2008年9月4日
「会社帰りには必ずコンビニに寄る」という友人。
「ドンキホーテは毎日行っても飽きない」という後輩。
「薬局になら何時間でもいられる」という妹。
落ち着く場所というのは人それぞれ。私は、文房具屋さんと喫茶店かな。
逆に“落ち着かない場所”もあって、私にとって、家具屋はその一つだ。
これにはたぶん、小さいころ近所にあった家具屋さん(今はもうない)が影響しているにちがいない。いつ行っても、人っ子ひとりおらず(店員の影すらない)、しんと静まりかえり、明るくだだっぴろい空間に、家具がずらっと並んでいる。
分け入っても分け入っても家具の山。そのあちこちから、こんな声が聞こえてくるようであった。以下、出演者3名(3棹)。
「暇じゃー。暇で暇で死にそうじゃ」
「おい、桐箪笥5号は息をしているか?」
「えーと、してるみたいです」
「暇じゃー。誰でもいいから買うてくれー」
「ところで新入り、ここの居心地はどうだ」
「んー、まあ、しょせんここは仮の宿ですから」
「はっはっは、勇み足は禁物だぞ。特に我々“現物”はな」
「そういうあなたはここにはどれぐらい?」
「かれこれ2年になるか」
「そんなに!」
「まあ住めば都といってね、ここはここで悪くな……おや。客のようだ」
「どうせまた冷やかしじゃー。いやじゃー。暇じゃー」
「いやあれはイケルかもしれんぞ」
「かもしれませんね」(キリリと身なりを正す)
そう。あの、“なんとなく待ち受けられてる感じ”が苦手なのである。
その苦手な家具屋へ行くことになった。ベッドを買うのである。
これまで和室に布団を敷いて川の字で寝ていたが、「物置と化している寝室を生かそう。また、物置台と化しているシングルベッドも生かそう」(N氏)ということで、一台買い足すことにしたのだ。
家具屋に向かう車中で、どういうものにするかという話になった(事前にしておけよという感じだが)。N氏がハンドルを握りながら言った。
「シングルベッドをもう一つくっつけるか」
「ムリムリ」思わず身を乗りだしてしまった。「小丸が夜中にかなり動くし、なによりアナタ、ご自分の寝相をご存知?」
右に左に大回転。夜中にどーんどーんと音がすると思ったら、N氏がふすまに激突しているのであった。
「しかし最近はめったに激突しない」なぜか得意げのN氏である。
「それはこっちに幅寄せしてるから。おかげでこっちチーム(私と小丸)の手狭感ときたら」
「あ、そう」
「そうなんです」
さらに言うなら、N氏は枕の使い方も変だ。仰向けで寝ているとき(熟睡中)に、顔の上に枕をのせていたりする。
「それに関しては特に迷惑はかけていないはずだ」
ま、そうですけど。
けっきょくクイーンサイズのを買った。
売り場では、茫洋と広がるベッドの海に少々ひるんだが、もよりの店員さんに収納重視であることを告げたら、とたんに2つに絞られた。床板が油圧でぐあっと持ち上がって、ベッド下にじゃんじゃか物を入れられるタイプのもので、だからあんまり迷わずに決めることができた。
それがつい先日家に届いた。
売り場では、たくさんあるベッドのうちの一つだったのに、我が家におさまったとたん、「ウチのベッド」って感じでいとおしくなるのが不思議である。
そのベッドでグースカ寝ているN氏と小丸を、私は毎夜まじまじと見る。そして心の中で、シンクロナイズドスイミングか、と突っこむ。
ぴったりそろった手足の角度に、体の向き。同調性、文句なし。
時に左右対称の動きを見せるなど、ベッド全面を広く使った構成もなかなかよい。
なにより、軽くイビキをかきながらの、自然な演技。アーティスティックインプレッション、高得点である。
つくづく思う。DNAってすごいな。寝相もプログラミングされてるんだろうか。
だとしたらいつか、“顔に枕”のあの演技も?
それはちょっと見てみたい気がする。
雨が落ち着いたと思ったら、この暑さ。体調管理に気をつけたいものです。
1970年横浜生まれ。慶応義塾大学卒業後、損害保険会社に入社。広報の仕事でエッセイを書きながら、「やはり物書きの道へ」と心を決める。旅行と甘いものが好き。01年よりOLを辞め、執筆業に専念。同年、ホラーサスペンス大賞で『 火群の館 』(新潮社刊)が特別賞受賞。著作に『 女優 』(幻冬舎)。近著『ホームシックシアター』(実業之日本社)も好評発売中。
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