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2012年1月9日
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楽園をさがして

神と歴史の息づかいを感じて 隠岐諸島編〈1〉

文と写真:江藤 詩文

写真:島後にある玉若酢命神社(たまわかすみことじんじゃ)。隠岐国の総社で、本殿は、春日造と大社造をあわせた「隠岐造」といわれる独特の様式。かやぶきのどっしりした随神門も趣があってすてき拡大島後にある玉若酢命神社(たまわかすみことじんじゃ)。隠岐国の総社で、本殿は、春日造と大社造をあわせた「隠岐造」といわれる独特の様式。かやぶきのどっしりした随神門も趣があってすてき

写真:神社にある、樹齢2〜3000年といわれる「八百杉」。耳を当てて心を静めると、寝ている間に閉じこめられてしまった大蛇のいびきが聞こえるといわれています拡大神社にある、樹齢2〜3000年といわれる「八百杉」。耳を当てて心を静めると、寝ている間に閉じこめられてしまった大蛇のいびきが聞こえるといわれています

写真:壇鏡(だんぎょう)神社の、裏見の滝でもある雄滝。この日は水量が少なかったので迫力があるというよりは優しい雰囲気でした拡大壇鏡(だんぎょう)神社の、裏見の滝でもある雄滝。この日は水量が少なかったので迫力があるというよりは優しい雰囲気でした

写真:島後の屋那(やな)闘牛場で行われる牛突きのために飼われている牛。清潔な牛舎で可愛がられて育つためか、やたら人なつこい拡大島後の屋那(やな)闘牛場で行われる牛突きのために飼われている牛。清潔な牛舎で可愛がられて育つためか、やたら人なつこい

写真:海士の隠岐神社。ここ数年は縁結びや開運の神様として、神社巡りをする女性に人気拡大海士の隠岐神社。ここ数年は縁結びや開運の神様として、神社巡りをする女性に人気

写真:島前3島を結ぶ内航船いそかぜ2。乗船料金は300円拡大島前3島を結ぶ内航船いそかぜ2。乗船料金は300円

写真:飛行機も毎日飛んでいますが、時間があるならフェリーでの船旅がおすすめ。のんびり水平線を眺めていると、だんだん日が沈み、かけがえのない美しい一瞬を目にすることができます拡大飛行機も毎日飛んでいますが、時間があるならフェリーでの船旅がおすすめ。のんびり水平線を眺めていると、だんだん日が沈み、かけがえのない美しい一瞬を目にすることができます

 みなさま、新年あけましておめでとうございます。今年も、心の片隅に置いておくだけで、気持ちがふっとゆるむ“楽園”を探す楽園ハンターとして、世界や日本のどこかへ脳内トラベルに出たくなるコラムをお届けしたいと思います。引き続き、どうぞご愛読ください。

 東日本大震災に見舞われた昨年は、日本の国土の美しさをあらためて認識した年でした。もっと日本を知り、感じたい。そんな私を隠岐への旅に突き動かしたのは、日本の旅行ジャーナリズムを開拓した兼高かおるさんです。世界150カ国以上を旅した彼女が、もう一度訪れたい場所として、真っ先に名前を挙げる土地。神の気配を感じる島。それはどんなところなのでしょう。

 隠岐の島(隠岐諸島)は、島根半島の日本海沖約60〜80kmに浮かぶ大小180あまりの島からなり、うち四つが有人島です。有人島は一番大きい「島後(どうご)」と、それ以外の三つを合わせた「島前(どうぜん)」に分かれ、それぞれ島名と自治体の名前があり、加えて港の名前もあって、ちょっとややこしい。

整理しますと。

島後は行政区分上は隠岐の島町で、港は西郷。地元の人は島を「島後」と呼ぶ。

島前の「西ノ島」は西ノ島町で、港は「別府」。地元の人は「別府」と呼ぶ。

島前の「中ノ島」は海士(あま)町で、港は「菱浦」。地元の人は「海士」と呼ぶ。

島前の「知夫里島(ちぶりじま)」は知夫村で、港は「来居(くりい)」。地元の人は「知夫」と呼ぶ。

 ただし、航路については港名のみで表記するのが基本。慣れればどうってことないのですが、旅行者は、これを覚えてから行くことを強くおすすめします。

気がつけば神社巡り、不思議な感覚

 さて「歴史と自然の島」と称される隠岐は、旧石器時代から人が暮らしていたといわれています。大陸との玄関口として交流を行い、早くから文化が発達してきました。

 また、流刑地として、後鳥羽上皇や後醍醐天皇、歌人の小野篁(おののたかむら)といった名だたる身分の高い人を迎え入れてきたため、京都の文化が入り交じり、独自の変貌(へんぼう)を遂げました。

 などと書いてみましたが、本土から来たよそ者には「承久の乱」の後鳥羽上皇や南北朝の後醍醐天皇と言われても、中学校の教科書で目にしただけ、という人がほとんどでは…。ところが隠岐では、今も身近に数多くの言い伝えや史跡が残っています。

