文:高梨直紘(天プラ/東京大学特任助教)
2010年3月4日12時54分
(ふたご、かに、しし、おとめ付近の星座領域)ふたご座からおとめ座にあたる天域。今年は火星がかに座の位置にある。
(太陽系の俯瞰図)太陽系の惑星の軌道面はだいたい同じ平面内にあるので、地球から見ると惑星はだいたい同じ直線上にあるように見える。
全国的にもよく雪の降った2月が終わり、3月に入ると春の訪れを感じる日も多くなってきた。しばらく星空が見えなかったうちに、すっかり夜空も様変わりしていることにお気づきだろうか。冬の星座たちがだんだんと西の空に向かい、その後を埋めるように東の空からは春の星座たちが昇り始めている。その中にひときわ目立つ明るい星が2つ。火星と土星だ。
夜9時くらいに頭の上にあって、赤い光を放っている星が火星だ。明るさは0等級。少し西側にはふたご座のカストル(2等級)とポルックス(1等級)が、東側にはしし座の心臓の位置にあたるレグルス(1等級)があり、冬から春の天域へと連なる明るい星の並びに彩りをそえている。星座としてはかに座の領域にあるので、夜空が暗い場所であるならば、火星を目安にかに座を形作る星々を見つけることもできるだろう。
ふたご座、火星、しし座…と視線を東の空の方へ移していくと、地平線から少し上がったところにじっと光を放つ星、土星を見つけることができるだろう。星がたくさん見えすぎて見当が付かないという贅沢な悩みがある場合は、これだと思う星をじっと見つめると良い。じっと見ていても瞬かない星が惑星である事を覚えておけば、簡単に見分けが付く。
さて、火星と土星の位置を覚えたならば、次はぜひ月を探して欲しい。日によっては月は見えないが、幸運にも月が出ている晩であったならば、月と火星と土星がどのような位置関係にあるかをよくよく見て欲しい。広い夜空の中で、3つの天体がだいたい同じ直線上に並んでいることに気が付けるのではないだろうか。なぜ、そのようなことが起こるのであろうか。その答えは、私たちが太陽系の軌道面を横から眺めていることにある。
太陽系では、惑星たちは太陽を中心として同じ平面内を運動している。同じように、月が地球の周りを運動する時の平面も、惑星の軌道平面とだいたい一致している(正確には、約5度ずれている)。したがって、地球から眺めた時に、惑星の軌道面と月の軌道面の断面は、だいたい同じ直線として見えるのである。惑星の通り道は天球上における太陽の通り道である黄道として、月の通り道は白道として知られている。
この事に気が付けば、他の惑星を探すのも難しくない。金星や木星、水星といった肉眼で見つけることのできる惑星たちも、みなこの直線の上に探すことができる。もちろん、太陽だってこの直線の上にいる。月の照らされている面の先には太陽がいるのだ。「菜の花や、月は東に、日は西に」という句を詠んだ与謝蕪村の眼には、太陽と月を結ぶ直線の上に、一番星として輝く惑星を見ていたのではないかと想像が膨らむ。
黄道沿いにある星座たちが、あの有名な黄道12星座であることを覚えておけば、夜空に星座を探すときの目安にもなるだろう。最初に紹介した、ふたご座、かに座、しし座、おとめ座は、まさに黄道沿いに並ぶ12星座たちだ。
星空を眺める楽しみのひとつは、こういった気づきだ。ちょっとした事に気が付き、少し考えることで、一気に星空の見方が変わる瞬間がある。この感動こそが天文学の魅力であり、その積み重ねの上に137億光年先までを見通す現代の天文学があると私たちは考えている。1年間の連載を通じてさまざまな星空の見方を紹介してきたが、その中から1つでも2つでも読者の記憶に残る話があることを願って、連載の結びとしたい。
天プラは、天文学の普及を目指して活動する、若手研究者らによる有志グループです。 なにかと遠い感じのする天文学の世界を身近に感じてもらおうと、「星の輪廻(りんね)」をテーマにしたトイレットペーパーを製作するなど、あの手この手で天文学普及に取り組みます。
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