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夏の大三角を仰いで宇宙の奥行きを知る 7月の星空

文:佐藤祐介

2009年7月1日16時26分

図:  拡大  

図:  拡大  

 梅雨空でなかなか星が見えない日が続くが、この幕間に星空の主役は春の星から夏の星へと交代している。梅雨明けに登場する夏のスターを見逃すことのないよう、予習しておきたいところだ。

 夏の星空では、「夏の大三角」がいちばん有名だろう。夏の大三角は、夏の夜空に目立つ明るい星を三つ結んでできる目印のことだ。夜空の明るい街の中でもこの三角形はよく目立つので、見たことがある方も多いだろう。小学校の理科の授業中で習った、という思い出もあるかもしれない。それだけ日本では親しまれている夏のシンボルである。今回のコラムでは、この有名な夏の大三角を形作る星たちについて注目してみることにしよう。

 夏の大三角の頂点にある星はそれぞれ、こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブという星だ。ベガは織姫星、アルタイルは彦星としても私たちになじみが深い。明るさはそれぞれ、ベガが0.0等級、アルタイルが0.8等級、そしてデネブが1.3等級だ。等級は小さい値の方が明るいので、三つの中ではベガが一番明るく、デネブがもっとも暗いことになる。しかし、この三つの星の中で“本当に”一番明るい星は、実はデネブであることをご存じだろうか。

 本当は明るい星が、実際には暗く見える。そのからくりは、地球からの距離にある。デネブは他の二つの星に比べてとても遠いところにある星なのだ。それぞれの星の地球からの距離は、ベガが25光年、アルタイルが17光年と比較的近くなのに対して、デネブは約1800光年と見積もられ、アルタイルの100倍以上遠いと考えられている。星の明るさは、距離の二乗に反比例して暗く見える。つまり、遠くにあればあるほど暗く見えるということだ。もしも、これらの星々を地球から同じ距離に置けば、デネブはベガやアルタイルに比べて10000倍近く明るく見えることだろう。

 夜空に目立つ明るい星のほとんどは、私たちの太陽系に近い距離にあるために明るく見える星だと思ってよい。逆に言えば、暗めに見える星は、多くは相対的に遠くにある星だ。つまり、デネブのような遠くにあって明るく見える星はたいへん珍しい星でもあるのだ。そのことを知った上で夜空を眺めなおせば、平面にしか見えなかった星空も、実は非常に奥行きのある三次元的な空間であるように見えてくるだろう。

 ところで、夏の大三角を作るベガ、アルタイル、デネブの三つの星は、明るく観測しやすい天体のため、天文学者によってよく調べられている星でもある。特にベガは天文学において星の明るさの基準となる星として定められているため、精密な観測が行われているのだが、標準的な星から予想されるよりも強い赤外線を発していることがわかっている。この赤外線の超過は、ベガの周りをぐるっと円盤状に取り囲む微小な砂粒によるものであると考えられており、この砂粒は惑星が作られていく過程で生じた破片だとされている。つまりベガの周りでは、今まさに太陽系のような惑星系の形成が進んでいる可能性が示唆されているのだ。夜空に静かに輝くひとつひとつの星では、それぞれのドラマが進行していると思うと、星空を眺める楽しみも一段と増すのではないだろうか。

 ※文章中の数値は、すべて理科年表2009による。

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 佐藤祐介(さとう・ゆうすけ)天プラ/北海道大学 科学技術コミュニケーター養成ユニット 博士研究員。

プロフィール

天文学普及プロジェクト「天プラ」

天プラは、天文学の普及を目指して活動する、若手研究者らによる有志グループです。 なにかと遠い感じのする天文学の世界を身近に感じてもらおうと、「星の輪廻(りんね)」をテーマにしたトイレットペーパーを製作するなど、あの手この手で天文学普及に取り組みます。

モットーは“知るを楽しむ”。大目標は「みんなで作ろう、月面天文台」。

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