簡単にいい写真を撮る心得とは……
2008年9月23日
写真/中野愛子
うちのリビングには、一枚のパネル写真が飾ってある。全紙倍と呼ばれる、広げた新聞紙2枚分の大きなものだ。
山の合間に雲海が広がって、そこに黄金色の夕日が折り重なるように差し込む。やわらかな印象なのに広がりがあって、なんとなく好きな作品。
これは、風景写真家の父にたのんで、グラスペーパーと呼ばれる特殊紙に焼いてもらったもの。
子供のころから父が写真を撮る様子は見慣れている。ここだと思った場所にカメラを構えたら、じっと待つ。何を待つかというと、光、雲、風……すべてが絶妙なタイミングになるのを。
車を運転しているときでさえ、「お、いいな」というと急に車をとめて、三脚とカメラをかまえる。家族は「またはじまったわね」と待つのだけれど、一瞬のタイミングで「遅かったか」と戻ってくることもしばしば。
生い茂る草もあるし、山も見えるし、光だってさしている。でも、なにかがダメらしい。
それは、風だったり、影だったり、その瞬間に「あっ!」と思わせたもの。それが欠けた瞬間に「遅かった」となるらしい。すると、すかさず「○月○日ごろ、○○山の間に、こんな高さで日が沈む」とメモをとり、翌年の同じ月にそこに戻り、辛抱強く写真を撮る。
若いころはそれなりの受賞歴があって、年をとってからは賞の審査員なんかもつとめている。いい写真を撮るらしいことは、よく東京からくる出版社のおじさんから聞いていた。
それは、ちょっとしたところにピンとくる感性と、じっとファインダーをのぞく辛抱強さが作るものだったらしい。
そして、よく「風景は光」という言葉を聞いていた。
旅行で見たときにはあんなにきれいだったのに、家に帰ってみたら、どんより曇り空。あのときの情感がまったく薄れた写真に仕上がることってよくあるでしょう?
その場では、波の音、スパイスの香り、ひとびとの声など、その場の臨場感がもたらすよさが、風景を助けていてくれたのかもしれない。でも、写真にそのものは写らないから、それを伝える何かを入れるほうがいい。
パシャッと撮ったその一枚。「なぜここを写真に撮りたかったんだろう」と考える。すると、そこでフォーカスするもの、写り込ませたほうがいいものが写せるようになる。
建物が美しいなら、そこにフォーカス。街の喧噪具合がいいなら、その雰囲気が生きる人物を入れるし、海の臨場感を生かすなら音まで聞こえるようにいい波を待ったり……ね。
技術的なお話は抜きにして、感覚からいい写真を撮る方法とは、ただそこを写すのではなく、「なぜそれがいいんだろう?」って考えて、シャッターを押させるものが何なのかを感じてフレームをとること。そして、風景を生かすのは光だってこと。
いい景色と人をとったのに、家に帰ってみたら、その人だけ写っていて「これじゃどこで撮ってもよかったな」なんてなりませんように。
さて、ここからが簡単な裏技とコツ。
実は私も、ポルトガルの雑誌や新聞で少しだけ写真記者の経験がある。けれども、まあ、素人みたいなもの。そんな私が雰囲気のある写真を狙うときは……朝早めや、午後の少し斜めの光を使って、被写体はフレームの3分の1あたりにおく。
そして、被写界深度と呼ばれる、平たく言えば背景がぼけた写真にしたいときには、マニュアルなら絞りを開く。でも、面倒なら、望遠気味にしてしまえば、焦点をあわせたところ以外はぼやけてくれる。
すると……簡単なカメラでも、ドラマチックな写真に仕上がります。
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旅のA to Z 66
なぜそれがいいのか、を考えて構図を決め
斜めの光、3分の1の構図を利用しよう
立教大学在学中にカナダ・オーストラリアに留学。卒業後ボストン大学修士課程でジャーナリズムを専攻し、通信社・出版社を経てフリーランスで活躍中。趣味と仕事で世界をぶらり、旅した国は40カ国を超える。旅やカルチャーをテーマにした連載も多数。最新刊『気持ちが伝わる英会話のルールとマナー』(日本実業出版社)が好評発売中!
他に著書として『海外ネット通販百科』、共訳書に『悪魔のマーケティング』(日経BP社)など。著書と同名のブログ『恋する英語』はこちら。