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気になる“子連れ歓迎度”

2009年9月24日

  • 筆者 春口裕子

 小丸はとにかく屋外が好きだ。

 裏を返せば、屋内が嫌いということである。

 少し前に受けた1歳半検診では、役所の建物に入った瞬間に大泣きで、その後2時間、ずっと泣き通しだった。

 電車での移動もかなり厄介で、「ぐずりだしたらすぐに下車→あやして再乗車」を繰り返すため、だいたい通常の所要時間の2倍ほどはかかる。先日など、1時間で着くはずのところに3時間半かかり、さすがにぐったりであった。

 バスは怖くて乗れない。

 スーパーでは、ほとんど駆け抜けるようにして買い物をする。

 公共の場ではいつも「お騒がせしてすみません」「ご迷惑をおかけしてすみません」と肩身の狭い思いである。

 だから、そんなときに「あらあらどうしたの」と声をかけてもらったり、「手伝いましょうか?」と手を差し伸べてもらったりすると、本当に嬉しい。

 歩いていて「ベビーカー可」「子連れ歓迎」の店に出くわしたときなんかも同様だ。「こっちこっち。こっち来てちょっと休みなよ」と手招きされているような、ほっとした気持ちになる。

気兼ねナシ。味気もナシ

 「子連れ歓迎」を標榜しているお店を見つけると、つい入ってみたくなる。

 入ると、客のほとんどが子連れだったりする。

 店員さんは押しなべて親切で、また子供好きでもあるようだ。

 その空気が伝わるのか、小丸もわりあい落ち着いた様子を見せる。

 おかげで、「のんびりゆっくり」とまではなかなかいかなくても、「お騒がせして……」と身を縮める回数が大幅に減る。帰り際には「また来よう」と思う。

 が、たまに、ハズレのお店もある。

 たとえば、このまえ友人とランチをしたレストラン。

 そこはプレイルーム付きで、保育士が常駐しているという、システム的には“大歓迎”のお店であった。なぜイマイチだったかというと、店員さんたちに歓迎ムードがまったくなかったからだ。5人ほどいた店員さんの、全員が全員、ともすれば迷惑そうですらあった。

 まあ周りはみんな子連れで、気兼ねなくお昼を食べられたことに違いなく、その点だけでもありがたかったわけだが、味気もないというのは、やっぱり寂しいものであった。

子連れ歓迎の宿

 そんなことがあった後、南房総に旅行に出かけた。

 そして、白浜の、子連れ歓迎を謳う宿に泊まった。

 先のレストランの一件もあり、歓迎の二文字にやや慎重になっていたのだが、部屋に入ってまず感じたのは、子連れということで生じる客の不便を「少しでも少なく」という気遣いだった。部屋にオムツ用ゴミ袋が用意されていたり、育児グッズの貸し出し品目が多岐にわたっていたり。仲居さんが、「割れそうなものはこちらに上げておきますね」と、急須や湯のみをあらかじめ、小丸の手の届かない場所に移してくれたりもした。

 お茶を飲んで一息つき、館内を歩きまわってみると今度は、「くつろいでほしい」という思いをあちこちに見た。ベビーマッサージやアロマエステといったわかりやすいサービスはもちろん、それらは宿の細部にあった。

 フロントや廊下に置かれている香炉や生花。

 今日の疲れが取れますようにという、メッセージ付きの足裏用の冷却シート。

 お風呂上がりにどうぞと用意された紫蘇ジュースは、女将の手作りで、かつ自家栽培らしい。

 宿の人と会話を交わしてみると、いよいよ「お父さんもお母さんもお子さんも、みんな楽しんでいって」という気持ちが伝わってきた。

 一番心配していたのは食事だったが、用意してもらったテーブル付きベビーチェアに座って、小丸は実によく食べた。配膳の方がちょくちょくやってきては、小丸の名前を呼び、小丸に話しかけてくれるので、グズり方もふだんよりは軽かった。

 そしてどの料理も、この宿の思いがぎゅうと詰まったような、温かい、ほどよい、おいしいものだった。

今日もスーパーを駆け抜けながら

 子連れ歓迎といっても、内実(歓迎度)はまちまちで、こればっかりは行ってみないとわからない。これからも、あの宿みたいな歓迎度の高いところに多く巡りあいたいものだが、さてどうだろう。

 そんなこんなを、スーパーを駆け抜けながら今日も思うのであった。

ぽれぽれメモ

今回泊まった宿・・・季節の宿「紋屋」。その週末はほぼ満室。小丸より少し小さい、赤ちゃんを連れたご夫婦が多く訪れていました。貸し出しグッズは、昼寝用布団、哺乳瓶消毒パック、調乳用適温ポット、ベビーバスチェア、食卓下敷き用シートなどなど。小丸はコルク製の積み木を借り、ご機嫌で遊んでいました。

今週の春口さん

今回車で行ったのですが、往路も復路も小丸が寝てくれ、大変助かりました。移動時のストレス解消に、自転車購入も考えている今日この頃。サイクリングにはこれからいい季節ですが、しばらく乗っていないので少々(いやかなり)不安です。

プロフィール

春口裕子(はるぐち・ゆうこ)

 1970年横浜生まれ。慶応義塾大学卒業後、損害保険会社に入社。広報の仕事でエッセイを書きながら、「やはり物書きの道へ」と心を決める。旅行と甘いものが好き。01年よりOLを辞め、執筆業に専念。同年、ホラーサスペンス大賞で『 火群の館 』(新潮社刊)が特別賞受賞。著作に『 女優 』(幻冬舎)。近著『ホームシックシアター』(実業之日本社)も好評発売中。

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