2010年11月19日
◆息子の大学はローカル線の沿線
傷だらけで型も古い携帯電話。岸章子さん(47)=東京都練馬区=は、「でも、まだ換えられないんです」と笑う。待ち受け画面に、長男の雄太さん(22)の大学入学式の写真を保存しているから。ちなみに、息子の登録名は「八戸雄太」だ。
雄太さんは八戸大(青森)の4年生。小さい頃から野球が大好きで、高校は強豪の浦和学院(埼玉)に進み、寮生活を送った。在学中に甲子園出場はかなったが、自身はベンチ入りできなかった。「違う場所でがんばってみたい」と、八戸大を選んだ。
2人で初めて大学へ行ったのは高3の夏。東北新幹線の終着、八戸駅で列車を乗り換えて驚いた。大学最寄りの鮫駅行きの気動車は、2両か3両編成で運行は1時間に1〜2本。寂しさもあったが、雄太さんは「一からスタート」と気合いを入れた。
章子さんのほうが不安は大きかった。母子家庭で、中学までは何をするのも一緒。硬球でもキャッチボールにつきあった。高校で雄太さんが寮に入り、離れることには慣れたが、東北は「未知のところ」だった。
だが、1日の乗車人員が約500人の鮫駅に着くと、近くの駐在所のお巡りさんがあいさつしてくれた。食堂に入って雄太さんのことを話すと「がんばって」と言ってくれる。みんなが忙しい東京では感じられない人のぬくもり。「温かく迎え入れてくれる」と感じた。
あれから4年。雄太さんは3年でけがをして学生コーチに転じたが、裏方としてチームを支えた。最後の年は、明治神宮大会で終えることができた。希望していたスポーツ用品店の就職も決まった。
もうすぐ、章子さんと、ともに育ててくれた祖父母との4人暮らしが始まる。雄太さんは「これまで迷惑かけた分、これから恩返しをしたい」と話す。
章子さんにとっても、息子を成長させてくれた八戸は「第二の故郷」になった。いつの日か、家族4人で旅してみたい。そう夢見ている。
(山本奈朱香)