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ぽれぽれサファリ

武士の町、奈良県今井町

2007年07月25日

うちの父は変わっている。変わっている人は世の中にいっぱいいるし、これまで幾人にもお目にかかってきたが、それにしても変わっていて、最寄りの変人といえる。

深夜の珍事

 たとえばこんなふうである。

 父は昔から寝るのがえらく早い。ひどいときは7時台に布団に入っていたりする。一方の母はごくごく普通なので、両者の就寝時間はだいたいにおいてずれている。

 ある夜のこと。その日も母は、早くに眠りについた父を起こさぬよう、そうっとそうっと足音を消して畳の上を進んだ。そして、もう少しで自分の布団に到達するという、そのとき――。

「だれだぁっ!」

 尋常でない大声とともに、母は足首をガッツリつかまれた。同時にピカーッとともる部屋の電気。

 母の足首をつかんでいたのは当然ながら父だったが、彼は片足立て膝の状態 & 険しい顔で、こうつぶやいたという。

「なんだお前か。賊かと思った」

 賊って。

 なんでも父は、ただならぬ(賊の)気配を感じ、布団からすばやく起き上がり、しゅたっと一回転したのち“賊の身柄を確保”したらしい。

「あまりのキョーフに息が止まり、声がひーとも出ませんでした」(母・後日談)

 このほかにも父には、“どしゃぶりの日でも傘はめったに差さない”などの習性があるのだが、それらの理由はすべて「武士だから」。

「武士は寝ている間も気を抜かぬのだ。はっはっは」

「武士は雨と雨の間を歩くのだ。はっはっは」←そのわりに毎回ズブ濡れ。

父おすすめの今井町

 そんな父が、私たちの奈良行きにあたり「ぜひここへ行くがよい!」という、おすすめスポットを教えてくれた。

 奈良県橿原市、今井町。

 数百年ものあいだ大火を出していないため、東西600m、南北310mに及ぶ町の建物の多くが江戸期のものとのこと。築100年、200年の建物が町中に残っていて、江戸時代の雰囲気を味わえるのだそうな。

 行ってみると、ちょうどお祭りの真っ最中で、すごい賑わいであった。

 私たちは“名物”と旗の立った出店で、味噌こんにゃくやお団子を買い、それを食べながら碁盤目状になっている町をそぞろ歩いた。なるほど細い路地の両側に、白壁と格子戸の家々が立ち並んでいて、歩いているとタイムスリップしたかのような気分になる。

 火事が起きた場合、隣家に火が移らないよう、各家の壁の厚さは25センチもあるらしい。早くから消防組織も発達していたそうで、だからこそ歴史ある建物が今に残っているのだなあ。

 酒好きのN氏はふらふらと造酒屋に入り、できたての地酒をそれはそれは美味しそうに飲んでいた。そしてプフーと息をついたあと、納得したように言った。

「こりゃあ、武士にはたまらん町だね」

縁日のなごやかさ

 今井町のお祭りは、祭りというより縁日という感じで、出店に並んでいるものも、塗り絵セットとかスリッパとか、なんだかとってもホッとするラインナップだった。道行く人もほとんどが、地元の方だったんじゃないかしらん。

 町の北西に位置する八幡神社では、ちょうど子供たちが太鼓を叩いていた。ハッピを着た子供たちが元気に太鼓を叩き、大人たちがニコニコとそれを見まもっている。なるほど父は、この町を好きだろうと思った。

今週の春口さん

 つい先日、今井町が「出没! アド街ック天国」で紹介されたらしいですね。「懐かしい風景が残る街ベスト30」の1位だったとか。残念ながら見逃してしまいました。

*小説すばる8月号に、ホラーショートショート「湯の効能」掲載中です。

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プロフィール

春口裕子
1970年横浜生まれ。慶応義塾大学卒業後、損害保険会社に入社。広報の仕事でエッセイを書きながら、「やはり物書きの道へ」と心を決める。旅行と甘いものが好き。01年よりOLを辞め、執筆業に専念。同年、ホラーサスペンス大賞で『 火群の館 』(新潮社刊)が特別賞受賞。著作に『 女優 』(幻冬舎)。

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