それ以外は、国の「発達障害情報センター」から)
「発達障害の子へ医療的な支援が必要。その環境づくりに取り組みたい」。今春、日本小児科学会の理事長に就いた五十嵐隆東京大教授に、今後の課題を聞くと、こんな答えが返ってきました。それが今回の取材のきっかけでした。 専門医が少ない上、診療に時間がかかるのに見合った診療報酬が設定されていない点など、課題が多くあるそうです。発達障害への理解、支援には、医療や教育、行政など多くの職種が関係します。小児科学会の取り組みにも今後、注目していきたいと思います。 (大岩ゆり)
解説文は2010年6月19日付 be 「いまさら聞けない+(プラス)」より