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おとめ座を眺め、宇宙を読み解く 5月の星空

文:平松正顕

2009年5月1日10時25分

イラスト:我々の住む銀河系を横から見た図(上)と上から見た図(下)。太陽系は銀河系の円盤部に位置しており、方向によって見える星の数が異なる。拡大我々の住む銀河系を横から見た図(上)と上から見た図(下)。太陽系は銀河系の円盤部に位置しており、方向によって見える星の数が異なる。

写真:おとめ座銀河団。ぼんやりと広がった姿の銀河が数多く写し出されている。
(資料提供:東京大学大学院理学系研究科木曽観測所)拡大おとめ座銀河団。ぼんやりと広がった姿の銀河が数多く写し出されている。 (資料提供:東京大学大学院理学系研究科木曽観測所)

 5月。連休で都市部を離れ、夜空の暗い場所に行く機会も増えることだろう。程よい気温の中で、ゆっくりと夜空の星々を楽しみたい。

 先月のコラムで、「春の大曲線」を紹介した。北の空に大きくひしゃくの形を描く北斗七星、その柄の部分の曲線を伸ばしていくと、うしかい座のアルクトゥルス、おとめ座のスピカというふたつの1等星を見つけることができる。今回のコラムでは、このおとめ座にスポットを当てよう。

 おとめ座は、全天で88ある星座の中で2番目の大きさを誇り、誕生星座としても有名である。おとめ座で最も明るい1等星スピカは春の大曲線の南端に位置している。「冥王星」の日本名の名付け親である随筆家・野尻抱影は、スピカの白い輝きを「真珠星」と呼んだ。しかしおとめ座にはスピカ以外に明るい星が少なく、3等星以下の星が散らばる様子から豊穣の女神デーメーテールの姿を想像するのは難しい。都市部を離れた暗い夜空のもとで、星座を作り上げた先人たちの豊かな想像力を味わうのがよいだろう。

 おとめ座の方向に明るい星が少ないのには理由がある。私たちが住む太陽系は、1000億個以上の星と大量のガスや塵が集まった銀河系の中に位置している。銀河系は、中心部がふくらみその外側に薄い円盤が広がった形をしていると考えられている。目玉焼きのような形を思い浮かべてみればいいだろう。太陽系は、目玉焼きで例えれば薄く広がった白身の部分にある。白身の中の小さな泡になって考えてみると、横方向にはずっと白身が広がっているが、上下方向は薄いので白身の量は少ない。銀河系の中の太陽系でも同じで、銀河系の円盤方向には星やガスがたくさんあるのだが、それと垂直な方向には星やガスが少ない。おとめ座はこの垂直な方向に近い位置にあるので、明るい星が少ないのだ。星の多い円盤方向がよく見えるのは夏。夜空にぼんやりと白く横たわる天の川は、銀河系の円盤部に存在する多数の星の光そのものである。

 明るい星が少なく寂しい印象のあるおとめ座付近だが、実は星々の間にこそ広大な宇宙が広がっている。もう一度目玉焼きの白身の中の泡になって考えてみよう。目玉焼きの外の世界を見るには、どちらを向くのがいいだろう。白身の層が薄い上下方向がいいに違いない。銀河系でも同じことが言える。円盤に垂直な方向には星やガスが少ないため、それらに邪魔されずにより遠くを見通すことができるのだ。銀河系の外側にある天体は非常に遠くにあるために人間の目で見ることはほとんどできず、その姿を目にするには望遠鏡の助けを借りることになる。望遠鏡でおとめ座としし座の間をのぞいてみると、たくさんの銀河が見つかる。おとめ座銀河団と呼ばれる、2000個を超す銀河の大集団である。

 望遠鏡などの天体観測技術が進展したことにより、銀河団はおとめ座のもの以外にも多数見つかっている。さらに多数の銀河団が網目のように連なって、「宇宙の大規模構造」と呼ばれる構造を作っている。ひとつひとつの銀河には数十億から数千億の星々が含まれているから、トータルでの星の数はそれこそ「天文学的数字」だ。夜空の星々の間に広がる暗闇の向こうには、それほど豊かな宇宙が広がっているのだ。明るい星の少ないおとめ座を眺めながら銀河系の「窓」を通してこの豊かな宇宙の物語を読み解いてみるのも、星空のひとつの楽しみ方だろう。

     ◇

 平松正顕(ひらまつ・まさあき)天プラ/台湾・中央研究院天文及天文物理研究所・博士研究員。

プロフィール

天文学普及プロジェクト「天プラ」

天プラは、天文学の普及を目指して活動する、若手研究者らによる有志グループです。 なにかと遠い感じのする天文学の世界を身近に感じてもらおうと、「星の輪廻(りんね)」をテーマにしたトイレットペーパーを製作するなど、あの手この手で天文学普及に取り組みます。

モットーは“知るを楽しむ”。大目標は「みんなで作ろう、月面天文台」。

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