江戸時代に流行した「おかげ参り」。食べられることや働けること、日々の恵みへの感謝を胸に秘め、年に数百万の人が伊勢神宮を目指したという。「おかげ」という言葉には元々、神仏やよそ様から受けた力添えという意味がある。神宮の玄関口、三重県伊勢市の宇治山田駅にも「おかげ」を感じる場所がある。
朝6時、行き先に「鮮魚」と記した列車が入ってきた。行商の人だけが乗れる大阪行きの鮮魚列車だ。この専用列車のおかげで、伊勢湾の新鮮な魚が関西の人たちに届く。ここはその始発駅。
日が昇り、「近鉄」の文字がある塔屋を照らした。街を見渡せるこの場所は、火の見やぐらだった。1968年まで市の消防本部があり、火の手があがると、ここから消防車が出動した。駅は町の安全を守る役目も果たしていた。
開業は昭和初め、1931年。神宮の式年遷宮を記念した神都博覧会の跡地に、3階建ての駅舎が建てられた。草花の模様を施したテラコッタ(素焼き)の外壁に、スペイン瓦という気品漂う造り。皇族や総理大臣が神宮を参拝する時に降り立つ。構内には貴賓室がある。
由緒ある駅にこの冬着任した天野隆駅長(58)は、プレッシャーに負けそうな時、駅を仰ぐ。「この建物に負けたらあかん」と。頑張れるのは駅舎のおかげだけではない。「駅舎を誇りに思ってくれる市民や駅員の支えがあるから」。いろんな「おかげ」が力になる。(秋山幸子)
宇治山田駅は、近鉄山田線と同鳥羽線の境界に位置する。
来年は伊勢神宮最大の祭り、式年遷宮の年。駅から神宮内宮へはバスで15分。外宮へは隣の伊勢市駅から歩いて5分。外宮の敷地内に4月、せんぐう館が開館した。1300年続く式年遷宮や、神宮の日々の営みを資料や映像で伝える。外宮正殿の一部を原寸大で再現した模型は圧巻。第4[火]休み。かつて「伊勢の台所」と呼ばれた河崎地区は、宇治山田・伊勢市両駅から徒歩15分。今なお残る古い蔵にカフェや雑貨店が入る。伊勢市観光協会(電話0596・28・3705)。
伊勢エビやアワビなど、伊勢の海の幸が味わえる駅前のかっぽう店大喜(電話0596・28・0281)。皇族が伊勢神宮を参拝した際、料理を幾度か提供したという店だ。伊勢エビの定食は5000円。建て替えのため仮店舗で営業中。