文:ふくだあかり
2009年6月25日16時48分
5月下旬、茨城県北部を流れる久慈川にヤマベ釣りに訪れた。私に最初に釣りを教えてくれた釣りの師匠ともいえる父と一緒だ。日差しが強く、初夏を思わせるようなさわやかな気候の中、「師匠」とふたり、川沿いの道を車で上流へと向かった。
久慈川は水がきれいで、初夏から秋にかけては人気のアユ釣り場として、関東各地から多くのアユ釣りファンを集める。
今回、私と師匠が狙ったのはヤマベだ。
まだ釣り人の少ないアユの解禁日を前に、ふたりでのんびり川釣りを楽しもうという師匠の提案を受けての釣行だった。
川沿いを車で走らせながら、ヤマベの居そうなポイントを探した。しばらく走ると川岸に草木が生い茂り、いかにも魚が釣れそうな雰囲気の場所を見つけ、近くに車を止めた。竿や仕掛けは師匠が準備してくれた。60グラムという軽量の竿に、手作りの仕掛け。エサは練り餌だ。
ヤマベは、川の中の岩陰や流れのある深みに漂うように泳いでいる。透き通った川の中に目を凝らすと、時おりキラリと光るものが見える。泳いでいる魚が銀色の腹をひるがえす瞬間の光だ。魚の気配を感じたので、物音を立てないように静かに川に入り少しずつ接近した。ウェーダーという胸まである胴長靴を履いているから、多少深いところでも入っていくことができる。そして、狙ったポイントからほんの少し上流に向けて仕掛けを投入し、糸の張りを感じながら流すように狙いのポイントに近づける。
ビクビクっと竿先に手ごたえを感じた。竿が軽量だから、魚が小型でも手応えは十分にある。上がってきた魚は「ハヤ」だった。本命のヤマベではなかったが、繁殖期に現れる「婚姻色」が鮮やかに出ていてきれいな魚体だった。その後も釣れた魚はすべてハヤで、この日はヤマベの姿を見ることができなかった。
師匠がこの川に来るのはもう10年ぶりになるらしい。10年前に比べて魚の数が随分と減っているという。
「昔は川底が真っ黒になるぐらいヤマベが集まっていたんだけどな」と残念そうにもらした。私から見れば、澄んだ水が流れるとても美しい川だと思ったが、きっと昔はもっときれいだったのだろう。
本命のヤマベは釣れなかったが、釣りの師匠の父と久しぶりにふたりきりで釣りをして過ごすことができた。きっと一生忘れられない思い出になることだろう。