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秘境添乗員・金子貴一の地球七転び八起き

ギルフ・ケビールと砂の大海原

2010年4月5日15時32分

写真:グレートサンドシー (c)Mohamed M. Abdel Aziz拡大グレートサンドシー (c)Mohamed M. Abdel Aziz

写真:グレートサンドシーでのキャンプ (c)Mohamed M. Abdel Aziz拡大グレートサンドシーでのキャンプ (c)Mohamed M. Abdel Aziz

写真:黒砂漠拡大黒砂漠

写真:ギルフ付近のキノコ岩拡大ギルフ付近のキノコ岩

写真:ギルフ・ケビール台地の頂上より下界を望む拡大ギルフ・ケビール台地の頂上より下界を望む

 「宇宙的な風景に出会えるわよ」

 視察ツアーに行った上司から言われたとおり、次から次へと目の前に現れる風景は、この世のものとは思われぬ「絶景」の連続だった。巨大な岩山の山脈、石灰の岩盤が風化してできた奇形の大岩が続く「岩石砂漠」、黒や色とりどりの石ころが地平線まで広がる「石礫(せきれき)砂漠」、大砂丘が続く「砂砂漠」、太古に隕石が集中して落下した跡が残る「クレーターエリア」と、地球というよりは月世界を思わせた。

 今回の旅の目的地は、エジプト南西部のリビアとスーダンとの国境近くに位置するギルフ・ケビールと、グレートサンドシー(砂の大海原)。ギルフ・ケビールは、「巨大な障害物」を意味するごとく、世界最大の砂漠「サハラ砂漠」の一部である広大なエジプト・西方砂漠に、300メートルの高さでそびえ立つ巨大な台地が、現地ガイドによると、「最大で南北255キロメートル、東西170キロメートル」にわたって続いている。アフリカ大陸屈指の地上の障壁だ。そのギルフは、四角の形をしたエジプトを南北に貫くナイル川から西に720キロメートルの地点にあり、その北部に500キロメートルにわたりグレートサンドシーが続く。

 我々のコースは、ナイル川の北部に位置する首都カイロから南西に進路をとり、オアシス群を経由して砂漠に入り、エジプト南西最深部のギルフから、進路を北に変え、グレートサンドシーを超えて、ギルフからは、ほぼ東京都から山口市の距離にあたる960キロメートルの地点にある地中海まで抜けていく、大砂漠でのキャンプを10泊続けてやっと見学できる地域であった。14日間で走破したカイロから出発してカイロに戻る全長3837キロメートルの行程は、日本最北の都市・稚内から出発して九州南部の都市・鹿児島で折り返し、名古屋まで走った計算だ。

 砂漠での寒暖の差は激しく、3月だというのに、前半は暑さの連続で最高気温が48度を記録し、後半は寒い日が続き最低気温は6度まで下がった。添乗員として、毎朝4時起床。6時に大声でモーニングコールを行い、各所で見学しながら一日中四輪駆動車に乗り、夕方17時ごろキャンプを張り。夜22時ごろに就寝する日々が続いた。10泊目の夜、自分の姿を写真に撮ると、顔や腕は真っ黒に日焼けして一部の皮がむけ、顔中ヒゲだらけで、砂にまみれた髪はボサボサだった。メタボ体形だった私の体は、現地スタッフが感嘆するほど、顔と腹がスリムになり、途中で砂漠ガイドにベルトの穴を一つ開けてもらわなければズボンがずり落ちるほどだった。私は、この旅で健康体を得ると共に、得難い「地球体験」をも得ることができたのだった。

 今年1月、NHK教育テレビのETV特集でギルフ・ケビールの岩絵が90分番組として放映されたので、ご覧になった方も少なくないだろう。しかし、ここは、岩絵もさることながら、宇宙の一部としての地球の歴史が、そして、生命の歴史がそのまま刻まれた場所なのだ。

 今回は訪れなかったが、ギルフ南方にあるウワイナート山頂の岩盤は、エジプト最古の40億年前から始まる「始生代」のものだ。地球の歴史は46億年。もし、地球の誕生から現在までを1日24時間でたとえるなら、深夜0時に誕生した地球の3時7分からの歴史が見られる、地球上でも極めてまれな場所だ。25億年前の生命の誕生は10時57分。その生命が化石として残るようになる6億年前は20時52分だが、西方砂漠は「世界一化石が豊富な砂漠」ともいわれる。三葉虫から始まり、2500種類以上の化石が発見されているのだ。私たちは、砂の海原でこれらの化石群にも出会うことになる。

 私は、大学留学のため1980年代に7年間在住して以来、エジプトとの付き合いは30年になるが、世界に誇る古代文明国とはいえ、古代エジプトが始まった5000年前は、地球の歴史の中では24時になるたった0.094秒前に過ぎないのだ。今回の旅ほど、古い「エジプト」に出会ったのは初めてだった。

プロフィール

金子貴一(かねこ・たかかず)

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 秘境添乗員、フリーライター。1962年生まれ。元不登校児。高校時代、米国アイダホ州で一年間ホームステイ。大学時代は、エジプトの首都カイロに7年間在住し、カイロ・アメリカン大学文化人類学科卒業。留学を通して、「異文化間交流」の大切さを実感。在学中より、観光ガイド、ジャーナリストとして活動を開始。仕事等で訪れた世界の国・地域は100近く。著書に、「秘境添乗員」(文藝春秋)「報道できなかった自衛隊イラク従軍記」(学習研究社)
公式ブログ http://sea.ap.teacup.com/hachidaiga/

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