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ぽれぽれサファリ

混浴風呂にかける思い

2007年01月03日

 このお正月、皆さんはどのように過ごされているだろうか。私は伊豆で温泉に浸かってきた。伊豆といえばシャボテン公園。そしてこの時期のシャボテン公園といえば、温泉に浸かるカピバラである。

 じっと湯に浸かり、目を閉じるその姿からは、「ゴクラク、ゴクラク」という声が聞こえてくるようだ。わかる、わかるよ、その気持ち。浸かるときは「うぃ〜」って言いたくなるし、浸かっているときは“ほげーっ”となるし。そういうのって、きっと、カピバラも人間も一緒にちがいない。

“混浴”にかける思い

 帰宅後、アサヒコムのA氏と話をした。A氏も男友達数人と、岩手のO温泉に行ってきたという。あれれ? たしか、仙台に行くって言ってなかったっけ。

「実は急遽レンタカーを借り、車を飛ばして行ってきたのです」

 なんでまたわざわざ。

「そのう、そこの露天風呂が混浴でして」

 ほほう。

「言いだしっぺは自分ではありませんよ」

 すかさず付け足すA氏であった。以下は、A氏から聞いた話である。

 遠路はるばるO温泉に到着したご一行は、そそくさと目当ての場所――混浴露天風呂に向かった。すると早速というか何というか、浴衣姿の美形母娘が、向こうから歩いてくるではないか。“いいお湯でした”というその風情に、「いやおうなく期待は高まりました」(A氏)。

 一行はウキウキと風呂に浸かった。そして待った。のぼせることもいとわずに。

 しかし人はなかなか来なかった。たまに来ても、もれなくオジサマだった。

 けっきょく一行は、失意のまま帰宅の途についた。帰り道はさぞ長かったことだろう。

 実は岩手に向かう道中、A氏が腹痛を起こし、10分ほどのロスがあったそうだ。それさえなければ、あるいは……。まさに千載一遇のチャンスを逃したわけである。

入る入らないで大激論

 話を聞いて思わず笑ってしまったのだけど、“混浴にまつわる騒動”は、そういえば私も経験したことがある。

 10年ぐらい前、大学時代の同期たちと旅行をしたときのことだ。泊まった宿に混浴露天風呂があり(というより、だからこそ選ばれた宿だったのか)、入る入らないで言い合いになった。

「俺らは入る。お前らも入るべきだ」(男子一同)

「入らない。勝手に入ってくればよい」(女子一同)

 最後には泣き出す女子まで出るという、大惨事になった。

 くだらない。くだらないけど、無視できない。そこに、超えることのできない男女の壁が横たわっているような気がする。

 混浴は男のロマン、と誰かが言った。

 一方、女性にとっての混浴は、風呂の形式の一つに過ぎず、厄介な問題をはらんでいるだけにむしろロマンとは縁遠い。私も何度か、秘境といわれる地で入ったことがあるけれど、「混浴しか無かったから」という場合がほとんど。それも「絶景が見られるから」とか「泉質がいいから」とか、“風呂ありき”である。

 つまり“混浴”が目的のトップにくること――たとえば、混浴というキーワードで温泉を検索することはない。まあそういう女性も中にはいるかもしれないけど、少数派だと思うなあ。

 混浴露天風呂とは、男性のロマンと女性の現実(風呂好き)がクロスする場所、両者合意のもとに成立している貴重な場所といえる……?

今週の春口さん

あけましておめでとうございます。
ちなみに、A氏の行ったO温泉は、宮沢賢治が幼少時代によく訪れていたそう。ホームページを見てみたのですが、大自然の中の露天風呂も、清流をのぞむ茅葺きの宿も、とても良さそうです。今度行ってみようかな。でもいざ行ったら、A氏の話を思い出して笑っちゃうことでしょう。
それでは、2007年の第1回目はこの辺りで。今年もよろしくお願いします。

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プロフィール

春口裕子
1970年横浜生まれ。慶応義塾大学卒業後、損害保険会社に入社。広報の仕事でエッセイを書きながら、「やはり物書きの道へ」と心を決める。旅行と甘いものが好き。01年よりOLを辞め、執筆業に専念。同年、ホラーサスペンス大賞で『 火群の館 』(新潮社刊)が特別賞受賞。著作に『 女優 』(幻冬舎)。
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