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よくばり湯の旅

河原を掘ってマイ湯船 川湯温泉(和歌山県)

2007年10月12日

 その名の通り、川底からお湯がわき出る珍しい温泉。山あいを流れる大塔(おおとう)川の河原の一部は、掘ればそこが湯船になる。

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「気持ちいい」と自分で掘った露天風呂を楽しむ=田辺市本宮町の川湯温泉で

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【所在地】田辺市本宮町川湯。【交通】新宮駅からバスで約1時間、紀伊田辺駅、南紀白浜空港からは1時間半〜2時間。阪和道南紀田辺インター(11月11日開通)から約1時間。【泉質】炭酸水素塩泉。

 スコップを手に掘ってみる。川岸に大岩がせり出した2カ所のポイントが即席の温泉場だ。昔の地震でできた断層が地表までせり上がったため、深く掘らなくても温泉がしみ出してくる。

 30分ほどで穴ができた。服を脱ぐのももどかしい。つかって掘っての繰り返し。背中にあたる石を取り除くのも、快適な風呂づくりには欠かせない。平らな石を枕代わりに体を横たえれば、足に、肩に「熱」を感じる。源泉の湯温は70度を超える。川の水を引き込んでぬるめてみるが、いよいよ熱くなったら、川へドボン。ゆったりした流れに身を任せていると、温かい水の塊にぶつかった。

 11月になると、様相は一変する。地元の熊野本宮観光協会が重機で川底をかき、巨大露天風呂を造成する。長さ50メートル、幅15メートル、深さ60センチの「仙人風呂」づくりは、10日間を費やす大工事だ。温度は42度に保たれ、そのための湯守もいる。手間も費用もかかるが、それでも入湯料はタダ。

 「ここは昔から熊野古道を歩く参詣(さんけい)者に、地元の人が振る舞い湯をしてきた地。お金をもらう気はない」と、栗栖敬和会長。23年目となる冬の風物詩は、来年2月まで。休日になると、大阪方面からの日帰り客もやってくるという。地底からの贈り物には、土地の人のもてなしの心も溶け込んでいた。

(ライター・岩田知久 撮影・塚原紘)

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●川湯温泉 11軒のホテル、旅館はすべて源泉かけ流し。仙人風呂は11月1日(木)〜来年2月29日(金)、午前6時半〜午後10時。荒天時は問い合わせを。

●世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」 和歌山・奈良・三重の3県にまたがる「熊野三山」「高野山」「吉野・大峯」の山岳霊場とそれらを結ぶ参詣道。04年7月、日本で12番目に登録された。川湯温泉のある本宮町には熊野本宮大社があり、中辺路などの4本の熊野古道が走る。

▼湯の峰温泉「つぼ湯」 川湯温泉から車で約10分。江戸時代、熊野詣をした庶民たちの「湯垢離(ゆごり)場」として栄えた温泉地。つぼ湯は岩風呂の公衆浴場で、参詣道の一部として世界遺産に登録。温泉としては国内初。750円(30分交代制)、12歳未満450円。午前6時〜午後9時半。

【問い合わせ】問い合わせは熊野本宮観光協会(0735・42・0735)。

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(2007年10月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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