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ぽれぽれサファリ

今日は文房具屋に〜アモーンとお買い物(前編)

2007年10月24日

本題に入る前に…

 9月。安倍晋三さんが「首相辞めます」と言ったその日、私は霞が関ビルの喫茶『kasumi』で小説の打ち合わせをしていた。お相手は、毎度のガミー氏である。

 テーブルの上には、打ち合わせ中のゲラが広げられていて、ほかほかと湯気の立つコーヒーを飲みながらガミー氏は言った。

 「あのう、春口さん。赤字という言葉はご存知で?」

 「ええ、ええ、もちろん」

 赤字といっても、「今月もまた赤字だ」の赤字ではなく、原稿を加筆修正するときにゲラに書きこむ文字や記号のことで、「赤を入れる」などという。

 ガミー氏は手元のゲラを見ながら、不思議そうに言った。

 「春口さんの赤入れって、どうしていつも鉛筆なんでしょう」

 聞けば、彼が担当している作家の中には他に見当たらないという。

 いやいや、どうしてと言われても、れっきとした理由があるわけで。

 「だって、赤ペンで書きこんだら、それ以上の直しができないではありませんか」

 そう。私は締め切りぎりぎりまで、しつこく何度も直す習性があるのだ。毎回、「カチッと固まったら赤ペンで書き直そう」とは思うんだけど、けっきょくそんな時間はなくて、黒いまま原稿を戻すハメになる。で、その真っ黒けっけの原稿を見て、ガミー氏は「これはこれはまた……」と深いため息をつく。

そんな私に耳寄りな情報

 喫茶 kasumi の前に伊東屋があるのだが(全国で1番小さい支店らしい)、打ち合わせ後にふらふらと立ち寄ってみた。色とりどりの鉛筆やペン。ノートに手帳にメモに便箋。そこかしこに紙の匂いが漂っている。いやー文房具屋って楽しいなあ。

熱心にペンコーナーを眺めていたガミー氏が、突然「そうだ!」と叫んだ。

 「これを春口さんにプレゼントしますよ」

 それはパイロット社から出ているフリクションボールというボールペンだった。

 「これはですね、なんと、書いても消せるというスグレものなのです」

色は全部で8色。ガミー氏は、赤色のそれを手に取って、紙の上に文字を書き、ペンの後ろに付いているゴムでごしごしこすった。すると……。

 ほほう。ほほほう!

 みるみる消えてゆくではないか。しかも消しカスが出ない。これならば私も、ためらうことなく赤を入れられるというものだ。

 このペンのインクは、65度になると無色になり、マイナス10度くらいで再び発色する性質があるそうな。つまりゴムの摩擦によって温度が上昇し、それで消えるというわけだな。

 ガミー氏はこのほかに、「金属やガラスにも書けるボールペン」もくれた。ただ、こちらの使い道は今のところ見つかっていない。

前置きがすっかり長くなりました

 さてさて。私とN氏はアモーンを連れて、横浜のランドマークプラザへ買い物に出かけた。といっても、この3人の中に、誰1人として買い物好きはいない。むしろ苦手。そんな我らがどうしてノコノコやってきたかというと、アモーンのお土産を物色するためなのであった。

 お土産リストは多岐にわたっていたが、まずは中でも、もっとも重要な任務を遂行することにした。「これを買わずにタイへは帰れない」(アモーン談)というそれは、アモーンの次男(4歳)からのリクエスト、「振ると芯が出るシャーペン」である。

というわけで、さっそく5階の有隣堂へ向かった。ところがここで、ちょっとした、しかし無視することのできない事態が起きたのだった……!

(つづく)

今週の春口さん

 ガミー氏との打ち合わせの日は、霞が関をあちこち散策しました。ガミー氏が週刊誌編集部時代に写真を借りにたびたび訪れたという通信社のビルや、裏道にひっそりと佇むなんだかすてきなケーキ屋などなど。けっこう古い建物が多くて、あちこちで改修工事が行われていました。

 それにしても喫茶kasumi。入るなり、有無を言わさぬタイミングで「コーヒー2つね?」とマスターが注文を決めてくれるという、気の利く(?)、そしてなかなか味のある店でした。霞が関ビルもあちこち改修中でしたが、ぜひあのまま存続してほしいものです。

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プロフィール

春口裕子
1970年横浜生まれ。慶応義塾大学卒業後、損害保険会社に入社。広報の仕事でエッセイを書きながら、「やはり物書きの道へ」と心を決める。旅行と甘いものが好き。01年よりOLを辞め、執筆業に専念。同年、ホラーサスペンス大賞で『 火群の館 』(新潮社刊)が特別賞受賞。著作に『 女優 』(幻冬舎)。

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