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秘境添乗員・金子貴一の地球七転び八起き

オシリス神話の地、アビドス

2010年11月22日

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写真:アビドスのセティ1世神殿は、壁画の保存状態が良く、観光客を魅了して止まない。同神殿は、近隣に王墓群があるエジプト建国前後の歴代王を崇敬するために建立された拡大アビドスのセティ1世神殿は、壁画の保存状態が良く、観光客を魅了して止まない。同神殿は、近隣に王墓群があるエジプト建国前後の歴代王を崇敬するために建立された

写真:アビドスへの途中、道端の陶器屋で綺麗な水パイプ用の部品を見つけた拡大アビドスへの途中、道端の陶器屋で綺麗な水パイプ用の部品を見つけた

写真:帰路に立ち寄ったデンデラ神殿は、有名なクレオパトラ女王のレリーフがあることで知られる。写真は、安産の神として崇敬されたベス神のレリーフ拡大帰路に立ち寄ったデンデラ神殿は、有名なクレオパトラ女王のレリーフがあることで知られる。写真は、安産の神として崇敬されたベス神のレリーフ

写真:今から5000年以上前にエジプトを統治した、エジプト最初期の王ジェルの王墓は、のちの古代エジプト人にオシリス神の墓だと誤信され、約3000年にわたり大巡礼地としてにぎわった拡大今から5000年以上前にエジプトを統治した、エジプト最初期の王ジェルの王墓は、のちの古代エジプト人にオシリス神の墓だと誤信され、約3000年にわたり大巡礼地としてにぎわった

写真:ジェル王の周囲に、死後の王に仕えるため、607人が絞殺され埋葬された。写真は、廷臣たちが埋葬された場所のひとつ拡大ジェル王の周囲に、死後の王に仕えるため、607人が絞殺され埋葬された。写真は、廷臣たちが埋葬された場所のひとつ

写真:古代の巡礼者が奉納した素焼きの壺がほぼ完全な形で残っていた拡大古代の巡礼者が奉納した素焼きの壺がほぼ完全な形で残っていた

写真:ジェル王の孫と考えられるデン王の墓は、ドイツ隊による修復が進んでいた拡大ジェル王の孫と考えられるデン王の墓は、ドイツ隊による修復が進んでいた

 エジプトの主要な観光地であるアビドスは、古代エジプトの冥界の王であるオシリス神の主神殿があった遺跡で、現在では、古代エジプトの黄金期、今から約3200年前の新王国時代に建立されたセティ1世の神殿、オシリス神の空墓「オシレイオン」と、ラムセス2世の神殿を見学することができる。特に、セティ1世の神殿の壁画は保存状態が良く、観光客を魅了してやまない。

 日本からパッケージツアーに参加する場合、アビドスは10日間以上のコースの見学地として組み込まれていることが多い。午前7時30分に観光バスでルクソールのホテルを出発し、1日がかりでデンデラとアビドスを見学して、夕方にはホテルに戻る日程だ。

 ルクソールからバスで約1時間の距離にあるデンデラ神殿は、約2000年前の建設当時の姿が色彩や形状ともにほぼ完全な形で残っていて、壁面には古代エジプト最後の女王クレオパトラ7世の名前と姿がエジプトで唯一現存することでも知られ、これまた、人気が高い観光スポットである。

 この日帰りの旅では、途中に良いレストランがないため、ホテルで調理したランチボックスを持参するのが一般的だ。私たちも、バスの車内で、ランチボックスに入っていた菓子パン、ゆで卵、バナナ、ジュースなどをほお張った。

 アビドスは、快適なホテル群がある大観光地ルクソールを出発してバスで約3時間、ナイル川沿いに約160キロ北上した場所にあった。途中は、荒涼とした岩山を背景に、ナツメヤシ、伝統的な泥れんがづくりの集落や、水牛やヤギ・羊などの家畜、特産物であるサトウキビの畑で働く人々の姿が車窓から見られ、上エジプト(エジプト南部)の田園風景が続く快適な舗装道路だ。

 私たちは、アビドスの通常の観光を終えると、あらかじめ取得していたエジプト最高考古評議会(考古庁)の特別許可を持って、更に1.5キロ程砂漠に入ったエジプト最古級の王墓群「ウンム・エル・カアブ」に向かった。

「みんな、しっかりつかまって!」

 マイクロバスの運転手はヤケになってアラビア語でそう叫ぶと、起伏の激しい砂漠の中に突進して行った。案内役のエジプト考古学者の指示で嫌々ながらも思いきってアクセルを踏んだが、ベテランの彼にとってもこの砂漠に入るのは初めての経験なのだ。小刻みに衝撃を受けたマイクロバスが、前後左右に大きく揺れる。しばらくしてタイヤがスタックすると、もうあとは歩いて行くしかなかった。

 真夏のエジプトの砂漠は、天頂から降り注ぐ太陽光線にジリジリと焼かれ、風は吹いているのに、まるでドライヤーを全身に当てられているかのような暑さだ。砂漠では音が砂に吸収されるため、辺りは静寂に包まれている。そのなかを、参加者9人はただ黙々と歩いていた。

