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秘境添乗員・金子貴一の地球七転び八起き

世界で唯一の再建されたヴァイキングの町

2010年7月15日12時39分

写真:トルビヨーン・ビーマン氏は、毎年、戦闘ゲームに参加するヴァイキング戦士だ拡大トルビヨーン・ビーマン氏は、毎年、戦闘ゲームに参加するヴァイキング戦士だ

写真:古代の岩絵を基に再建した「漁師の家」前に集う人々。すぐ後ろは、バルト海だ。左は、異教徒間に入り活動するキリスト教宣教師拡大古代の岩絵を基に再建した「漁師の家」前に集う人々。すぐ後ろは、バルト海だ。左は、異教徒間に入り活動するキリスト教宣教師

写真:今年のヴァイキング・マーケット開催を宣言するため、ビヨーン王(博物館長)が馬で入場してきた拡大今年のヴァイキング・マーケット開催を宣言するため、ビヨーン王(博物館長)が馬で入場してきた

写真:ビヨーン王が持つ王笏(おうしゃく)と王の服装(背後)。ヴァイキング町は細部にまでこだわって、当時の様子が再現されている拡大ビヨーン王が持つ王笏(おうしゃく)と王の服装(背後)。ヴァイキング町は細部にまでこだわって、当時の様子が再現されている

写真:当時の染色を再現するヴァイキングたち拡大当時の染色を再現するヴァイキングたち

写真:「魔女・女神官」として活躍するエタ・クリステンソン師と、夫のテオ・トルンクヴィスト氏に話を聞いた拡大「魔女・女神官」として活躍するエタ・クリステンソン師と、夫のテオ・トルンクヴィスト氏に話を聞いた

 さる7月1日、私たちは、タイムマシンにでも乗ったかのような錯覚に陥っていた。まわりには、1134年当時のヴァイキングの町が再現され、中世の服に身を包み、あるいは鎧兜で身を固め、あるいは馬に乗って、人々が生活していた。ここは、スウェーデン南部にある「フォテヴィケン博物館とヴァイキングタウン」。世界で唯一の再建されたヴァイキングの町であり、スカンディナビア半島最大の「実演型博物館」でもある。

 博物館長でヴァイキングタウンの「王」でもあるビヨーン・ヤコブソン氏は、「実演型博物館」の効用を次のように説明した。

 「普通の博物館のようにヴァイキングの遺物を展示しただけでは、そこを出た途端に何を見たのか忘れてしまう。しかし、実演型は、参加者自身がヴァイキングに成りきることで、多くを学ぶことができる。当時はどのような服を着ていたのか、どのような食事をしていたのか、どのような工芸品を作っていたのか。すべての行動に時代考証が必要となる。ヴァイキングに詳しくならざるを得ないわけだ。

 また、一般の入場者には、第1人称と第3人称の立場でヴァイキングの説明が出来る。例えば私は、ヴァイキングの王として主観的に語ることもできるし、館長として客観的に説明することもできる。

 館長としては、ここに参加するヴァイキングたちが『展示品』として一定のレベルを保っているかを確認することも仕事のひとつだ」。

 この日は、今年で15回目となる、ヴァイキングの故郷スカンディナビア半島最大の「ヴァイキング・マーケット」の前日祭。4日間の開催期間中に、ヨーロッパ諸国やアメリカなど12カ国から約600人のヴァイキングが集まった。

 新聞記者のトルビヨーン・ビーマン氏(57)は、10年前から毎年参加する「異教徒(古代スカンディナビア宗教信奉者)」のヴァイキング戦士だ。毎年行われる戦闘ゲームに参加するのが楽しみだ。今年は約60人の戦士が参加し、2チームに別れて闘った。学芸主任のスヴェン・ロズボーン氏によると、ヴァイキングはただの海賊ではなく、騎士道にも似た戦いのルールを持っていたという。女子供を襲うことはなかったし、戦闘を止めてしゃがみ込んだり伏せったりした戦士を襲うこともなかった。それが、ここの戦闘ゲームのルールでもある。

 「友人たちは、毎年ヴァイキングになる私を変人扱いしているわ」と言うのは、サラ・リイス・ハッセルスキオグさんだ。二十歳のとき見学に来てハマってしまい、以来、毎年参加して今年で11回目になる。昨年はじめて「鍛冶屋」となってナイフを作り、今年も夫と共に鍛冶屋として炭火を起こしフイゴで風を送る。普段は、近隣の都市で事件や事故を担当する新聞記者だが、溜まりに溜まったストレスから自分を解放するために参加するという。

 それにしても、皆、とても楽しそうだ。大人が大まじめで行うママゴトのようにも見えた。

 すると、突然、ヴァイキングの青年が駆け寄って来て、「あそこに、魔女がいるよ」と教えてくれた。魔女として修行して本まで書いている人物だという。

 そのエタ・クリステンソン師と夫のテオ・トルンクヴィスト氏は、共に、4年間教会の牧師だった経歴を持つ。しかし、精神性を求めて入ったキリスト教の世界は、彼らの心を満たす場所ではなかったという。エタは、自分の人生を振り返って、静かにこう語りはじめた。

「考えてみると、私は10代のときから魔女でした。孤独な少女時代で、夜間や早朝に大自然の中を歩き回り、エネルギーを得て、樹木や岩、死者の霊の話を聞いていたのです。

 しかし、その気持ちを押し殺して牧師になったものの、教会は私が求めていたものではありませんでした。のちに得た霊的体験をきっかけに、私は高名な文化人類学者から実践的な魔術について学ぶようになり、古代スカンディナビア宗教のシャーマニズムに傾倒して行きました。1998年に魔女に関する初めての本を出すと、300人ほどの若い女性から魔女になる方法を教えてくれと乞われ、講座を開くようになりました。

 問題は、若い女性たちですから、想像力が豊かなため、自分が霊的体験だと思っていることが、妄想なのか、本当に外部からの霊的アプローチなのか分からなくなってしまうことです。それを明確に分けていく能力を身につけさせることが第一歩でした。

 何年もたって、グレードアップさせた『神官になるための講座』を教え始めました。教会で行うような洗礼、結婚、葬儀などの儀式を、古代スカンディナビア宗教で行う聖職者を養成するためです。

 スウェーデンでは、2000年まではルーテル派教会が国教と定められていましたが、現在では、さまざまな宗教的表現方法があるということです」。

 現在、6冊目の本の出版を準備するご夫妻に、今後の目標を尋ねた。

「私たちにとって、シャーマンという言葉は重い言葉です。人生の最終目標がシャーマンになることと言っても過言ではないでしょう」。

プロフィール

金子貴一(かねこ・たかかず)

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 秘境添乗員、フリーライター。1962年生まれ。元不登校児。高校時代、米国アイダホ州で一年間ホームステイ。大学時代は、エジプトの首都カイロに7年間在住し、カイロ・アメリカン大学文化人類学科卒業。留学を通して、「異文化間交流」の大切さを実感。在学中より、観光ガイド、ジャーナリストとして活動を開始。仕事等で訪れた世界の国・地域は100近く。著書に、「秘境添乗員」(文藝春秋)「報道できなかった自衛隊イラク従軍記」(学習研究社)
公式ブログ http://sea.ap.teacup.com/hachidaiga/

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