文:ふくだあかり
2009年7月20日14時16分
6月も半ばになると、午前4時には辺りは明るくなり始める。寒さも和らいで防寒着を着なくてもいい気候になってくる。
6月14日、重い道具を担いで向かったのは茨城県神栖市の波崎港。沖合の大型魚を狙いに、威勢のいい船長が舵をとる「征海丸」に乗船した。
この日は、休日ともあって乗合船は大盛況。私は船のミヨシ(前方)近くを陣取ったが、右舷にも左舷にも大きなタックルを持った釣り客たちで満杯だった。皆、カツオやキメジマグロなどの大物を釣り上げようと、道具にも気合が入っている。
船出して間もなくすると、アジ釣りが始まった。沖合の大物狙いのときは、天候や海の状態によって何も釣れずに終わることが少なくない。だから、家庭へのおみやげになる魚を先に確保してもらおうという気の利いた計らいだ。
柔らかめのロッドに、疑似バリが5、6本付いたサビキ仕掛けを使い、船長の合図でいっせいに指示ダナまで仕掛けを落とした。すると、1投目からぐぐっ……!という心地いいアタリを感じた。サビキ仕掛けでの釣りは、一回アタリがあったからといって慌てて巻き上げず、ほかの針にも魚が掛かるのを待つ。
竿先にずっしりと重みを感じたので仕掛けを巻き上げると、型の良いアジが5本の針すべてに掛かっていた。
入れ食い状態のアジ釣りをひとしきり楽しみ、おみやげ用のアジを十分に確保すると、いよいよ大物の魚を求めて船は沖に向かった。
沖に出ると少し波が高くなり、うねりも出てきた。船長は船を走らせながら、大型魚のエサになる小魚の群れを探す。海上では、「鳥山」という海面近くに追われた小魚に群がる鳥の群れを探し、さらに、魚群探知機を使って海中の群れを探した。
ルアーを使ったキャスティングをしばらく繰り返していると、船のトモ(後方)にいた釣り客に強いアタリがあり、強烈なファイトが始まった。
「よし、この船の近くに大物がいる……!」
電気のスイッチが入ったかのように、一気に集中力が高まり、竿を握る手に気合が入った。ところが、キャスティングを何度繰り返しても、私のルアーには小さなアタリもなく、少しあきらめムードになりかけた……と、その時、突然、ガツンという強烈なアタリとともに竿先が海中に大きく引き込まれた。
「ギリ…ギリ…」
直後にドラグが音を立て始めた。魚に引っ張られ、リールからラインが出て行くときの音だ。
「大物だ…!」
突然の強いアタリに慌てながらも、何とか体勢を整えると、魚の口からルアーの針が外れるのを防ぐために、もう一度大きなアワセを入れた。魚に針がしっかり掛かったのを感じると、必死にリールを巻き上げた。すると、海面に真っ青な大型魚がジャンプした。
「シイラだ……それもデカイ!」
船長や乗り合わせた周辺の釣り客からも驚きの声が上がった。
シイラは、釣り上げてしばらくすると魚体が黄色く変色するが、海の中では青く美しい色をしている。見た目の美しさとは相反して、引きの強さは抜群だ。必死でラインを巻き上げるが、船の近くまで引き寄せても、また勢い良く海の中に引っ張り込まれてしまう。
シイラとの格闘は、いったい何分間続いただろう。リールを巻く手が震えだし、体もへとへとになるほどのファイトの末、シイラの方が先に観念してくれた。
やがて海面に姿を現したのは、1メートルを超える大物シーラだった。