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秋の夜長に月を想う

文:亀谷和久(天プラ/宇宙航空研究開発機構 研究員)

2009年9月1日12時19分

写真:かぐやによる満地球の出拡大かぐやによる満地球の出

図:かぐやが見た月の地形拡大かぐやが見た月の地形

 夏の暑さも次第に和らぎ、少しずつ秋の気配が深まる9月。秋の夜長ともいわれる通り、夏に比べてだんだんと夜の時間が長くなり、夜空を楽しめる時間も増える。そして古くから中秋の名月として親しまれるお月見のシーズンでもある。虫の音を聞きながら、夜空にぽっかりと浮かぶ満月に思わず心を奪われた経験は、誰しもあるのではないだろうか。今回のコラムでは、お月見の主役であり、私たちにとってもっとも身近な天体である月に着目してみよう。

 昔から、天文学は日々の暮らしに不可欠な暦と密接にかかわってきた。お月見で有名な中秋とは旧暦の8月15日のことで、文字通り秋(7〜9月)のちょうど真ん中にあたる。現在の暦では9月になることが多いが、今年の中秋は10月3日。過去10年間では2番目に遅いお月見となる。

 お月見といえばすすきと団子にまん丸の満月だが、中秋の日が必ずしも満月になるわけではない。実は中秋よりも満月が遅れる傾向がある。実際、今年は中秋から1日遅れの10月4日が満月となる。これには主に二つの理由がある。ひとつは、旧暦の月の始まる日(1日)は「新月となる瞬間を含む日」と決められているため、1日の中で遅い時間に新月になればその分、満月になる時間も遅くなること。もうひとつは、月が地球を周回する軌道が完全な円ではないことなどにより、新月から満月になる日数が13.8日から15.8日まで変化することによる。

 現代の天文学や宇宙開発の分野でも月はもっとも身近な天体として重要な存在だ。その意味で今年は二つの節目の年となっている。ひとつは、ガリレオ・ガリレイが人類で最初に望遠鏡を使って月を観測してから400年。もうひとつは、アポロ11号による人類初の月面着陸から40年。これらを皮切りに、より詳細な観測や探査が行われた。月の起源や組成などについて、多くの発見があった一方で新たな謎も生まれ、現在まで脈々と研究が続けられている。

 今年の6月には、日本が2007年9月に打ち上げた月周回衛星「かぐや」が任務を終え、月面に制御落下(地上からの指示で高度を下げ、最終的に月面に衝突)したことも記憶に新しい。アポロ以来最大の本格的な月探査ミッションである「かぐや」には、15種類の観測機器が搭載されていた。中でもハイビジョンカメラで撮影された「満地球の出」などの高精細な動画に感動した人も多いだろう。レーザ高度計を用いた観測からは、世界初の全月面の地形図も作成されすでに公開されている。他にも膨大なデータの解析が着々と進んでおり、今年11月ごろからは世界中の研究者に向けて公開される予定とのこと。最新のデータが見せてくれる月の素顔に期待したい。

 「かぐや」の後を追うように、中国、インド、アメリカが次々に月探査機を打ち上げた。月を探査することは、将来的には月面基地やその先の火星の有人探査へつながる第一歩となる。アポロから40年経過した今、再び月が脚光を浴びているのは、純粋に分かっていないことを知りたいという知的好奇心と、有人探査への足がかりという両方の理由がある。

 いつの日か月面旅行が実現したら、アポロの着陸地点や「かぐや」の落下地点は観光名所になるのだろうか。お月見の日には、ほとんど夜の側をこちらに向けた地球から「見られる」ことを楽しむ時代になるかもしれない。そんな月面旅行は何十年先になるか分からないが、秋は旅行にも最適な季節。今年は9月の連休は海外へという方も多いだろう。旅先では、ぜひじっくりと月を見上げることをお勧めする。特に日本と緯度が大きく異なる南半球などでは、同じ形(欠け方)の月でも地上に対する角度が異なるため、日本で見る月と全く違う印象を受けることがある。それだけでも異国情緒が深まり、その土地の風景を楽しむ絶妙のスパイスになるだろう。思い思いに名月を眺めつつ、活躍した探査機や形成期のドラマに想いを馳せる。そんな秋の夜長の過ごし方はいかがだろうか。

プロフィール

天文学普及プロジェクト「天プラ」

天プラは、天文学の普及を目指して活動する、若手研究者らによる有志グループです。 なにかと遠い感じのする天文学の世界を身近に感じてもらおうと、「星の輪廻(りんね)」をテーマにしたトイレットペーパーを製作するなど、あの手この手で天文学普及に取り組みます。

モットーは“知るを楽しむ”。大目標は「みんなで作ろう、月面天文台」。

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