草走る、ボゼが来た 悪石(あくせき)島 (鹿児島県)2006年11月03日 鹿児島から南へ約300キロ、太平洋と東シナ海の荒波が交わる海上の島に、年に一度、全身に草をまとった仮面神が現れる。草の神の名は「ボゼ」。旧暦の7月16日、お盆の最終日にあたるこの日、島内は異様なほどの興奮にわきかえった。
◇ 人影の少ない港から、切り立ったがけの急斜面を登る。モヤモヤとした亜熱帯の森の中に集落はあった。どこの家も屋根が低い。森の中心に「テラ」と呼ぶ広場がある。島の聖域だ。 「ボゼが出た!」 とがった頭、飛び出した眉とまぶた。まん丸く見開いた眼球、長い鼻と耳、あごがはずれるほどガッと開けた口に乱ぐい歯。顔の造作すべてが、赤と黒の縦じま模様に塗り分けられている。首から下はビロウの葉に覆われている。ボゼは3人いた。 テラを出て、集落の細い道を駆けていく。草がザワザワと揺れる。向かった先は、小さな公民館。そこで、島民総出の盆踊りが催されていた。太鼓の音とともに、ボゼが乱入した。悲鳴が上がる。猛々(たけだけ)しく、威嚇しながら襲いかかっていく。島人らが逃げ惑う。子どもが引きつったように泣き叫んで、母親にしがみつく。ボゼは、平穏な日常性を引き裂くように暴れ回った。 修羅場は約20分。ビロウの葉を散らして、ボゼが去っていく。村人たちの顔は、厄が落ちたように晴れ晴れとしていた。 ◇ ボゼは悪魔払いの神だといわれる。語源は、手足などにできる悪性の腫れ物。古代に海を渡ってきた来訪神という説がある。年に一度、手荒く島の人たちと交わり、災いやけがれを持ち去っていく。 ボゼがテラに戻って面を脱いだ。汗びっしょりの、島の若者の笑顔がさわやかだった。 (文・イラスト 遠藤ケイ) 見どころ
見どころ九州南端と奄美大島の間にあるトカラ列島のほぼ中央。有人、無人12の島々で十島(としま)村を形成している。島名の由来は諸説あるが、不吉な名を付けることで外敵を寄せ付けず、島を守る意味があるという。09年7月22日午前、悪石島沖で今世紀最大といわれる皆既日食が観測できる。継続時間の目安は6分30秒前後。「世界的イベント」に向け、人口700人足らずの村をあげて来訪者の受け入れ対策を検討している。
●湯泊温泉東シナ海を眼下に眺める露天風呂がある やすら浜港から徒歩20分。入浴料200円。
●海中温泉海岸の岩の間からわき、海水と混ざり合い適温となる。無料。
●砂蒸し温泉地熱利用の天然蒸し風呂。砂場に毛布を敷いて横になる。美容効果もあるという。無料。
●御岳(みたけ)標高584メートル。山頂からトカラ列島の諏訪之瀬島、臥蛇(がじゃ)島、中之島望める。
●ノンゼ岬目印は白い灯台。太平洋を一望できる。
◆案内十島村役場 問い合わせは099・222・2101 悪石島出張所 問い合わせは09912・3・2063
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