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旅する人のアペリティフ

旅先で気をつけたい飲み水のお話

第41回 生水の冒険

2007年10月09日

 とにかく多彩だ。硬いものもあれば、柔らかな口当たりのものもある。どこにでもあるのに、どれもがその土地特有の個性がたっぷり。

写真

写真/中野愛子

 それが、水。

 旅に出れば泥棒やひったくりも怖いし、気をつけるべきことはたくさんある。でも、旅先で気をつけなければいけない筆頭にあげられるのも、また水である。

 特に印象深かった水のデキゴトといえば、ネパールで山の上から大きな川をゴムボートでくだるラフティング・ツアーに参加したときのこと。

ボートは山間を抜け、ゆるやかな流れの中を時折大きな石にボゴンと当たっては、グウンと次の流れにさらわれるように進んでいく。時に急流になったかと思うと、まるでジェットコースターみたいに加速して、段差を乗り越え、ザブンと波をかぶる。ちょっとした冒険ツアーだ。

 最後は緑豊かな渓谷を、ちゃぷんちゃぷんとたゆたい、なんども穏やか。清流になってしばらく進むと、目の前にサーッと、アクア・ブルーの水が広がった。

 みんながホゥとため息をつく中、水先案内人がボートを降りて引っ張ると、浅瀬に係留し、ランチの支度を始めた。

 缶詰のマメをあけ、ハムをザクザクと切り、野菜と一緒にどっさりパンにはさんでサンドウィッチを作り、石で燃料を囲んで火を炊くと、缶のスープを温めていく。

 そして、小さなタンクに川から水を汲み、粉を入れてジュースのできあがり!

 新鮮な空気の中の、澄んだ水。それはそれは、旨そうだ。

 だけど、私は見ていた。大自然の中にはところどころに民家があって、そこから川に水が流れ込んでいたのを。

 現地の人は「大丈夫」なんて言うけれど、参加した人たちの反応は様々。一緒にいた日本人の女の子ふたりは、「せっかくだから!」と、おいしそうにジュースを飲み始めた。「やめたほうが…」と言いかけて、それこそ水をさすような気がして言葉をのみ、とりあえず私はジュースは遠慮することにした。

 欧米人たちも慎重だったけれど、ひとりだけオーストラリアの男性がゴクリとやって「Mmm,it’s good!」なんて喜んでみせる。

 ラフティングも楽しかったけれど、鳥の声を聞きながら、きれいな水を眺めるこのランチがなんとも贅沢。あまりの水のきれいさに、食後は洋服のまま泳ぎ始める人まででるほどだった。

 街に戻って翌日のこと。道でバッタリあのオーストラリア人に出会うと、「調子がどうも……」と青い顔でお腹を抱えて、かなり具合が悪そうだ。吐いて、下して大変だったとか。

 そりゃそうだ。水道水だって気をつけたいのに、いくらきれいでも川の水。場所によって水に住むバクテリアが違うというから、慣れない人が火を通さずに飲むのはお腹にあぶない。

 せっかくの旅だから、多少の冒険はしたほうが楽しい。けれども、水の冒険だけは避けるほうが懸命だと思っている。ついつい開放的になって「ま、いいか」なんて思いがちだけれど、体調を崩して旅行中ずっと苦しむなんて悲しいもの。

 それから、日本に帰ってしばらくすると、女の子たちから手紙が届いた。

 「あのあとバスでポカラに行きました。体調も万全で楽しかった!」と。

 なんと、あの水を飲んでなんともなかったそうだ!

 せっかくの旅、私も冒険しとけば……いや、オーストラリア人の蒼白な顔が思い浮ぶ。 やっぱり水だけは冒険しちゃいけません。水にまつわるお話は、いろいろ聞きますからね。

♪ ♪ ♪

旅のA to Z その41

旅先では多少の冒険は楽しみつつも

飲み水の冒険は避けるべき。「ま、いっか」は禁物です。

文 上野陽子

プロフィール

上野陽子
立教大学在学中にカナダ・オーストラリアに留学。卒業後ボストン大学修士課程でジャーナリズムを専攻し、通信社・出版社を経てフリーランスで活躍中。趣味と仕事で世界をぶらり、旅した国は40カ国を超える。旅やカルチャーをテーマにした連載も多数。
著書に『海外ネット通販百科』、共訳書に『悪魔のマーケティング』(日経BP社)、編集書にプロの撮り方『旅行写真』(日経ナショナルジオグラフィック社)ほか。著書『恋する英語』と、同名のブログhttp://koisurueigo.com/も好評掲載中。

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