落ち着いたたたずまいの松田屋ホテルの庭園
【所在地】山口市湯田温泉【交通】山陽新幹線新山口駅から在来線で湯田温泉駅まで約20分、そこから徒歩で約15分。山口宇部空港から車で約1時間。【泉質】単純温泉
今どきの政治家がこっそり会うのが高級料亭なら、幕末のころは静かな温泉宿か。長州藩だった山口市の湯田温泉は、激動の時代に生きた志士たちが集い、倒幕の密議を交わしたといわれる「維新の名湯」だ。
現在は国道沿いに全国展開の飲食店やコンビニが立ち並び、どこにもありそうな地方都市に見える。「情緒がない」と地元の人も嘆く。が、維新の精神を育んだ舞台は、その奥にある。
創業300年余りの「松田屋ホテル」。幕末にあったカエデに高杉晋作が所感を刻んだという木片など、志士たちの遺品や書画が目を引く。志士たちを見守った樹齢約200年のアカマツや、長州藩とともに京都から追放された七卿(しちきょう)の一人、三条実美が手植えをしたというクロマツなどは、風格ある庭園に彩りを添えている。足を止め、胸いっぱい空気を吸い込んでみた。
志士たちが入浴したといわれる「維新の湯」は貸し切り風呂だ。一人で入るのにちょうどいい広さ。体を深く沈め、静かに目を閉じる。今の自分の世代と変わらない若い志士たちの気迫を思うと、ため息が出た。
ホテル近くの高田公園は、親子連れでにぎわっていた。井上馨の銅像が立つ、彼の生家跡だ。実美も滞在したという。
地元の幕末長州科学技術史研究会会長、樹下明紀さん(66)は「公家のお供など、藩外の人も多く出入りした。幕末のスターは氷山の一角。陰には何万人もの知られざる人生模様があったはず」。名もなき維新の功労者たちは、まだこの地に埋もれているのだろう。(文・坂口絵美)
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●湯田温泉 開湯約800年。旅館、ホテルは27軒と、山陽地方で屈指の規模を誇る。無料の足湯は5カ所あり、地元の人の利用も多い。詩人・中原中也の出身地や俳人・種田山頭火ゆかりの地としても知られる。電話湯田温泉旅館案内所(083・922・1811)。
●松田屋ホテル 宿泊客だった司馬遼太郎の著作「街道をゆく 甲州街道、長州路ほか」に登場した。庭園に「西郷、木戸、大久保会見所」と呼ばれるあずま屋も。1泊2食付き2万1000円から。電話(083・922・0125)。
●おおすみ歴史美術館 志士たちの書や書状、絵画など、山口ゆかりの人々の作品を展示。200円。[火]休み。電話(083・932・8862)。
●七卿落ち 1863年8月18日の政変で、薩摩藩と会津藩が尊皇攘夷(じょうい)派の長州藩を京都から追放。同派の公家7人も長州藩へ落ちのびた。
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(2008年6月3日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)