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「純情きらり」 愛知県岡崎市

2009年8月19日11時10分

写真:「カクキュー」の味噌おけ。平日でも多くの観光客が訪れる=愛知県岡崎市拡大「カクキュー」の味噌おけ。平日でも多くの観光客が訪れる=愛知県岡崎市

地図:  拡大  

■「ふた夏ふた冬」の蔵に味

 つん、と鼻の奥がしびれた。寝かせた味噌(みそ)の発酵が、おけの縁からにじみ出るかのようだった。愛知県岡崎市八帖町。ここで造る「八丁味噌」の強い香りに囲まれ、物語は紡がれた。

 NHKの連続テレビ小説「純情きらり」。06年4月から放送された。昭和初期、ヒロインの有森桜子(宮崎あおい)はピアノと共に人生を歩む。同じようにピアノに向かう松井達彦(福士誠治)と、いつしか恋に落ち、2人は結ばれる。

    ◇

 達彦の実家は、八丁味噌の蔵元「山長」だった。家業を継いだ達彦に赤紙が届き、桜子は婚約者として山長を支えた。

 八帖町で味噌蔵を残すのは2店舗だけだ。宮崎さんの手形がある八丁蔵通り近くの「まるや八丁味噌」と「カクキュー」で、ともにロケ地になった。

 放送初回、おてんばな少女・桜子が味噌のおけに落ちる場面を撮影した「カクキュー」(1645年創業)を訪ねる。「子役の子が味噌まみれになって、社長の自宅でお風呂に入れたんです」。カクキュー受注管理部長の太田高司さんは、懐かしそうに振り返った。

 蔵では平日にもかかわらず、おけの間を観光客が行き来していた。はっぴ姿の女性が語る。

 ――スギ製の味噌のおけの高さは、約180センチ。一つで約6トンの味噌が造られます。おけの上には、約3トンの石が積んであります。城の石垣と同じ方法が用いられ、大きな地震が起きても崩れませんでした。石は矢作川上流から採取したもので、江戸時代からの石もあります。

 蔵には毎年20万人ほどの観光客が訪れるといい、従業員が蔵を案内しているのだ。名古屋市から家族で来た会社員の近藤有里さん(24)に声をかけると、「実際に見ると、すごい」とにおいや大きさに驚いた。「撮影直後は30万人ぐらいに増え、大変でした」と太田さんが笑う。

    ◇

 ドラマで登場する味噌の仕込みをする場面。実は、カクキューの社員が出演した。もちろん、昭和初期の製造方法は経験がない。土曜日に出勤して練習。むしろなども調達した。

 街が総出で協力したんです。岡崎市の斎藤理彦・拠点整備担当部長はそう話す。時代に合わせるため早朝から道路に砂をまいたり、掃除をしたり。市民のボランティアが協力したという。

 その人脈が、いまも残る。73人の「きらり隊」が、ボランティアでイベントなどに協力しているのだ。八丁味噌は「ふた夏ふた冬」、長期間の発酵で深い赤に色づくという。物語が培った人脈も深みを増していた。

 蔵を出ても、味噌の香りは辺りに漂っていた。物語の印象に、味噌が醸し出す懐かしい香りがめぐった。(高津祐典)

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