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秘境添乗員・金子貴一の地球七転び八起き

カンボジアの味噌「プラホック」

2010年5月20日17時20分

写真:プラホック工房では、3カ月間塩漬けにされた魚の頭と骨を取り除く作業が行われていた拡大プラホック工房では、3カ月間塩漬けにされた魚の頭と骨を取り除く作業が行われていた

写真:更に、5カ月間たるに漬け込むとプラホックの出来上がりだ拡大更に、5カ月間たるに漬け込むとプラホックの出来上がりだ

写真:麹工房で作っている麹には、大小の2種類があった拡大麹工房で作っている麹には、大小の2種類があった

写真:村の酒蔵:内部には酒つぼが並び、写真中央では蒸留器の上部が銀色に光って見えた拡大村の酒蔵:内部には酒つぼが並び、写真中央では蒸留器の上部が銀色に光って見えた

写真:シェムリアップ州の村道。牛は農作業用の大切な労働力だ拡大シェムリアップ州の村道。牛は農作業用の大切な労働力だ

 あたりには、魚の腐ったような刺激臭が充満していた。目の前の作業場では、数人の若い男女が、小さな魚を左手で取っては、ナイフを使って頭と骨を取り除いている。クメール料理(カンボジア料理)には欠かせない調味料、「プラホック」と呼ばれる「魚を発酵させたペースト」を造っているのだ。プラホックはクメール料理の「魂」と言われているから、日本食にとっての味噌か醤油のような存在だろうか。

 カンボジア食文化調査旅行の後半は、世界遺産「アンコール遺跡」で有名なカンボジア北西部のシェムリアップ州で、2泊3日にわたって行われた。シェムリアップ州は、東南アジア最大の湖「トンレサップ湖」に接するカンボジア最大の米作地帯のひとつで、同湖の水揚げ量は、カンボジア総漁獲量の約7割をも占める。淡水魚はカンボジア人にとって最も重要なたんぱく源で、総淡水漁獲量の2割もがプラホック造りに回されるという。プラホックのなかでもシェムリアップ産のものは、国内で最も有名で高価なブランドだ。

 私たちが見学したのは、トンレサップ湖に近い人口約2000人のポーバンテアイジェイ村で、湖への道沿いにはプラホック工房がずらりと並んでいた。作業監督のサアイム氏(23)に聞くと、「湖畔で魚を買い、内蔵を取り除いてから、3キロの小魚に塩1キロの割合で塩漬けにして3〜4カ月間寝かす。その後、頭と骨を取って、更に5カ月間漬けると完成だ」という。これが普通の作り方で、高級なプラホックとは、同じ種類の大型の魚を使って、1〜3年間漬け込んだものだそうだ。

 保存食でもあるプラホックは、貧しい家庭では単にご飯と共に食べるが、臭いがキツいため、一般的には、おかずやスープに混ぜて調理することが多い。すると、他の食材と調和してクメール料理独自の香りを醸し出すのだ。

 帰国が近くなると、A教授は焦り始めた。日程表に記載された訪問地だけでは、調査が足りないというのである。私たちは出発前日に予定していた終日のアンコール遺跡見学を取りやめて、調査続行を決定した。私と現地ガイドが、調査団に先行して車で移動しながら適切な調査地を探し出し、調査団をそこに誘導するというやり方だ。先生の興味の対象は、発酵食品にあった。

 私は、皆に喜んで頂こうと必死だった。早朝、車に乗り込むや否や運転手をせかし、滞在するホテルがある州都シェムリアップを出ると、辺りは背の高いヤシの木が点在する田園風景となった。目を凝らすと、ヤシの木の下で竹筒を手に、立っている人物が視界に入った。ヤシ酒造りのジョ・ン・サイ氏(30)だ。聞くと、午後3時ごろ、ヤシの花を切って、そこから流れ出る樹液を受けるように竹筒をセットすると、翌朝6時には一杯になる。竹筒にはあらかじめ6種類の木の皮や根を入れておき、竹筒を取りに行く頃には、すでに自然発酵してヤシ酒になっているという。主に乾期の飲み物だそうだ。

 更に村々を訪ねると、米作地帯にふさわしく、伝統的な蒸留酒工房を次々と発見することができ、後続の調査団は大喜びとなった。(以下、次号)

◇「旅のルート」

 カンボジア食文化調査の旅は、成田空港から国際線でバンコクに向かい、飛行機を乗り換えて、カンボジアの首都プノンペンへ。プノンペンを拠点に、国内便でラタナキリ州都のバンルンと、シェムリアップ州都のシェムリアップに移動。最後はシェムリアップ国際空港からバンコクに抜けた。カンボジアに滞在した8月は雨期だった。ラタナキリ州の道はぬかるみが続き、移動は小型トラックに分乗して行った。

プロフィール

金子貴一(かねこ・たかかず)

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 秘境添乗員、フリーライター。1962年生まれ。元不登校児。高校時代、米国アイダホ州で一年間ホームステイ。大学時代は、エジプトの首都カイロに7年間在住し、カイロ・アメリカン大学文化人類学科卒業。留学を通して、「異文化間交流」の大切さを実感。在学中より、観光ガイド、ジャーナリストとして活動を開始。仕事等で訪れた世界の国・地域は100近く。著書に、「秘境添乗員」(文藝春秋)「報道できなかった自衛隊イラク従軍記」(学習研究社)
公式ブログ http://sea.ap.teacup.com/hachidaiga/

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