 そのためか、隠岐の人はどことなく物言いが雅(みやび)。約780年の伝統を持つという「牛突き」の牛を見に行き、由来を尋ねてみると「島流しにあったかわいそうな後鳥羽上皇さんを慰めてあげたくて」と、まるで最近始まったかのよう。

 京都の人が応仁の乱を「こないだの戦争」と言うあのニュアンス。指摘してみると「京都の応仁の乱の方が、ずっと最近ですよ」と、軽くいなされてしまいました。

 隠岐は、数多くの神社が現存することでも知られています。

 なぜこれほどたくさん神社があるのか。大陸からもたらされたという説をはじめ、伝説や神話がないまぜになり、歴史が古すぎて、理由はあまり明確になっていません。ただ、そこに神様がいるから守り、受け継いできました。

 隠岐の人にとって、歴史上の人物と同じくらい、神様は親しみを感じる存在です。

 そして、普段は信仰心などまったくないのに、隠岐にいるとお参りしたくなったから、自分で自分にびっくり。なぜだか神社の前を素通りすることができず、まるで何かに導かれるように、神社巡りを始めていました。

 そのひとつ、島後では今も「ここ一番」というときに地元の人が必ず参拝する壇鏡(だんぎょう)神社を訪れたときのことです。

 この神社は、落差40mの雄滝と雌滝の2本の滝からなる「壇鏡の滝」が境内に落ちることでも有名で、この水は「長寿の水」とか「勝者の水」として信仰されており、牛突きや隠岐に伝わる「古典相撲」に出場する者は、戦いの前夜に必ずこの水で心身を清める慣習が、今もなお続いています。隠岐の人にとって、とても大切な水です。

 しん、と静まり返り、昼間でもなおひっそりと薄暗く、ちょっと肌寒い杉木立の中を5分ほど進んで雄滝の裏に回り込み、滝を見上げます。水しぶきに光が映り、なんだか幻想的。朝廷を批判して島に配流となった小野篁は、帰京を願ってこの滝に打たれる滝行を繰り返していたとか。

 どんなに京の都が恋しかったことだろう…。

 思いは平安時代、耳に入るのは水の音だけ、目に入るのは水しぶきだけ。いつか頭も心も真っ白に。ほんの5分ほどでしたが、それは不思議なトリップ感覚でした。

 海士では、後鳥羽上皇を祀(まつ)った隠岐神社に参拝しました。後鳥羽上皇は流人、ということはこの島に流された罪人ですね。そう問うと「いいえ、後鳥羽上皇は文化を愛した徳の高い方でした」。きっぱりと言うのは、案内してくれた20代の女性です。源平の争いが終わり、政治の舞台が京都から鎌倉に移り、戦乱の世が訪れることを憂えた後鳥羽上皇は、政治より文化に重きをおく国造りを目指したとか。

 神様や歴史上の人物を、確かに感じられるなんてすごい。こんな場所がまだ日本に残されていたなんて、すごい。

 いつもなら、神社にお参りしても、書くのがはばかられるくらい俗っぽいお願いごとをしまくるのですが、隠岐にいる間に願ったのはただひとつ。

 どうか日本の美しい風景が、これ以上失われませんように。

 なんだかすっかり心まで清められたような。

 そんな隠岐ですが、浄化されたはずの私をただちに煩悩の世界に引き戻す、酒飲みにうれしい島でもあったのです。

隠岐へのアクセス

日本エアコミューター(JAC)が島後の隠岐空港と大阪・伊丹(約1時間)、島根・出雲空港(約30分)をそれぞれ1日1便ずつ結んでいる。海路なら米子空港からタクシーで約20分の松江市美保関町の七類港か、鳥取・境港から高速船で約1時間、フェリーで約2時間半。海況によって所要時間は異なる。

(データは2011年9月取材時のもの)

(取材協力:隠岐観光協会

プロフィール

江藤 詩文(えとう しふみ)
旅とお酒と食文化を愛するフリーライター。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。慌ただしい日常の中、心のどこかでふと思いをはせるだけで気持ちが和む「楽園」を探す「楽園ハンター」として、世界のどこかから幸せな気分になれるあれこれをお届けします。

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昨年1月に東京ドームで開催された「ふるさと祭り東京」の「全国ご当地どんぶり選手権」で10,000杯近く提供された隠岐諸島・海士(あま)町の「寒シマメ漬け丼」。「寒シマメ」は秋から冬に獲れた、いちばんおいしいスルメイカのこと。文中で紹介された「CASシステム」で急速冷凍!一年を通して美味しく味わえるようになった。甘く肉厚な寒シマメの刺身を、丁寧に取り出した新鮮な肝と醤油で漬け込んでおり、あたたかいごはんに刻み海苔やねぎ、ごまに卵の黄身と一緒にのせれば漬け丼のできあがり!

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文中に登場する隠岐酒造の「斗瓶囲い」。山田錦を35%まで磨き、袋しぼりの大吟醸を一斗瓶で貯蔵したものだ。フルーティーな香りだが、ほどよいクセと清涼感が絶妙。隠岐の美味しいものをつまみに合わせて味わってみてはいかが?

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