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口上に続いて、鋭い拍子木の音。と同時に、天井に描かれた大きな竜が、ちょうど顔のあたりから、シュワシュワシュワ――澄んだ柔らかな響きを発し始めた。竜が、鳴いている。本当にそう思えた。 ◇ 「昔は手を打っていたので、もっと低い音がした。鳴き声にもすごみがあって、いかにも竜の声のようでした」。日光山輪王寺執事の今井昌英さんが言う。 拍子木を使い始めたのは20年ほど前からだ。観光客は今、堂内中央の漆塗りの床面を取り囲む一段高くなった所で、案内人が打つ拍子木の音に耳を傾ける。多くの人が一度に竜の頭の下には行けないし、各自がてんでんばらばら手をたたいたら、確かに竜も困ることだろう。 最初から音の効果を意図して造られたのか、誰かがこの現象に偶然気づいて「鳴竜」と命名したのか。史料が残っていないので分からない。一般に公開するようになったのは明治の初めだ。四十余年前に火災に遭い、天井の復元時には鳴竜をも意識していたことははっきりしている。 ◇ 拍子木の打ち方や聴く位置によって、音は微妙に変わる。ルルルルルと軽やかに鳴くときもあれば、ビョビョーンとほえることもある。除災開運の吉祥音とのことだが、鳴き方で御利益の中身も違うのだろうか。 余韻に浸りつつ外に出る。目に入るのは境内のあちこちに彫られた様々な動物たち。さてこれは、どんな声で鳴くのだろう。
(04/28)
観光案内
◆世界遺産の信仰地徳川家康をまつる「東照宮」と、「輪王寺」「二荒山神社」のある信仰地一帯を指し「日光山内」と呼ぶ。99年には、これら二社一寺の建造物を中心とした文化的景観が、世界文化遺産に登録された。「鳴竜」があるお堂は、東照宮本地堂、別名輪王寺薬師堂。竜の絵は、もとは狩野永真安信の作だったが、61年の火事で焼失後、堅山南風の創作に。二社一寺共通券1000円、高校生600円、小中学生400円。午前8時〜午後5時。問い合わせは輪王寺(0288・54・0531)。
◆日光ゆば8世紀、輪王寺の前身が建立されたのを機に、一大霊地として栄えた日光。全国から修業に集った僧や修験者を支えたのが、栄養と保存に優れたゆばだった。薄さが特徴の京都の「湯葉」に対し、日光の「湯波」は幾層にも巻き上げる。市内の日光ゆば製造日光工場(TEL0288・26・4890)では、見学((日)と(祝)は除く)、製造体験(有料)可。午前9時〜午後3時。1週間前までに要予約。不定休。
◆滝めぐり「日光四十七滝」といわれるように、97メートルもの絶壁を落下する「華厳ノ滝」、水しぶきが霧状になる「霧降ノ滝」など多数点在。
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