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ああ、焼きイモ

2008年1月9日

  • 筆者 春口裕子

まずは新年のご挨拶を

 すでに仕事も始まって、「正月気分などとうに抜けたわい」という方も多いと思いますが、本年1回目のぽれぽれサファリということで、まずはあけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、この時期の楽しみといえば

 この時期、特においしく感じるものといえば、鍋にみかんにホットココア。カニにカキにきりたんぽ。

 そして焼きイモである。

 あつあつのおイモをぱかっと折ると、立ちのぼる湯気。断面はホクホクの黄金色で、そこにバターを落として、とろんとトロけたところをパクッといただく。

 「食物繊維いっぱいだしぃ、ヘルシーだしぃ」とか言い訳しながら、1人ひそかにいただくのもイイが、なんといっても甥っ子コタロー(3歳)と食べる焼きイモは格別。彼は焼きイモが大好きなのだ。

 もみじのような手でおイモを持つコタロー。ううかわいい。おおかわいい。どれどれ、おばちゃんがふうふうしてあげましょ。ふーふーふー。

 「まだ熱い?」と、こっちを見あげるコタロー。そうねそうよね早く食べたいわよね。おばちゃん急ぐわ。ぶふーぶふーぶふっ……。おっと酸欠。

 もちろん、真ん中の一番おいしいところをコタローにあげる。おばちゃんは先っぽの極細のところ――糸みたいなのがゴソゴソ集っているところでよくってよ。それがわんさか歯に引っかかったって構わないの。ああ、大泉逸郎の『孫』ならぬ、『甥』をリリースしたいぐらいだわ。

バスを待っていたら…

 先日、ほげーっとバス停に立っていたら、耳慣れた“あの旋律”が聞こえてきた。

 ♪石焼〜きイモ。焼きイモ〜。

 見れば、焼きイモ売りの白いトラックが、煙を吐きながらゆっくりゆっくりこっちへやってくるではないか。

 ぬう、どうする。何本か買うか。

 というのもこれからコタローに会いに、妹の家へ行くのである。

 ただ、ここから妹宅へは1時間半ほどの道のり。辿りつくころにはすっかり冷めてしまうであろう。だとすればいつものように、向こうのスーパーで買ったほうが……。

 迷っていると、焼きイモ屋はさらなる追い討ちをかけてきた。

 ♪ほっかほか〜のポッカポカ。焼きたて〜イモはいっかがっです。

 なんという陽気な節回し。有効的なスタッカート。

 やっぱり買おう。

 そう決意し、白トラックの前に踊り出ようとしたとき、運転席のオジサマの顔が見えた。

 何かあったのだろうか、ひどく機嫌が悪そうだ。陽気な歌と対照的なけだるい表情で、けだるくハンドルを握っている。

 目が合った。車が減速した。「買うの、買わないの」という鋭い眼光が飛んできた。

 私は大きくかぶりを振り、じりじりと後ずさりした。

 やっぱりスーパーで買おう……。

そしてけっきょく焼きイモは

 「で、おイモは?」

 出迎えてくれた妹とコタローに、おずおずと私は答えた。

 「それが……売り切れで……」

 がっくりと肩を落とす妹とコタローであった。

 ああ、焼きイモ。

 スーパーであれ焼きイモ屋であれ、食べたいときに巡りあえない、もどかしい食物である。

今週の春口さん

この原稿を書いていたらどうしても食べたくなって、近所のスーパーに買いに走ってしまいました、おイモ。

あったあったありましたよ。むふふおいしい。冬の風物詩ですねえ。

プロフィール

春口裕子(はるぐち・ゆうこ)

 1970年横浜生まれ。慶応義塾大学卒業後、損害保険会社に入社。広報の仕事でエッセイを書きながら、「やはり物書きの道へ」と心を決める。旅行と甘いものが好き。01年よりOLを辞め、執筆業に専念。同年、ホラーサスペンス大賞で『 火群の館 』(新潮社刊)が特別賞受賞。著作に『 女優 』(幻冬舎)。近著『ホームシックシアター』(実業之日本社)も好評発売中。

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