秋晴れの日曜日。
芋掘りをしに、三浦海岸は津久井浜観光農園へやってきた。
妹一家と、じいじばあば――要するにいつものメンバーが一緒である。
現場は畑。受付も畑。「こんにちは〜」とおばちゃんが迎えてくれた。
看板に5株900円とあるが……1株ってどれぐらい?
おばちゃんに聞くと、
「そうね〜、ゾロゾロってのもあるし、チョロチョロってのもあるし」
とのことだった。ですよね。
子供3人(大中小)が楽しめればよいので、とりあえず10株分を申し込んだ。
「はいこっちよ〜」おばちゃんに誘われて、当該畑へ向かう。
昨日の大雨でぬかるんでいるだろうと、万全を期して長靴を履いてきたのだが、まったくの不要だった。
地面は乾いてカラッカラ。雨の面影、みじんもなし。
この水はけの良さ、そして日当たりの良さが、サツマイモには大事であるらしい。
「ほいじゃ、ここからここまでね〜」
おばちゃんが、我らの区画を指し示した。
乾いた土から、ちょろりちょろりとツルが覗いている。全部で10本。葉や茎は、栄養が行ってしまわないように既に切ってある。
大中小は早速、畑にしゃがみこみ、ツルの根元を手で掘りはじめた。
「いっぱい掘れるといいね〜」とおばちゃま。「ツルを強く引っ張らないようにね。切れちゃうからね〜」
了解です〜。
どれがゾロゾロで、どれがチョロチョロか。
目当ての物が土に隠れている芋掘りは、「♪何が出るかな」の楽しみがある。
ホリホリ。ホリホリ。
小丸は芋掘り初体験だ。黙々と掘っていると、ほどなくしてサツマイモの、赤紫色が見えた。
「お芋ちゃん!」
嬉々として、周辺の土を掻き出すようにして掘り進む。
次第に露わになるお芋ちゃん。
だが、まだまだ全貌はわからない。
露出しているわずかな部分から、奥ゆかしく地中に隠れるお芋ちゃんの、姿かたちに思いを馳せてみる。
ラグビーボールのようなこの頭頂部から推し量るに、やっぱりずんぐりむっくり体型だろうか。はたまた、似ても似つかぬスレンダーボディか。
ホリホリ。ホリ。
日々砂場で鍛えている小丸も、乾いた硬い土に苦戦しているようだ。
頑固一徹、荒ぶる大地といった風合いの土である。
「おうよ。砂場の軟弱なやつらと一緒にしてもらっちゃ困るね」
そんな声が聞こえてきそうな。
「こちとら、半端な気持ちで土業(?)やってんじゃねえんだよ」
掘れば掘るほど、骨太な生き様を、指の先に感じるのであった。
さて。時折シャベルの力を借りつつも、大中小が健闘した結果、スタンダードなサツマイモ型のほか、ゴボウ以上にゴボウ型、バナナ模様のかぼちゃ型、桃型もしくはお尻型など、様々なサツマイモが、それはそれはたくさんとれた。
芋掘りを終えると、どこからか焼き芋の匂いがした。おいしいんだよなあ、秋冬の焼き芋って。
焼き芋は江戸時代に、「八里半」という名で誕生したという。
それまで蒸して食されていたサツマイモを、焼いてみたら栗に似ていたということで「九里(栗)にはちょっと及ばない」と名付けられたらしい。
百に一つ足らない白寿、みたいな。
しかし今時のお芋は、栗より甘いのあるからな。
そうさな、焼き芋もいいな。しかし今夜はやっぱり芋天か。
帰りの電車内であれこれ考えているうちに、小丸がすっかり眠りこんでしまった。
仕方なしに抱きかかえ、人が行き交う横浜駅を歩いた。
長靴(泥付き)で、一泊分の大荷物を持って、収穫した芋入り袋を提げて。
18キロの幼児を抱えて。ヨレヨレと。
家に帰り着くまでが遠足、そんな言葉がよみがえった。
同農園の芋掘りは、残念ながら今年はすでに終了した。みかん狩りが月内いっぱいで、来月20日頃からは、イチゴ狩りが始まるという。もうそんな季節なのだなあ。
持ち帰ったサツマイモは、その日の夜は天ぷらにして、翌日は焼き芋にして、翌々日は友人宅でスイートポテトにして食べました。まだまだ大量に残ってます。さてどうしよう。
1970年横浜生まれ。慶応義塾大学卒業後、損害保険会社に入社。広報の仕事でエッセイを書きながら、「やはり物書きの道へ」と心を決める。旅行と甘いものが好き。01年よりOLを辞め、執筆業に専念。同年、ホラーサスペンス大賞で『火群の館』(新潮社刊)が特別賞受賞。著作に『女優』(幻冬舎)。近著『ホームシックシアター』(実業之日本社)も好評発売中。
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