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平和を思うウサギの島、せと温泉(広島県)

2008年5月23日

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写真人慣れしたウサギが餌をねだって集まる写真休暇村大久野島の湯船からは夕焼けに染まった海が見下ろせる=竹原市忠海町、渡辺瑞男撮影地図【所在地】竹原市忠海町大久野島【交通】山陽新幹線三原駅で呉線に乗り換え、忠海駅まで約20分。忠海港からフェリーで約10分。【泉質】放射能泉

 「あそこにおったでー。ほら、木の下んとこ」。船が島に着くなり、子どもたちが息せき切って駆け出す。手にはキャベツまるごと1個。目をやると、そこここに腹を出し、無防備に寝そべるウサギたち。追い回すならまず餌をくれと言わんばかりに、ぶるんと体を震わせる。

 瀬戸内海に浮かぶ大久野島。せと温泉のわく宿泊施設が一つだけで島民はいない。250匹余りが住む「ウサギの島」だ。

 「こんなにいるとは知らなかった。地元じゃ、ずっと『毒ガスの島』って言われてきたから」。会社員の土井一輝さん(44)がつぶやく。かつて島には旧陸軍の毒ガス工場があった。多くの住民が駆り出され、土井さんの祖父もその一人だった。昭和初期から戦後まで、島の存在は地図から消されていた。

 島をめぐると廃虚と化した貯蔵庫や試験場跡が姿を現し、過去の暗い歴史を物語る。ウサギは毒ガスの効果を確かめるための実験用に使われた。

 今いるウサギたちは、宿泊施設がオープンした63年に島に放たれた30匹ほどの子孫といわれる。「実験に使われたなんて、この子たちに罪はないのにねえ」。無邪気に餌を取り合う姿に、かつてのウサギを重ねてみる人も多い。

 夕闇が迫る頃、足元で黒い影がうごめく。2、3匹が駆け寄り、鼻をひくひく。宿に戻り、湯につかっていてもその息づかいが耳に残る。まどろむ脳裏に戦中と今に生きるウサギたちが飛び交った。(文・清土奈々子)

     ◇

●大久野島 瀬戸内の多島美が見渡せる周囲4キロほどの小さな島。中央に小高い山があり、春は黄色のフサアカシア、夏にはピンクの夾竹桃(きょうちくとう)など色鮮やかな花に彩られる。年間通して釣りが楽しめるほか、海水浴場も。運がよければ、海面に青白く光るウミホタルを見ることができる。

●せと温泉 宿泊施設「休暇村大久野島」(電話0846・26・0321)に「大沓(おおくつ)の湯」「小沓の湯」と名付けられた大小二つの内湯がある。日帰り入浴([前]8時〜[後]6時。400円、幼児〜小学生350円)も可。

●大久野島毒ガス資料館 毒ガス製造の悲惨さを訴えようと88年に開館。毒ガス工場の工員が身につけていた作業着や防毒マスクなど、当時の様子を伝える資料を展示。平和学習で訪れる修学旅行生も多い。100円、小学生〜18歳50円。[前]9時〜[後]4時半、年末年始休み。電話0846・26・3036。

     ◇

(2008年5月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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