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秘境添乗員・金子貴一の地球七転び八起き

宗教の違いを超える「想い」

2010年6月4日15時58分

写真:エル・ブルホ遺跡のカオ・ビエホ神殿見学に向かう (c)natumi拡大エル・ブルホ遺跡のカオ・ビエホ神殿見学に向かう (c)natumi

写真:「聖なる儀式の間」を囲む泥レンガ製の壁。モチェ神話の主神「断頭者」が描かれる、神殿内で最も聖なる空間だ (c)松岡賢一拡大「聖なる儀式の間」を囲む泥レンガ製の壁。モチェ神話の主神「断頭者」が描かれる、神殿内で最も聖なる空間だ (c)松岡賢一

写真:「聖なる儀式の間」で「浄めの儀式」は行われた。シャーマンは香水を霧吹き状に吐き出しながら、勢いよく私に迫ってきた (c)松岡賢一拡大「聖なる儀式の間」で「浄めの儀式」は行われた。シャーマンは香水を霧吹き状に吐き出しながら、勢いよく私に迫ってきた (c)松岡賢一

写真:儀式の際に設けられた祭壇。「サン・ペドリート」が入ったペットボトル(左)、水晶玉などの伝統的呪術用具の中心に、聖母マリアの絵が備えられていた (c)松岡賢一拡大儀式の際に設けられた祭壇。「サン・ペドリート」が入ったペットボトル(左)、水晶玉などの伝統的呪術用具の中心に、聖母マリアの絵が備えられていた (c)松岡賢一

写真:ペルー北部の中心都市チクラヨの市場には、シャーマン儀式用のグッズを売る小店が軒を並べていた。その中で唯一の「黒魔術専門店」で売られていた人形とお面 (c)natumi拡大ペルー北部の中心都市チクラヨの市場には、シャーマン儀式用のグッズを売る小店が軒を並べていた。その中で唯一の「黒魔術専門店」で売られていた人形とお面 (c)natumi

写真:シャーマンが使う薬草を扱った店。下方に並べられたズッキーニに似た植物が、サン・ペドリートの原料サン・ペドロ・サボテンだ (c)natumi拡大シャーマンが使う薬草を扱った店。下方に並べられたズッキーニに似た植物が、サン・ペドリートの原料サン・ペドロ・サボテンだ (c)natumi

 古代神殿「カオ・ビエホ」にある18畳ほどの「聖なる儀式の間」には、ツーンとした独自の香のにおいが充満し、強力な麻薬作用のある「サン・ペドリート」を飲んだシャーマンが、私に勢いよく迫って来た。刀を当てられ、香水を勢い良く吹き付けられ、タバコの煙をフッーと吐きつけられると、不思議にも煙が触れた部分だけがしびれてくる。

 部屋の真ん中に目をやると、香をたく火がメラメラと燃えて煙を吐き出し、そのゆらめく光が、円座を組んで儀式を見守る9名のお客様や、私の周りを動き回るシャーマンの助手を優しく照らし出していた。

 私は「秘境添乗員」であると同時に「出家僧」でもある。アンデスのシャーマニズムの祈りの空間で、皆のために一生懸命祈ってくださるシャーマン師をはじめ、ここに集う人々やアンデスの人々、そして、アンデスの歴史のなかで生まれ変わり死に変わりして今日に至った「一切万霊」を想い、彼らの至福をみ仏に祈った。すると、5000年前までさかのぼると考えられるアンデスのシャーマニズムと2550年の歴史を持つ仏教が溶け合い一体となったとの想いが広がり、至福感に包まれた。

 外に出て振り返ってみると、巨大なワカ(神殿)は、淡い三日月の光を浴びてうっすらと浮かび上がり、あたりには、近くまで迫る太平洋のさざ波の音だけが響き渡っていた。

 「絶対に、シャーマンの儀式をやってくださいよ!」

 ことの発端は、親友であり、常連のお客様でもあるB女史が、有無を言わせぬ口調で何度も念を押したことだった。そもそも、この「北部ペルー遺跡探求の旅」は、彼女の発案で成立した旅だ。言わば「旅の主催者」である。早速、現地スルーガイドのC女史に打診すると、なんと彼女はシャーマニズムの信奉者だと言うではないか。約500年前にスペインに征服され、キリスト教化が推し進められ、現在では、全人口の94%がキリスト教徒とされるペルーでは、珍しい存在だ。彼女は、学生時代、このエル・ブルホ遺跡の発掘調査を手伝っていた際、上司の考古学者に呼び出され、シャーマニズムに誘われたという。実は、発掘や警備などを担当する遺跡関係者は、裏では、シャーマニズムの「マエストロ(師匠)」と、助手や弟子の関係になっているというのだ。

 リクエストを受けた際、添乗員として危惧(きぐ)したのは、お客様の「安全性」と、儀式の「健全性」だった。そこで、白魔術のシャーマンであること、動物を生け贄にしないこと、被験者は私だけにすること、サン・ペドリートは飲ませないことを条件にお願いした。そこで決まったのが、世界遺産級の古代神殿の最も聖なる部屋を借り切っての「浄めの儀式」だった。

 マエストロは、「ノ・ファエム(祖父の意)」師と呼ばれる、この神殿でナンバー2のシャーマンだった。言わば、「副住職」にあたる存在だが、「住職」や「副住職」は、ワカの意思で選ばれるという。

 私たちは、会場を、隣接する未発掘の神殿「パルティーダ」に移して、全員で手をつないで儀式の仕上げを行った。その頃には、皆が笑顔となり、心は溶け合い、至福感に包まれていた。儀式の後、参加者からはマエストロへのスピリチュアルな質問が相次いだ。すると、マエストロは同じ答えを繰り返すだけだ。不思議に思ってC女史に聞いてみると、私の耳元で、「マエストロは、あなたがすべてを知っていると言っている」というではないか。もちろん、私にはそれらの答えを知る由もないが、儀式の際に感じた一体感を、マエストロ自身が証してくれたような気がした。実は、「南無」と祈ることは、すべての智恵を備えるみ仏と一体となることで、彼は、直感的にそれを感じ取ったに違いないのだ。帰りのバスのなかで、私は、マエストロの「苦行を通して山と会話し、そのエネルギーを人々の幸せのために使えるようになりたい」との言葉を思い出し、宗教の違いを超えて「想い」を共有し、魂のきずなを深められたことに、強い喜びを感じていた。

プロフィール

金子貴一(かねこ・たかかず)

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 秘境添乗員、フリーライター。1962年生まれ。元不登校児。高校時代、米国アイダホ州で一年間ホームステイ。大学時代は、エジプトの首都カイロに7年間在住し、カイロ・アメリカン大学文化人類学科卒業。留学を通して、「異文化間交流」の大切さを実感。在学中より、観光ガイド、ジャーナリストとして活動を開始。仕事等で訪れた世界の国・地域は100近く。著書に、「秘境添乗員」(文藝春秋)「報道できなかった自衛隊イラク従軍記」(学習研究社)
公式ブログ http://sea.ap.teacup.com/hachidaiga/

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