 ほどなくして私たちの目の前に現れたのは、砂漠がパックリと口を開けた泥れんがづくりの巨大な四角の穴だった。古代エジプト最古級の王墓、今から5000年以上前にエジプトを統治した第一王朝第3代ジェル王の墓だ。のちの古代エジプト人が、オシリス神の墓だと誤信して、約3000年間の長きにわたりエジプト中からの巡礼者でにぎわった場所でもある。近くには、のちの時代の巡礼者が奉納していった素焼きの壺(つぼ)がほぼ完全な形で残っていた。よく見ると、古代を通じて訪れた巡礼者がささげた壺は、無数の破片となって辺り一面に落ちている。

 私たちは、隣接する第一王朝第5代デン王の王墓も見学した。ジェル王の孫と考えられる人物だ。これら二つの王墓では、修復作業が進んでいた。

 ところで、発掘調査で明らかになったのは、王墓は生前の王宮を再現したもので、特に第一王朝では、王の死とともに廷臣たちが絞殺され王墓周辺に埋葬されたことだ。例えば、ジェル王墓周辺には、死後の王に仕えるため、607人とロバが埋葬されたのである。埋葬品の壺の中には、はるかパレスチナから輸入されたものも多く混じっており、当時、既に外国との貿易が行われていたこともわかっている。

 古代エジプトが統一される前の3人の王、統一後の第一王朝の9人すべての王と、第二王朝の最後の2人、合計14人の王が埋葬されたこの王墓群は、本連載で以前に記したサッカラ遺跡よりも更に古い王墓群であり、古代エジプト建国にかかわる重要な王たちが埋葬された場所なのだ。そして、古代エジプト王朝成立の謎は、正にこの遺跡を中心に、明らかにされつつあるのだ。

 最後に、アビドスの主役であるオシリス神の神話を記す必要があるだろう。この神話は、古代エジプトの重要なモチーフであり、エジプト各地にある古代遺跡を見学するのにも多いに役立つ。

 オシリス神は、イシス女神、セト神など4兄弟の長男だった。オシリスはエジプトの国王として君臨し、国民の絶大な支持を得ていた。しかし、オシリスに嫉妬を抱き、その地位を狙った弟のセトは、72人の共犯者とともにオシリスを謀殺して、その遺体を14(42の説もある)に切り裂いてエジプト全土に捨ててしまったのだ。

 妻であり妹のイシスは、愛するオシリスの死をとても悲しみ、エジプト中を廻って肉片を拾い集めてミイラを作り、魔術をかけてついに復活させることに成功する。以後、オシリスは冥界の王として死者を裁くこととなり、死と再生の神、豊穣(ほうじょう)の神としても崇敬されるようになる。

 一方で、オシリスの遺児でハヤブサと天空の神ホルスは、王となったセトに見つからないように秘密裏に育てられた。母のイシスがひざに子のホルスを座らせて乳を与える姿は、古代エジプト美術の大切なモチーフだ。やがて、大人となったホルスは、80年間争った結果、父の仇(かたき)をとってセトに打ち勝ち、王位を奪い返すことができた。そこで、ホルスは歴代王の守護神となり、歴代王はホルスの化身と信じられるようになるのだ。

 つまり、オシリス神話には、純愛物語のロミオとジュリエット、冥界の主で死者に対して裁判を行う閻魔(えんま)大王、聖母マリアと幼子イエスの聖母子像、そして、忠臣蔵の仇討ちの要素がすべて入り交じっているのだ。古代エジプトで人気を博さないわけがない。そこで、「オシリス神話」と、バラバラになったオシリス神の頭が発見された地とされ、オシリス神の墓があり、毎年オシリス神祭が行われた大聖地「アビドス」は、古代エジプトからローマ時代までの長きにわたって、エジプト人、のちには、はるかギリシャ・ローマ世界の人々をも魅了し続けたのである。

注:オシリス神話には、詳細の異なる様々なバージョンがあります。

◆旅の情報:アビドス

 ルクソールから、個人的にアビドスやデンデラに行く場合、英語ガイド付きのルクソール発着日帰りツアーに参加するか、タクシーをチャーターして行く方法がある。タクシーをチャーターする場合、法令で外国人は安全のため、ホテルを6時以前に出発することはできず、帰還も18時以前にしなければいけないので注意が必要だ。

◆宿泊:遺跡で灼熱の太陽に焼かれたあとは、リゾートホテルでゆっくりして頂きたい。そんな理由で、今回は、雄大なナイル川に浮かぶ私有の島に建立された「マリティム・ジョリー・ヴィル・キングス・アイランド・ルクソール・ホテル」(5星)を選んだ。緑豊富な島に、リゾート風コッテージが散らばり、プールなどのレジャー施設が充実しているだけでなく、エジプト内外のおいしい料理がバイキング方式で思いっきり食べられるのもうれしい。ルクソール市内まで4キロと、利便性が良いのも魅力だ。

プロフィール

金子貴一(かねこ・たかかず)

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 秘境添乗員、フリーライター。1962年生まれ。元不登校児。高校時代、米国アイダホ州で一年間ホームステイ。大学時代は、エジプトの首都カイロに7年間在住し、カイロ・アメリカン大学文化人類学科卒業。留学を通して、「異文化間交流」の大切さを実感。在学中より、観光ガイド、ジャーナリストとして活動を開始。仕事等で訪れた世界の国・地域は100近く。著書に、「秘境添乗員」(文藝春秋)「報道できなかった自衛隊イラク従軍記」(学習研究社)
公式ブログ http://sea.ap.teacup.com/hachidaiga/

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