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沖に見える神島は、三島由紀夫の小説「潮騒」の舞台となった。こちらは漁村の無垢(むく)な男女の、あまりに健康的な恋の物語だった。たくましい青年の「若々しい血潮の流れと調べを合わせているよう」と描かれたのが、潮騒の音だ。 潮が満ちてくる時に、波が騒ぎ立てる音。辞書にはこうある。しかし地元の人たちに聞いて回ると、彼らが「潮騒」と呼ぶ音は、実に多様な表情をしていることに気づく。波打ち際の音、海鳴り、波が引く際に小石にあたる音、潮の香りを含む海全体の気配……。神島出身の元船員、小久保勝彦さん(68)によると「流れの速い潮が岩場に当たる音」になる。海が荒れた時は波が砕ける音、凪(な)いでいれば川の清流にも似て聞こえる、という。 ◇ 波打ち際を歩いてみた。海面が濃紺と明るい水色に染め分けられ、潮目ができているのが見えた。そしてザーザーという、増水した大河のような音が耳に入ってきた。清流という感じではないが、ただの波の音とも違う。やがて潮が満ちてきて、その音が浜を包み込んだ。まさに、「若々しい血潮」のようだ。 小説では、若い2人の恋が成就したとき、潮騒は「海の健康な寝息のように規則正しく、寧(やす)らかにきこえた」とある。そんな響きも、聞いてみたくなった。 (07/21)
観光案内
◆「潮騒」の舞台三島由紀夫の小説「潮騒」の舞台となったことで知られる神島(三重県鳥羽市)。作品中で、島から見た風景を「渥美半島の端(はな)が迫っており」と表現しているように、愛知県・渥美半島突端の伊良湖岬近くに位置する。周囲約4キロの孤島で、人口約500人。古くから漁業が盛んでタコやエビの好漁場にも。伊良湖港から観光船約20分で神島へ。1日往復各4便。片道1000円、11歳以下500円。問い合わせは伊良湖旅客ターミナル(0531・35・6631)。
◆恋路ケ浜伊良湖岬の灯台から、太平洋に沿って東に約1キロの海岸。島崎藤村の詩「椰子(やし)の実」誕生のエピソードも伝わる。「名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実一つ」と始まる詩は、親友の民俗学者・柳田国男が漂着していたヤシの実を恋路ケ浜で拾った、という話を素材に藤村が創作したもの。後に曲が付けられ、広く知られる歌に。浜近くの高台には、「椰子の実」記念碑もたつ。田原市観光協会(TEL0531・23・3516)では、「遠き島」にみたてた沖縄県石垣島から、黒潮にのせてヤシの実を流す試みも続けている。
(2006年7月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください) |
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