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秘境添乗員・金子貴一の地球七転び八起き

アジテ・スウェーデン山とサーミ博物館

2010年7月8日15時40分

写真:スウェーデン北部の白樺や岩は、人々に「大声」で語りかけてくるという拡大スウェーデン北部の白樺や岩は、人々に「大声」で語りかけてくるという

写真:パワースポット「シエイディス」に目印として置かれていた石(「アジテ・スウェーデン山とサーミ博物館」蔵)拡大パワースポット「シエイディス」に目印として置かれていた石(「アジテ・スウェーデン山とサーミ博物館」蔵)

写真:サーミ人のシャーマンたちは、このシャーマン・ドラムを叩きながら「幽体離脱」をしたという拡大サーミ人のシャーマンたちは、このシャーマン・ドラムを叩きながら「幽体離脱」をしたという

写真:ラポニアで、携帯電話で連絡しようと丘に登ると、目の前に虹が出現した拡大ラポニアで、携帯電話で連絡しようと丘に登ると、目の前に虹が出現した

写真:インタビューに答える、サーミ・シャーマニズム研究家トルビヨーン・アーノルド氏拡大インタビューに答える、サーミ・シャーマニズム研究家トルビヨーン・アーノルド氏

写真:ヨクモックのレストランでは、地元の伝統食材を利用した「トナカイ肉の燻製と、白樺の葉スープ」が美味だった。白樺は女神の木で、エネルギーが強いとされ、枝は清めのお祓いに、葉は薬用として使用される拡大ヨクモックのレストランでは、地元の伝統食材を利用した「トナカイ肉の燻製と、白樺の葉スープ」が美味だった。白樺は女神の木で、エネルギーが強いとされ、枝は清めのお祓いに、葉は薬用として使用される

 世界遺産「ラポニア」を去った私たち夫婦は、「アジテ・スウェーデン山とサーミ博物館」のある人口3千人足らずの町ヨクモックに、トルビヨーン・アーノルド氏(67)を訪ねた。サーミ文化(ラップ文化)の真髄について尋ねたかったからだ。

 白人系スウェーデン人である同氏は、23歳でサーミ人と結婚してからというもの、義父母が伝統的治療法で人々を診ていたこともあって、サーミ人の薬草、そして、シャーマニズムに興味を持つようになった。その後は、ヨクモックに移住して、看護師として勤務する傍ら、サーミ人の老人たちへの聞き取り調査を通して、知識を増やしていった。今では、若いサーミ人に自分が得た知識を伝えるまでになった。

 サーミ人の間には、16世紀以降、キリスト教の宣教師が入り、伝統的精霊信仰を否定して、キリスト教化を強力に展開。19世紀半ばには、スウェーデン国内の正統なサーミ文化のシャーマンは、死に絶えてしまったという。しかし、シャーマニズムに関する伝承や知識は、つい最近まで、古老たちにより伝えられてきたのだそうだ。

 30年ほど前に、ある人に会った際、親指と人さし指の付け根部分にやけどの跡があった。不思議に思って聞いてみると、子供の頃、歯痛で悩まされたとき、古老が草をそこの部分に盛り、火をつけたという。それ以来、歯痛に悩まされたことはなかったそうだ。これは、おきゅうの治療そのもの。中国との文化交流があったに違いないのだ。

 120種類以上もの薬草が知られているが、ある日、チベット仏教の医療担当の尼僧が訪ねてきて、一日、話し合ったことがあった。そこで分かったことは、共通の薬草を同じ治療目的で使っていることが多数あったことだ。日本のアイヌの人が来て話し合ったときには、熊を信仰する点が共通していることが分かった。また、学術研究の結果、サーミ人の民間療法は、シベリアの民間療法、北アメリカのネーティブアメリカンの民間療法との類似性も指摘されているのだ。

 ところで、サーミのシャーマンは、患者が瀕死の重傷の場合、魂が悪霊によって盗まれたと考えた。そこで、シャーマン・ドラムを叩いてトランス状態に入り、幽体離脱して、死界におもむき、盗まれた患者の魂を取り戻してきたのだ。あるときは悪霊と闘い、あるときは悪霊に馬など高価な物を捧げると交渉して。しかし、闘いに負けて、シャーマンが死亡したこともあったそうだ。これらも、先祖代々、受け継がれた話を、古老たちから聞いたものだ。

