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南の星座を訪ねる

文:亀谷和久(天プラ/宇宙航空研究開発機構研究員)

2010年2月4日11時10分

写真:南米チリのアタカマ高地から望む南天の夜空画面左の一番明るい星はカノープス。中央の山の上に大小マゼラン銀河の光芒が見える(撮影:亀谷和久)。拡大南米チリのアタカマ高地から望む南天の夜空画面左の一番明るい星はカノープス。中央の山の上に大小マゼラン銀河の光芒が見える(撮影:亀谷和久)。

図:カノープスの見つけ方おおいぬ座のシリウスが南中する頃に、おおいぬ座の前足と後足の星をつなぎ、さらに地平線の方(南)へ伸ばすと、地平線近くに見つかる。拡大カノープスの見つけ方おおいぬ座のシリウスが南中する頃に、おおいぬ座の前足と後足の星をつなぎ、さらに地平線の方(南)へ伸ばすと、地平線近くに見つかる。

 立春が間近にもかかわらず寒い日が続く2月、夜空もまだまだ冬の星座が主役だ。日が暮れると、先月、先々月の回で紹介された冬の大三角や冬のダイヤモンドといったよく目立つ星々が、その美しい輝きを競うように姿を現す。そして、この季節には、実は南の方角にもうひとつ明るい星が隠れていることをご存知だろうか。

 その星の名は、りゅうこつ座のカノープス。日本からは南の地平線近く、非常に低い空にしか見ることができないためあまり知られていないが、実はマイナス0.7等星という1等星よりも明るく輝く白い恒星で、おおいぬ座のシリウス(マイナス1.5等星)に次いで全天で2番目の明るさを誇る白い恒星だ。中国では「南極老人星」と呼び、この星を見られれば長生きできるという縁起の良い言い伝えがあるそうだ。今月はカノープスが南中する時刻は21時前後。南の方角が地平線近くまで見通せる、開けた場所で挑戦してみてほしい。

 見つけ方は、大雑把にはおおいぬ座のシリウスが南中した頃に、その真下(南)よりも少し右(西)の地平線近くあたり。より正確には、おおいぬ座の前足と後足の星を結んで南へ伸ばすと良い(図)。その高度は、例えば東京では南中したときでもわずか約2度。地平線の上に顔を出している時間も短いので、南中の時間を狙うと良いだろう。新潟県や東北地方の南部よりも北の地域では地平線の上に昇らないため残念ながら見られない。より南の地域では見やすくなるが、沖縄県那覇市でも南中高度が11度程度だ。これほど低い空では、夕日が昼間の太陽よりも赤く暗く見えるのと同じ原理により、カノープスも黄色から赤みを帯びた色で、明るさもマイナス0.7等星とは思えないほど暗くなる。特に南側に都市がある地域では街灯りのためより見つけ難くなるため、双眼鏡などを使うと良いかもしれない。

 日本を離れ、もっと南へ行けば、カノープスの高度はどんどん高くなる。南半球まで足を伸ばせば、空高く昇ったカノープスの本来の輝きを見ることができるだろう。そして南半球では、他にも日本からは見ることができない南天の星座が夜空に広がる。中でも最も有名なのは、「みなみじゅうじ座」ではないだろうか。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」にも南十字星として登場するこの星座は、4つの星がこじんまりとした十字形に並ぶ、全ての星座の中で最も小さな星座だ。しかも4つの星のうちの2つが1等星という贅沢な星座なので見つけやすい。

 カノープスがあるりゅうこつ座は、もともとはアルゴ船座という船をかたどった大きな星座の一部だったが、あまりにも巨大なため、18世紀にフランスの天文学者ラカイユにより、ほ座、とも座、らしんばん座とともに4つに分割された。ラカイユはこの他にも、南アフリカでの観測により、はちぶんぎ座、ぼうえんきょう座、コンパス座など、現在でも使われている南天の星座を数多く作成した。南天には航海や天体観測に関わる道具が星座になっている例が多いのはそのためだ。ふうちょう座、カメレオン座、きょしちょう座など、南半球で見られる珍しい動物を星座にしたものもある。このように、北天の星座が神話をもとにしたものが多いのとは対照的な南天の星座たちだが、これは南半球でしか見られない星は大航海時代以降になって初めて星座として組み込まれたことによるところが大きい。

 また、南天の星空には、天文学の世界でも北天には無い特徴的な天体がいくつかある。例えば、ケンタウルス座のα(アルファ)星は太陽から最も近い恒星だ。その距離は4.3光年であり、隣の恒星といっても光の速さで4.3年かかる計算になる。太陽の大きさを7センチのボールに縮小すると、この距離は約2000キロ。恒星同士はいかにまばらに分布しているかが分かるだろう。そのような星座を彩る恒星たちが約1千億個集まり、私達の住む天の川銀河を形作っている。地球から見たその中心方向も南天にある。日本では25度程度の高度までしか昇らないが、南半球では天頂付近まで昇り、太く濃い雄大な天の川を見せてくれる。そして、天の川銀河の外には銀河の世界が広がっている。中でも、大マゼラン銀河、小マゼラン銀河は、南半球では肉眼でも雲のような広がりをもった淡い天体として見ることができる。その正体は天の川銀河に近く、その周りを回っている小型の銀河だ。

 ここに紹介した天体は全て肉眼で楽しむことができる。南半球に旅行をする機会があれば、ぜひ星空にも目を向けて、異国情緒を味わうスパイスとして楽しんでみてはいかがだろうか。

プロフィール

天文学普及プロジェクト「天プラ」

天プラは、天文学の普及を目指して活動する、若手研究者らによる有志グループです。 なにかと遠い感じのする天文学の世界を身近に感じてもらおうと、「星の輪廻(りんね)」をテーマにしたトイレットペーパーを製作するなど、あの手この手で天文学普及に取り組みます。

モットーは“知るを楽しむ”。大目標は「みんなで作ろう、月面天文台」。

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