昨年12月に国交省が車両を使って実施した輸送実験。感染防止のため必要な間隔をとると、ラッシュ時の約2割しか乗れないことがわかった=東京都足立区
大流行すれば国内で最大約64万人が死亡するとされる新型インフルエンザの対応に、鉄道会社が苦慮している。満員の通勤電車は主な感染経路になる可能性があるが、安易な乗車・運行制限は混乱を招く恐れがある。流行時に出勤できる乗務員数や旅客需要の見きわめも難しく、行動計画づくりは進んでいない。
「電車の運行って勝手に止めてもいいんですか?」「感染で欠勤者が増えれば、車両の定期検査などに人を割けないのですが……」
1月21日に国土交通省近畿運輸局(大阪市中央区)であった新型インフルエンザに関する説明会。近畿に本社を置く鉄道33社が参加し、同省の担当者に質問をぶつけた。
厚生労働省は昨年7月、企業や自治体に対し、大流行時には従業員の4割が欠勤するという前提で、最低限の事業を続けるための「行動計画」をつくるよう求めた。しかし、国交省によると、鉄道会社は他の企業と比べ計画づくりが遅れている。
流行時に満員電車を走らせるわけにはいかず、行動計画の基本は乗客数を減らすことになる。だが、それには在宅勤務や時差出勤、休校といった企業や学校の協力が必要で、鉄道会社だけで対応できる範囲を超えているからだ。
国交省によれば、諸外国にも行動計画づくりの先進事例はみあたらず、手探りで進めるしかないという。
JR西日本は昨年11月、社内に「新型インフルエンザ準備検討チーム」をつくった。09年度中の行動計画の策定をめざすが、前提となる流行時の旅客需要の予測が難航している。担当者の頭にあるのは、新型肺炎SARSが猛威をふるった03年の中国の光景だ。「感染を恐れて電車はガラガラ。日本でもそうなるかどうか」
JR西の乗務員は約7千人。厚労省の想定通り4割が欠勤するとなると、「本社勤務の運転士経験者らを現場に出しても、列車本数をかなり間引かないと運行できない」。だが、経験者をどれだけ投入できるのかの見きわめも難しく、流行時のダイヤ編成を検討できていない。
他社も状況は同じだ。「従業員用の感染予防マスクや消毒薬の備蓄ぐらいしかできることがない」(近鉄)、「具体的な対策の検討に入れていない」(JR東日本)という。ある社の幹部は「国交省の指示に従うしかない。感染状況に応じた対策を早急に細かく示してほしい」と受け身の姿勢だ。
国土交通政策研究所(東京)によると、近畿で最も混雑するのは大阪市営地下鉄御堂筋線の梅田―淀屋橋間の平日午前8時台。約5万6600人の乗客がいる。政府のガイドライン案によると、せきやくしゃみによる感染防止には乗客同士の間隔を1〜2メートル開ける必要があるが、これに従うとラッシュ時の約2割しか乗車できず、同区間では1万1千人余りしか乗れない計算になる。
また流行時には、社会基盤を維持する目的で、医療関係者や電気、ガス事業者らを優先的に乗車させる必要性も指摘されている。国交省が乗車制限の可否について聞いたところ、鉄道各社の担当者は「どう制限し、乗客を選別したらいいのか。そのための要員をどう確保するのか」と悲鳴を上げたという。同省危機管理室も「乗車制限は非現実的」と認め、「流行時には、自治体や国が外出自粛やマイカー利用を呼びかけるしかないだろう」としている。