 アーノルド氏の知識や経験は学術研究者たちにも評価されているらしく、考古学者や文化人類学者との学術調査も行われ、その成果は、同氏に案内してもらったサーミ文化を紹介する「アジテ・スウェーデン山とサーミ博物館」にも生きていた。

 私がラポニアで体験した不思議な自然現象を語ると、同氏の表情は和らぎ、話はスピリチュアルな方向に展開していった。実は、ラポニアに入るときは、太陽のはるか横にもう一つの太陽が輝く「幻日」という気象現象が起き、ラポニアをさまよった翌日、今回の旅をプレゼントしてくれた親友が心配しているに違いないと、携帯電話が通じる丘の上まで上り電話をし終わったときには、目の前に鮮明な虹が輝き出した。また、ラポニアを去るときは、上空にピンクやグリーンに輝く「彩雲」が出現したのだ。

 「私自身も、何度も不思議な体験をしたことがあるよ。スウェーデンでは北にいくほど、樹木や岩などの自然が大声で語りかけてくるんだ。そのなかでも、女神の木とされる白樺(しらかば)は最もパワーがあるね。

 白樺の森に入ったとき、突然、白樺が動き出して僕を囲んで踊りだしたことがあるんだ。思わず、僕も一緒に踊ったけどね。

 巨大な岩と語り合うときは、ゆっくりと話すことが大切さ。岩は色々なことを記憶しているんだ。1万年以上前の氷河期からの記憶を持っているものもあったよ。氷に囲まれ、それが溶けて川となり、トナカイたちがやってきて、トナカイを追って狩人のサーミ人たちがやってきた。それらを、映像で見せてくれたんだ…」。

 豊富な知識と経験が尊重されて、白人にも関わらずアーノルド氏は、「二十数名で構成される秘密裏のサーミ人シャーマングループ」に入れてもらったという。このグループは、昔ながらの聖地「シエイディス」の復活を目指し、各地で儀式を行っているのだという。シエイディスとは、今で言う「パワースポット」に当たる。

 「各地に点在するシエイディスは、大地に広がる霊的エネルギーのネットワークだ。儀式によりネットワークを再生させることで、大地は生き返ることができるんだよ」。

 消滅して約150年。シャーマニズムと、それと一体だった自然の再生を目指して、アーノルド氏は、彼ならではの使命に燃えていた。

◆解説

サーミ人:かつては「ラップ人」と呼ばれていたが、蔑称だったため、現在では彼ら自身が使う「サーミ」の名前で呼ばれている。スカンジナビア半島北部ラップランドとロシア北部コラ半島の計4カ国に居住する少数民族。推定総人口は約7万人で、うち約2万人がスウェーデンに住む。約11000年前に溶けゆく氷河が北上すると共に移動したトナカイを追ってやってきた狩猟民族。後にトナカイの遊牧が生活の中心となった。

シエイディス:サーミ人が古来大切にしたスカンジナビア北部の大地に点在する聖地、または、パワースポット。シャーマンたちは霊界への入口と考え、人々は供物を捧げた。今でも供物を捧げるのはサーミ人の「5%以下」で、多くのシエイディスはその存在が忘れ去られてしまった。考古学者により、紀元後800〜1300年代のシエイディスが各地で発掘調査され、動物や金属製品(中世英国やドイツのコイン、矢じり)などが発見されている。

プロフィール

金子貴一(かねこ・たかかず)

写真

 秘境添乗員、フリーライター。1962年生まれ。元不登校児。高校時代、米国アイダホ州で一年間ホームステイ。大学時代は、エジプトの首都カイロに7年間在住し、カイロ・アメリカン大学文化人類学科卒業。留学を通して、「異文化間交流」の大切さを実感。在学中より、観光ガイド、ジャーナリストとして活動を開始。仕事等で訪れた世界の国・地域は100近く。著書に、「秘境添乗員」(文藝春秋)「報道できなかった自衛隊イラク従軍記」(学習研究社)
公式ブログ http://sea.ap.teacup.com/hachidaiga/

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