「銀の道」としてにぎわった山道は今、人影を見ることはほとんど無い。苔むした石段が落ち葉に埋もれていた
【所在地】大田市温泉津町温泉津【交通】出雲空港からバスで出雲市駅まで25分、同駅からJR山陰線で温泉津駅まで約1時間。車は浜田自動車道大朝インターから約1時間。【泉質】塩化物泉
世界遺産になって注目を集めた石見銀山。銀の積み出し港として栄えた温泉津(ゆのつ)の港や温泉街、銀山と港を結ぶ旧道「銀山街道」も世界遺産だ。400年前の世界を感じようと、街道を港まで歩いた。案内所で地図を求めると「歩くんですか?」と驚かれた。険しい山道を含む約4時間の行程。無理もない。
世界遺産登録後の人出でにぎわうのは、今でも通り抜けできる銀山跡「龍源寺間歩(まぶ)」まで。人通りが途絶えた渓流脇をたどると、たちまち息の切れる急坂だ。峠近くではるか日本海が見える。銀は人が背負い、馬も使って運んだらしいが、かなりの難所だったろう。
峠を越えると古い石段や石畳の道も。馬子たちが将棋を指したという岩、安全を願った道標や塔が点在する。夕暮れの港でおにぎりをほおばり、数十艘(そう)もの船でにぎわった姿を思う。
港から温泉街への旧道はすっかり荒れているが、住居跡らしき石積みが往時の栄華を残す。陶磁器の破片が積み重なる中に、ほとんど欠けていない古めかしい陶器のふたを見つけた。いつの時代のものか、想像がかき立てられる。
16世紀にアジアに到着した西洋人は、世界の3分の1の生産量を誇った日本銀を中国に持ち込み交易した。彼らは、中国の陶磁器や絹などを世界中に運び、経済の世界化のスイッチを入れる。その日本銀の多くは石見銀山産だった。
いわば温泉津は、グローバル経済の点火点。それが日本唯一の産業遺跡としての世界遺産、石見銀山の価値と言える。
グローバル経済を生んだ銀の担ぎ手たちも、その疲れを癒やしたのだろうか。歴史ある湯で過去に思いをはせた。 (ライター・田代温 撮影・渡辺瑞男)
◇
●温泉津温泉 1300年前の書物に「温泉津(=温泉のある港)」との記述があるという。十数軒の宿があり、国指定史跡の趣ある町並みが続く。△元湯 温泉街中心の立ち寄り湯。[前]5時〜[後]9時。300円、小学生以下150円。電話長命館(0855・65・2052)△薬師湯 1872年の地震後にわき出したので、「新湯」「震湯」とも。カフェも隣接。[前]5時〜[後]9時。300円、小学生以下150円。電話0855・65・4894△宿泊案内 電話大田市観光協会温泉津支部(0855・65・2065)。
●石見銀山 銀山跡一帯と古い町並みが残る鉱山町が国の史跡。マイカー乗り入れ規制があり、近くの駐車場からシャトルバス△龍源寺間歩 約300メートルの唯一通り抜けできる坑道跡。400円、小中学生200円。電話0854・89・0347。△石見銀山資料館 採掘道具などを展示。500円、小中高生200円。電話0854・89・0846。
◇
(2007年12月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)