文:高梨直紘(天プラ/東京大学 特任助教)
2009年11月2日11時23分
秋の四辺形から続く「よれた東京タワー」の脇に、アンドロメダ銀河を見つけることができる。望遠鏡や双眼鏡などで眺めてみれば、星ではないぼうっとした光を認めることができるだろう。
アンドロメダ銀河の様子。肉眼では中心部の明るい部分しか見ることができないが、CCDカメラで撮像すると詳細な部分まで写し出すことができる。私たちの銀河系に属する手前側の星たちと、そのずっと先に浮かぶアンドロメダ銀河が重なって見えている。(John Lanoue氏提供)
ふと気が付くともう外が暗い。秋の日は釣瓶落としとはよく言ったもので、夕方遅くまで日が残っていた頃がずっと前のように感じる。少し仕事の手を休めて外に出れば、風の冷たさに、ああ、今年も冬が近くなったんだなと実感する。早くも暗くなった空を見上げれば、空の高いところに明るく光を放つ星が見えるだろう。木星だ。初夏の頃には深夜にならないと見えなかった木星も、季節が進み、今では夕方に見えている。それだけ、地球が宇宙空間の中を動いたということの証しでもある。
少し時間がとれるならば、しばらく夜空を眺めてみると良い。ガリレオが夜空を夢中になって観察した400年前と違い、近頃の夜空は騒がしい。ひっきりなしに行き交う飛行機たち。よく観察すれば、いろいろな方向、そしていろいろな高さに飛行機が飛んでいることを発見できるだろう。そうやって移動する光源を探しているうちに、飛行機と違って明滅しないで移動する光の点、人工衛星を見つけることができるかもしれない。
あまり知られていないが、人工衛星を肉眼で見ることは難しくない。明るさもまちまちだが、もっとも明るいものは、木星と同じくらいの明るさになる。例えば、宇宙飛行士の若田さんが滞在していた国際宇宙ステーションなどは、見やすい人工衛星の代表例だ。JAXAが用意したサイトで、いつ頃、どの方向に見えるのかを知ることができるので、調べてみると良いだろう。
人工衛星が見えるのは、太陽の光を反射して光るためだ。夕方は、地上が地球の影に入りつつある時間帯だが、上空はまだ太陽の光を浴びている。そのため、人工衛星が楽しめるのは日の入り後の2時間程度だ(あとは明け方前)。しかし、人工衛星が見えない時間帯になっても夜空を眺める楽しみは続く。おうし座流星群だ。
流れ星を降らせる流星群はたくさんあるのだが、おうし座流星群はユニークな流星群だ。火球と呼ばれる、非常に明るい流れ星が流れる割合が高いのだ。このおうし座流星群は、11月前半にピークを迎える。もともと流れる数が多くはないので、一晩見たからといって必ず出会えるたぐいのものではないが、出会えた時の興奮は忘れがたいものになるだろう。11月には、おうし座流星群だけではなく、33年ごとの大出現で知られるしし座流星群もある。今年のピークは日本では18日の朝方と予測されているので、空が白む前に眺めてみると良いだろう。
なかなか火球に出会えなくても、秋の夜空には他の季節にはないスペシャルな天体、アンドロメダ銀河が隠れている。夜空の暗いところであれば、4等級の明るさでその存在を確認することができる。アンドロメダ銀河までの距離はおよそ230万光年、肉眼で見ることができるもっとも遠い天体だ。夜空に見える星々がせいぜい数10〜数100光年程度の近距離にあるのに対して、その1万倍以上も遠いところにあるアンドロメダ銀河も同時に見えてしまう不思議。理屈ではわかっても、感覚的に腑に落とすのは簡単ではない。
広い宇宙の中では、アンドロメダ銀河は私たちの住む銀河系のすぐお隣にあたる銀河だ。実はこのアンドロメダ銀河、私たちの銀河系に向かって日々接近している。およそ20億年後には、銀河系と最初の接近衝突をおこし、最終的には合体することでひとつの巨大な銀河へと変化すると考えられている。私たちの子孫は、夜空の大部分を占めて明るく広がるアンドロメダ銀河の様子を眺めて、なにを思うのだろうか。秋は物思いに耽る季節でもある。仕事で遅くなった帰り道には、そんなことにも想いを馳せながら、夜空を眺めてみてはどうだろうか。
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