TV 訪ねてみれば
2009年10月21日11時39分
■廃工場に刻んだ壮絶な死
「竹芝の廃工場です。ここから歩いて行きます」
警察無線で先輩にそう報告して向かった現場で、松田優作が演じるジーパン刑事は壮絶な死を迎えた。
35年前、日本テレビ系のドラマ「太陽にほえろ!」で放送された殉職シーン。もっとも、撮影のために松田が実際に向かったのは、東京都港区の竹芝ではなく、練馬区の中村橋だった。
西武池袋線の中村橋駅から西へ150メートルほど歩くと、労働者福祉施設「サンライフ練馬」や練馬区立美術館、練馬第三小学校などが並ぶ一帯がある。かつてこの地にあった広大な廃工場が、ロケに使われた。
セロハンテープの製造で知られるニチバンの東京工場跡地。移転のため72年に操業を停止したのち、数年間は、建物が取り壊されずに残っていた。
近くで理容店を営む田村栄二さんは当時小学生。「壊れた塀のすき間から忍び込んで、友達と探検ごっこをした」と話す。
ドラマの中でジーパンは、やくざに捕まった男を助け出すため、廃工場に単身乗り込む。窓ガラスの大半が割れ落ち、あちこちにドラム缶が転がる――。そんな一角で激しい銃撃戦が行われ、ついに一味を倒す。
倒れたやくざから拳銃を奪って物陰に隠れていた男に「もう大丈夫だ。拳銃渡せ」と手を伸ばすジーパン。だが、錯乱した男に逆に腹を撃たれる。男は逃げだし、一人残されたジーパンは手についた血を見て、撃たれたのを今やっと気づいたかのように「なんじゃあ、こりゃあ」と叫ぶ。
ジーパンは同僚だった女性と結婚する直前だった。「おれは死にたくないよ」と繰り返しながら、ひざを折っていく。廃工場のすぐ脇を走る西武線の電車の音がかすかに入る。
当時プロデューサーだった岡田晋吉さんは「幸せの絶頂で殉職させたのは人の命の尊さをより強調するため。撃たれてから死ぬまでの演技は、優作がすべて自分で考えた」と話す。
「殉職シーンを撮影する日のスタッフは、異常な興奮状態に陥る。その状態を翌日まで保ち続けるのは難しい。撮影は1日で終えたかった」と岡田さん。「ロケが終わったのは日が暮れるころ。ぎりぎり間に合ったのをよく覚えている」
「太陽にほえろ!」で20代半ばにして一躍、全国区のスターとなった松田はその後、15年の俳優人生を駆け抜け、89年に亡くなった。ロケ地にかつての面影は残っていなかったが、松田自身は没後20年を迎える今も神格化されるほどの存在感を保っている。(松田史朗)