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秘境添乗員・金子貴一の地球七転び八起き

食文化調査から見たカンボジア

2010年5月14日15時42分

写真:移動中、ジャングルから裸足の男性が飛び出してきた。「捕まえたばかりの子鹿はいらんかね」という。食肉用だそうだ拡大移動中、ジャングルから裸足の男性が飛び出してきた。「捕まえたばかりの子鹿はいらんかね」という。食肉用だそうだ

写真:夕食会が催されたクルン族の村に到着。会場となった高床式民家の周りには、大勢の村人が集まってきた拡大夕食会が催されたクルン族の村に到着。会場となった高床式民家の周りには、大勢の村人が集まってきた

写真:四角に切られたバナナの葉には陸稲が盛られ、村の男女が次々と料理を持ってきてくれた拡大四角に切られたバナナの葉には陸稲が盛られ、村の男女が次々と料理を持ってきてくれた

写真:土間には酒ツボが並び、カメラのレンズも曇るほど、熱気と湿気が充満した拡大土間には酒ツボが並び、カメラのレンズも曇るほど、熱気と湿気が充満した

写真:酒ツボの口は、もみ殻などで封印されている。そこに「巨大ストロー」を刺して、皆で回し飲みするのだ拡大酒ツボの口は、もみ殻などで封印されている。そこに「巨大ストロー」を刺して、皆で回し飲みするのだ

 「豚の刺し身は食べるんじゃない!」

 世界中の食物を口にするA教授も、さすがに危険を感じて団員たちを制止した。しかし、時、すでに遅し。「おいしい!」という歓声と共に、何人かの胃袋には、もう収まってしまったのだ。

 カンボジアでの食文化調査旅行は、当時、まず日本人が訪れることがなかった、カンボジア北東部の高原地帯ラタナキリ州から始まった。カンボジア全人口の4%に過ぎない山岳少数民族が、州人口の4分の3を占める土地柄だ。私たちの夕食会も、山岳少数民族「クルン族」約200人が住む村で催された。会場となった家屋には、私たちと村の男たち、総勢40人以上がごった返した。雨期の湿気を含んだセ氏27度の外気は、屋内では、人々の熱気と相まって、さらに湿度と温度が上昇。皆、汗だくになっての大宴会が繰り広げられた。

 高床式家屋の居間には、竹で編んだ床の上にゴザが敷かれ、まずは、食文化調査団のメンバーが二列になって対座。各自の前には、お皿代わりのバナナの葉に主食の陸稲が盛られ、中央には、魚、牛肉、水牛の肉などを調理した民族料理が並べられていた。よほど豪勢な食事だったに違いない。私たちが食事を済ませると、今度は、村人たちがいくつもの円座を組んで、食事を堪能していた。

 隣接した広い土間には、自家製醸造酒のツボが並べられ、ホース付きの金属製パイプでできた「巨大ストロー」が差し込まれると、私たちも村人も皆が寄ってたかって回し飲みをした。お酒は、「3キロの米ともみ殻を水につけ、こうじとともにツボに入れ、1週間から1カ月間かけて発酵させたものだ」という。味はツボによりまちまちだが、往々にして「酸味の強いドブロク」だった。私たちは、必死になってメモを取りながらも、酔っぱらってカオスと化した宴に身を任せていた。

 今回の調査旅行は、始めから過酷だった。二日目に訪れた村では、中年男性が村の裏手の竹やぶへと案内してくれた。竹の葉にできた泡状の赤アリの巣を両手で包むと、素早く家に持ち帰り、細長い木製のウスに、化学調味料、切り刻んだシシトウと共に放り込んだ。そして、今度はキネを握ると、はい上がってくる大量のアリもろとも突いたのだ。出来上がったのは、水っぽいアリのペースト。貧しいこの村にとっては、貴重なたんぱく源だった。さっそく、先生から順番に試食すると、口の中にはうまみと辛みが広がった。

 次に訪れた村は、外には誰もいないゴーストタウンだった。近くの高床式民家の玄関をのぞくと、床には中年男性が気だるそうに寝転がっていた。聞くと、村人の多くがマラリアに感染しているという。外国人を初めて見たという彼は、「キニーネはないか」と弱々しく訴えた。

 2泊3日の短い期間ではあったが、ラタナキリ州に滞在することで、私たちは、世界の「最貧国」の一つカンボジアの、「最も開発が遅れた地域」の現状を垣間見ることができたのだった。

プロフィール

金子貴一(かねこ・たかかず)

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 秘境添乗員、フリーライター。1962年生まれ。元不登校児。高校時代、米国アイダホ州で一年間ホームステイ。大学時代は、エジプトの首都カイロに7年間在住し、カイロ・アメリカン大学文化人類学科卒業。留学を通して、「異文化間交流」の大切さを実感。在学中より、観光ガイド、ジャーナリストとして活動を開始。仕事等で訪れた世界の国・地域は100近く。著書に、「秘境添乗員」(文藝春秋)「報道できなかった自衛隊イラク従軍記」(学習研究社)
公式ブログ http://sea.ap.teacup.com/hachidaiga/

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