文:平松正顕
2010年1月4日11時14分
ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡を宇宙に向けた年から400年という節目の年を記念し「世界天文年」と定められた2009年が終わり、2010年になった。まだまだ寒い盛りであるが、先月も紹介したオリオン座やおうし座を含む冬の星座たちには明るい星が多く、都会の明るい夜空でも十分に星空散歩を楽しむことができる。左の図に、この時期に見える星座たちを示している。オリオン座を起点に反時計回りで冬の星座たちをたどっていこう。
オリオン座には2個の1等星が輝いている。狩人オリオンの脇の位置にある赤っぽい色をしたベテルギウスと足元で青白い光を放つリゲルだ。この色の対比から、日本のある地方では旗印になぞらえてこの二つの星を平家星・源氏星と呼んでいるところもある。小さな望遠鏡を使ってこの二つの星を見てみると、その色の違いがよりはっきりとわかるだろう。
オリオン座の西隣(右側)には、先月紹介した星団すばるを含むおうし座がある。顔の位置で輝く星はアルデバランだ。このおうしの角の先、オリオンの頭上にはぎょしゃ座があり、ここにもカペラという明るい星がある。「ぎょしゃ」というのは聞きなれない言葉だが、古代の二輪馬車を操る人(御者)のことである。ぎょしゃ座の東隣には、おうし座とともに誕生星座としてなじみ深いふたご座がある。双子の名のとおり、カストルとポルックスというふたつの明るい星が仲良く並んでいるのが目にはいるだろう。ふたご座の南側には、こいぬ座がある。主な星はふたつだけという小さな星座でこの星の並びから子犬の姿を想像するのは難しいが、明るい星プロキオンが目印になる。そのさらに南側には、おおいぬ座が位置している。こいぬ座と違ってこちらは整った形をしており、オリオン座の方に顔を向けた犬の姿をたどることができるだろう。口元にひときわ明るく輝くのは、全天で最も明るい恒星であるシリウスだ。シリウスはギリシャ語で「焼き焦がすもの」という意味を持っており、全天一明るい星にふさわしい名前だろう。
このように、冬の星座には多くの明るい星が存在する。この輝星たちを結んで大きな図形を夜空に描くことができる。オリオン座のベテルギウス、こいぬ座のプロキオン、おおいぬ座のシリウスを結んでできる三角形を、「冬の大三角形」と呼ぶ。また。オリオン座のリゲルからアルデバラン、カペラ、ポルックス、プロキオン、シリウスを結んでできる大きな六角形を、「冬のダイヤモンド」とも呼ぶ。明るい星の多い冬の星座にぴったりの華やかな呼び名である。
こうして見てきた輝星たちにも、実は様々な個性がある。上で紹介したようにオリオン座のベテルギウスは赤い色をしているが、これはベテルギウスが年老いて大きく膨らんだ温度の低い星(赤色超巨星)であることを示している。ベテルギウスの大きさは太陽のおよそ1000倍にも達しており、ベテルギウスを太陽の位置においてみると、その外側は地球軌道をはるかに超えて実に木星軌道にまで達することになる。一方オリオンの足元に輝くリゲルは青白く若い星であるが、数千万年後には星の輝きの燃料である水素を燃やしつくし、ベテルギウスのような赤色超巨星となると考えられている。
また、ふたご座のポルックスの周囲を回る惑星が2006年に発見されている。この惑星は木星の3倍ほどの大きさで、ポルックス本体とこの惑星との距離は、地球と太陽の距離の1.7倍程度である。10月号の本コラムでも取り上げたように、太陽以外の恒星のまわりを回る惑星を「系外惑星」といい、現在では400個を超える系外惑星が発見されている。その多くは肉眼では見えない星のまわりを回っているもので、ポルックスのように容易に見ることができる星のまわりに惑星が見つかっているというのは極めて珍しい。ポルックスを回る惑星に生命がいるかどうかでは定かではないが、私たちが目にする冬の星座の星たちにはまだ未発見の惑星がある可能性は十分にあり、そこには豊かな世界が広がっているだろう。私たちは広く多様な宇宙の中にある地球で生きている、ということを再確認させてくれるのが冬の星空である。
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平松正顕(ひらまつ・まさあき) 台湾 中央研究院天文及天文物理研究所 ポスドク研究員
天プラは、天文学の普及を目指して活動する、若手研究者らによる有志グループです。 なにかと遠い感じのする天文学の世界を身近に感じてもらおうと、「星の輪廻(りんね)」をテーマにしたトイレットペーパーを製作するなど、あの手この手で天文学普及に取り組みます。
モットーは“知るを楽しむ”。大目標は「みんなで作ろう、月面天文台」。