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旅する人のアペリティフ

旅の手荷物が呼ぶ、忘れ物連鎖

第53回 忘れ物探しの旅

2008年03月25日

 自慢じゃないけれど、私はよく忘れ物をする。家を出た瞬間に「あっ!」なんてこともしょっちゅう。

写真

写真/中野愛子

 そんなわけで、世界を股にかけて忘れ物をしてきた。

 世界最南端のアルゼンチンのフエゴにはMDプレイヤー、カンヌの街にはそこで買った土産物、死海には女性なら痛みがわかるだろう化粧品一式、東北の観光地のトイレにはデジカメ……などなど。

 自分が来た証を残したいわけでもないけれど、時差ぼけや疲れでほわ〜として、とりあえず何かしら置いてくる。戻ったときには、もうないことがほとんど。

 たいていのものはあきらめる。けれど、あるときは、あきらめきれない忘れ物をとりに、車しか走らないハイウェイを歩いて空港まで戻ったことがある。

 それは、サンフランシスコで立ち寄ったお土産屋さん夫婦がくれた食器。「割らないように、忘れないように」と大切に袋にまとめておいたもの。

 「娘のような気がする」と夫婦の家でもてなしてもらった上に、日本で使うようにと持たせてくれた茶器と絵皿。小さなミニチュアみたいな茶器は色とりどりの絵柄が描かれ、お皿にも天女のような女性が描かれて、中国らしい箱に入っていた。

 空港でバスの係の人に大きな荷物を渡しながら、「割らないように」その袋をわきの壁に立てかけ、荷物がバスに載ったのを確認し、自分も乗り込んでほっと一息。

 バスが走り出し、新しい街を楽しみに外を眺めていた……ら、ない! そうだ、さっき壁にたてかけたまま置いてきた!!!

 バスはすでに空港の敷地を出て、ハイウェイのような道にさしかかっている。車が引き返せる場所ではない。とっさに「お願い!止まって〜!」と運転手さんに泣きついてみた。

 最初は「ノーノー」と首を振っていた運転手さんも、私の形相を見て「まったくもう」と、バスをわきで止めてくれた。そして扉を開けて「歩いて戻りな」。

 お〜、言ってみるものです。

 日本ではありえないけれど、車しか通らない道を、車と逆行してテクテク。バスではあっという間だった道筋も、歩くとけっこうある。日差しも強く、車は私なんか眼中になくビュンビュン飛ばすから、どんどん心細くなってくる。最後は半分泣きべそで15分ほど歩いてなんとか空港に戻って袋を探すと……。

 あった! ゴミ袋にも見える袋が、ちょんと壁にもたれかかったまま残っていた。

これだけは日本に持って帰らなきゃ、の思いが通じたのか、自分の手を離れたどころか、持ち主がすっかりいなくなった場所に、品物が残っていた。

 以来、わたしは、帰りにはジッパーを広げて荷物の容量が増やせるスーツケースにしている。ひとつの荷物が大きくなるけれど、みやげ物もほとんど入ってスーツケースひとつで済むから、荷物管理がずーっとラク。

 ちなみに、上海で購入した食器を忘れたときには、忘れたと思うレストランにメールで連絡を入れ、料金を調べてもらって前払いで送金し、無事日本に送ってもらえた。その料金たるや、商品の倍以上! 思い入れがなければ、日本で買ったほうがずっと安い。

 旅行帰りはみやげ物や、なぜか来たときには入った荷物が入らなくなったりする。その上、疲れているし、増えた荷物は手につかない……と悪循環。

 わかってはいても、ついつい増える手荷物の数。「今だけちょっと袋に入れて」なんて思うと、忘れますよ〜。そして、一度手を離れた荷物を取り戻すのは、経験上、それなりの困難が待ち受けています。

 ひとつ荷物を増やせば、かなりの確率で忘れ物に直結するのです。ご用心を。

♪ ♪ ♪

旅のA to Z その53

荷物が増えれば、忘れ物増加に直結

疲れた帰りの荷物こそひとつに。

文 上野陽子

プロフィール

上野陽子
立教大学在学中にカナダ・オーストラリアに留学。卒業後ボストン大学修士課程でジャーナリズムを専攻し、通信社・出版社を経てフリーランスで活躍中。趣味と仕事で世界をぶらり、旅した国は40カ国を超える。旅やカルチャーをテーマにした連載も多数。
著書に『海外ネット通販百科』、共訳書に『悪魔のマーケティング』(日経BP社)、編集書にプロの撮り方『旅行写真』(日経ナショナルジオグラフィック社)ほか。著書『恋する英語』と、同名のブログhttp://koisurueigo.com/も好評掲載中。

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